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娘の結婚まで・・・傍にいる人

私の父の命日のこと。
私は前日のうちに墓参を済ませたのだが、昼から娘が彼とわざわざ墓参りに来た。
ちゃんと命日を覚えていたのは、今も心にジジババが生きているという事でもあるのだろう。彼らは彼らで連れ立って行ったのが良かったとつくづく思った。

亡き人たちは入れ代わり立ち代わり、報告を聞いたのだろう。

父の命日が、心温まる日になるとは、父が苦しい病の果てに逝ってしまった日には想像などできなかった。

「お父ちゃん聞いた? Mが結婚するんだよ」

生きていたら破顔する父の様子が見えるようだ。隣にいる母は、きっと泣くだろうな。

子育てもあっという間。楽しかったな。生まれ変わってもまた子供たちを育てたい。

「はあ?冗談じゃない」
「ご遠慮いたします」
と彼らは言うだろうが。

コロナ禍でなくても形式ばったことが嫌いな娘である。
子供の頃から
「なんで、田舎の人ってお嫁さんが席にいない時(お色直し)しゃしゃり出てきて、ヘタクソな踊り踊ったりするの? 引き出物の大きさとか、なんであそこの時はなんて何年たっても同じこと話するの ? 披露宴なんて死んでもやりません」
と言っていたし、アレでもシャイで、人前にチャラチャラ登場するのも嫌なので、まずは入籍である。

「・・・いくらなんでも・・・母親だし、そもそも籍を入れる日は、娘の誕生日でもある」

気に入るかわからない物品をやるより、今回はお金をお祝いにしようと思った。
息子の時もそうした。
折しもコロナが猖獗を極めていた時期で、連日、感染者のお知らせが届く。

そそくさとお祝いを渡して、とっとと帰ってくることに決めた。

私は目的のためだけに行動し、あとはブラブラしないでさっさと帰宅するタイプである。娘が大学の頃は、やはり彼女の誕生日に仕事が終わってから新幹線に乗り、上京し、娘のアパートでケーキを作って食べさせて翌日帰宅することを繰り返した。

わざわざ上京するので娘に
「吉祥寺あたりでお茶しない?」
なんて誘われたりもしたが
「そんなオシャレな所は、プチケーキとコーヒーで1000円もとられる、アホらし・・・」
と殺風景な母親。
娘はその後心得て、私が喜ぶ「焼き鳥屋」なんかに連れて行ってくれた。

話が逸れた。

ともかく、お祝いだけ渡して帰るつもりで連絡をした。
珍しくすぐ返事があり、私は
「9時に銀行に寄り、新券に両替して・・・」
と予定を立てた。

その前日。
嫁のYちゃんから

    

息子は所用で出かけていて、実家の親御さんたちが丁度休みだったので行って来た帰りだそうで、お父さんが作ったという大きな山芋とともに現れた。

私は丁度山芋を摺っていた時で、汁を作るのも面倒で、尚且つ特段のおかずがない時にトロロにするのだがその日もそんなであった。
そこに新たな山芋が届き狂喜した。
夫も山芋が大好きなので、二人で狂喜し、夫自ら肉を焼きYちゃんに振舞った。

息子は大学の時の友達と会っており、翌日まで帰らないという。
「わざわざこんな時に?」
「5月もお盆も話が出たんですけど、流れたんです。でも今回はヨシダさんがどうしてもって連絡が来て・・・」

大学で知り合った男どもである。
ヨシダくんとともに、イケダくんの所に行くのが常である。
ヨシダくんは県職員で、イケダくんは県警である。
それぞれ就職し、ヨシダくん以外は結婚し、イケダくんは子供さんも出来たが、どういうわけか3人ずっと仲が良く、嫁を置いてまで会おうとする。
釣りが目的らしいが、
「津軽の海で今時期釣りなんて・・・」
と聞いただけで寒い。

というわけでYちゃんは夫の不在時は、休みが合えば実家に行ったり、そうでなければ姑のところに来るのだが今回もそれだった。

私は、お茶をすすっているYちゃんに耳打ちした。

「明日何してるの?」
「何もしません」
「もしよかったら・・・」

で、翌日。
新券に両替した幾ばくかのお金を熨斗袋に入れ、Yちゃんとともに娘と彼のマンションを目指したのである。

娘は、マスク姿だが、髪も顔も整えて現れた。
今から役所に行くという。
そそくさとお祝いを渡して、そのうちゆっくり皆でご飯食べてお祝いしようねと言い合い別れた。

娘は新郎となる彼におっつけ、私は嫁さんと
「お昼どうしようね」
という事になり、いつも寄る
「美味しいコーヒーの喫茶店に行ってみる?」
「行きましょう」
となり、二階席でハヤシビーフライスと、
    

食後にケーキセットを共に食べ、
「ほひしいねー」
と言い合い、帰途もずっとアレコレ語らい、
「物欲がない」
「出かけるより、家で犬猫と過ごす方が良い」
「やりくりするのが苦でない」
「お弁当作りが楽しい」

とにかく会えば喋りっぱなしで、いちいち価値観が合う。
合うから話が終わらない。
私たちはホントに仲良しなのだと確信が深まっている。

時間が過ぎるのがあっという間であった。
変わった嫁だと、ある友人にはいつも言われるのだが、私にとってYちゃんはいうなれば
「親友」
なのだ。

Yちゃんの家に行くと、息子が帰宅していて、
「ただいま」
と息子がYちゃんに言ったつもりだろうが、先に登場したのが私で
「また二人で会ってたのかよ」
という顔で絶句していた。
ウフフ(*´艸`*)と笑って、またねー、と別れる。

帰宅してスマホを見ると

 あ、無事に提出してきました~

という連絡と、夫婦となった証明書を二人で持って笑っている写真が来た。

    

どう思いますか? 仮にも結婚報告の最初が
あ、
とか。
そのあとに

  
 

デブデブだから頑張って痩せます



確かに少し痩せた方が良いかもしれない。
カレは娘より背が高いし、痩せているわけでもないのだが今のところ娘の方のイキオイが強いのだ。

写真を見ると、娘は
「なんとかよく写ろう」
と済ましているのがバレバレで、夫となったカレのほうがとても嬉しそうで、すまして写ろうなどと考えることもなく自然に笑えて来たという表情である。

    

やれやれ、何はともあれおめでとうである。

息子夫婦は、結婚6年になり、息子の誕生日と一日違いなので何かトビキリ美味しいものを3密を避けて食べに行ったそうだ。

一週間後
「新婚」

の娘に連絡したら
「平和に暮らしてます」
と、のどかな返事が返って来た。
それでいいのだ。

何か特別な日に、傍らにいる人が
「好きな人」
であることは幸せのひとつだが、息子も娘も、何より私がその点果報者であると改めて思った。




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