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偉人伝異聞

元ブログより、2016年06月24日に書いた記事を、一部削除して載せます。この時期、夫のオシリが不調でとにかく毎日大変な騒ぎでしたの。デリケートゾーンに関することは、ひっそりとあるべきと、個人的には思うのですが。


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痔のことについては、父と伯父が長年患い思い悩み呻吟し、やっと手術を受けたとか、「痔」の字を勘違いしていたとか、いろいろ書いたのも思えばワタシの類稀なる予感がそうさせたものであると改めて思っている。

このところの夫婦の会話は、夫が訴えるところの
「オシリの不快感」
で毎日浮かぬ顔である。

ワタシは病院というところへは、いつも粛々と行く。
騒いで行ったことなどない。
行く前に騒いだのは、前歯が欠けて間抜け顔になってしまった時だけだ。

オットの不安や危惧は言わずともわかる。
彼は活発だがネクラなタチなので(自分でそう言っている)、どうせオシリについても
「人工肛門」
まで思い及んでいるはずだ。

父や伯父の例を話して聞かせた。何度もだ。
オットは言う。


「でもさー・・・いやぁ・・・俺のイメージが・・・」
「病気なのにイメージも何もないでしょう」
「だって、オケツの穴見せるんだぜ」
「そこが患部だもん」
「・・・・いやぁ・・・だめだダメだ、若い看護師さんとか、

 あら・・・この人のオシリって・・・なんてさ、だめだダメだ」
「何がダメなのよ、向こうはブロで、毎日いろいろなの見てて、患部として見てるのであって・・」
「人に見せるもんじゃないぜ」
「大丈夫、アナタのはキュッとしてて綺麗ですっけってば!!」
そんなに見たこともないが喚くワタシ。

アナの話から、今度はアンダーヘアーについて苦悶をはじめるオット。

「あら、ここにも毛が生えてるわとかさ」
「子供じゃあるまいし、生えてるのが普通」
「・・・いゃ・・・ダメだ、やっぱり無理だ、苦痛だ・・・」
「じゃ、我慢してなさいよ」

「いや・・・ダメだダメだ」

ワタシとて彼の気持ちはワカルが、ワタシに訴えられてもワタシは医者ではないのだ。
でも、上記のような理由で病院へは絶対行きたくないのだ。
このところ毎日そんな調子で、なのに、
「やっぱり違和感が・・・」
「今日は痛いな・・・」
実に不毛な繰り返しである。

「とにかくね、父の時も伯父の時も、清潔、温める、それが一番だっけよ」

父は長年ムツムツと耐えつついたのだが、(彼も自分のイメージを気にしていた)ある寒い冬の日、父の姉が亡くなったと知らせが来て、極寒の秋田へ行った際にすっかり悪化させていた。

ワタシは当時家から離れて働いていて、後から駆け付けたのだったが、いつもきちんと正座して、折り目正しい父の様子がどうもおかしい。
時々激しくどこかにヒットするのか、顔をしかめている。

近くを弔問客が通ったその振動で、またヒットするらしく、その人を恨みがましく睨みつけたりしている。
目もウツロで、心ここにあらずだった。
母がそそくさと来て、ワタシに笑いを含んだ声でこっそり言った。


「お父ちゃん、ここに来て冷やして痔、急に悪くなったんだと」

気の毒なのであるが、聞いている方はどこか微笑ましい気になるのはなんでだろうか。

昨日もそんな話をして聞かせ、
「とにかくね。ほっといて良くなることはないからね」
更に言った。
「痔なんか、誰でもカタいウン〇したら切れたりしてなるでしょ。
女なんて、あんなカッコでお産するんだよ。
お産じゃなくても内診だのなんだの。
ワタシなんか妊娠も何もしてないハタチの時に、盲腸で、でも生理二日目で生理痛で痛いのかって我慢してたけど、とうとう救急車で運ばれて、剃られたんだよ!!」

「女の人は大変だよなぁ」

「それだけじゃないよ、お産っていったって、イキめば下手するとウン〇だってついでに出てしまうのよ、そんな耐えがたきを耐え・・・」

だんだん言うのが馬鹿らしくなる。


「だから病院行きなよ」
「でも、もっと悪いのだったりしたら・・・」
「悪いのならなおさら早く行け!!!」

このところの仕事で会社の軽トラを使ってるが、その乗り心地が悪いから痛くなったとか、いろいろ訴えてくる。

いくら言っても、この男は、どうせ痛くなって我慢できなくなるまで医者に行く気など最初からないのだ。

オットはとてもきれい好きな人で、どれだけ汗をかいて、埃や泥や、木の脂や、伐り粉にまみれて働いてきても汚いまま帰宅したことがない。

必ず着替えてくるし、徹底的に全身を洗う人なのである。
それでもオシリが不調なのは、食べすぎだったりでお通じ状況が時にムリがあり、無駄に腹圧もあるから本人が思っている以上に肛門に負担がかがっているとワタシは推測している。

きのう朝も浮かない顔であった。
ご飯もきちんと食べ、食後排便もきちんとあり、排便後はわざわざ風呂場で綺麗に洗ってから出かけた。

ワタシは近在の
「肛門科」
を調べていた。
妻の予感は当たるのだ。
ここのところ、早朝からの仕事なので5時から働いていたが、10時前に電話が来た。

「はい」

「病院行くよ」
「そうしてください、手筈は整っています」
ワタシの声はあくまで冷静で低かった。

予感がしていたので風呂も沸かしておいた。
こういうワタシを賢妻と言わずしてなんというか。

オットはすぐさま風呂に入り、ワタシは
「勝負パンツ」
を整えておいた。何の勝負だろうか。


風呂から上がって夫は子供のように報告する。

「リンスしてきた」
「?」

「下の毛もシャンプーで洗って、リンスしたんだ」

肛門科は毛は見ないと思うのだが…。
ワタシはほとほと呆れつつ、爆笑してしまうのだった。
この時のオットの得意げな顔は生涯忘れない。

きのうは午後休診というので、急き立てて車を飛ばした。強い雨が降っていた。
運転はもちろんワタシで、オットはドーナツ型のクッションを敷き、居心地が悪そうである。
車中でも同じ会話を繰り返す。
ヤサシイ賢妻のワタシも
「ええい、喧しいわ!!」

オットは別のことを言う。
「問診票書くよね・・・」
「初診だもの、書かされるべ」
「なんて書けばいいんだ?」
「そのまま書けばいいでしょ」

「こんな俺様のオシリなんか診てもらってすみません、とか書いたほうがいいかな」
「余計なことなど書かなくていい」
「尾骶骨のテイの漢字難しいよね」
「てい でいいじゃないの」
携帯を取り、変換したりしている。
その携帯も
「電池ない、車で充電できる?」
と言うのを
「任せなさい」
と車用の充電器をたちどころに出してきたワタシなのに、オットは
「なんだこれ、通電してんのか?」
ブツブツ文句が多い。
「差し込みづらい」
挙句
「パキ・・・」
嫌な音がした。
「なに今の音」

「壊れたみたいだ」
「壊したんだべ!!!!」

オットは繊細かつ丁寧な仕事をする人なのだが、どうしたわけか精密機器を壊す。
使ってすぐ壊すのだ。
ワタシは運転しながら、舌打ちしたくなる。
オットはそんなことはどうでもいいといった風情で、まだ言う。
「あー、いやだなぁ・・・このまま帰ってもいいんだぜ」
断固無視する。

「ああ、あともうすぐじゃないか・・・俺のイメージが・・・」
「だからイメージって何よ、誰に対して何のどんなイメージよ」
「だってケツだぜ」
「ジャニーズも、AKBも、アイドルもみんなウン〇もするし、切れたりもするわ!!!」


あっという間に病院に付き、車寄せがあるところだったので、オットが濡れないよう、体が冷えぬよう(きのうは17度しかなかった)心を砕きつつ、
「サッサと行けーーー!!!」

オットを待つ間、ワタシはさっきの充電器をいじった。
カバー部分が壊れていただけできちんと差し込めば充電ができるではないか。
「ったくよ・・・」

駐車場から雨の向こうの窓際にオットの姿が見える。
イメージを大事にしたいようで、呼ばれるとイソイソと立ちあがっているし。
何なんだ一体!!!

一時間もしないうちにニタニタと出てきた。
隣の薬局の看板を見て

「キンタマ薬局」
なんてふざけている」
「キタマン!!!」

いやはや、帰途のうるさいこと。

オットの自慢が始まった。

「ただただ褒められてきた」
「なにがよ」
「生活習慣も素晴らしい、食後すぐ便を催し、排便し、そのあと綺麗に洗うのも素晴らしい、何から何まで素晴らしいってさ、さすが俺」
「内診されたんでしょ」
「されたよ」
「痛くなかったの?」
「痛くないよ、それで、医者が

 『肛門絞めてみてください』
っていうから、キュってやったら、
 『素晴らしい絞まり具合です』
って、とにかくただただ褒められまくってきた・・・」

フン!! 肛門のことかい!!
さっきまでイメージだなんだといいつつ、内心ビビりまくっていたくせに・・・。

更にオットは自慢する。


「医者が言うには歴史上の人物・・・ナポレオンも、松尾芭蕉も、マーラーも、夏目漱石も・・・偉人は皆、痔だったんだってさ。俺も偉人に名を連ねるなぁ・・・」


オットに
「ネタにしていいか」
と聞いたら自分でブログを書いていた。
一時間もかかっていた。

そして言った。

「あー、記事書いて座りっぱなしだったからケツが・・・」

ワタシは真面目ゆえ、彼の言葉をいちいち気にし、いちいち対応しているが、いつも
「オレが言うのは大概冗談だからね」
なんて言われる始末。
アレで冗談だってか!! と、またムキになってしまう。

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