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扶養と年収の壁についてフラットに語ってみる

人生の可能性を広げるお金の専門家
ファイナンシャルコーチの佐藤ななみです。
 
熊本日日新聞社発行の生活情報紙『くまにちすぱいす』で、お金に関する記事の執筆を担当してこの夏で丸23年。ここでは、紙面でお答えした家計相談の中で、文字数の都合で説明しきれなかった用語やポイントについて触れていきます。
名付けて『はみ出し☆すぱいす』張り切って参りましょう♪
 

今回は、7月19日付(第736号)のご相談に登場したキーワード『扶養』をきっかけに、年収の壁について深掘りっ!
※ご相談者様に了解をいただいて記事をご紹介しています。 
 


1.年収の壁 いろいろ

短時間労働者の収入について、いわゆる「年収の壁」と言われるラインがいくつも。
100万円の壁、103万円の壁、106万円の壁、150万円の壁…と、並べてみると賑やかですが、なにがなにやら?どれがどれやら?混乱しちゃいますよね。ちょっと整理しましょう。

☆100万円⇒住民税の課税が発生するライン
☆103万円⇒所得税の課税が発生するライン
☆106万円⇒社会保険料の負担が発生するライン(従業員101名以上の企業)
☆130万円⇒社会保険料の負担が発生するライン(従業員100名以下の企業)
☆150万円⇒世帯主の所得税・住民税の負担が増加し始めるライン
※2024年7月現在

まとめると、
100・103・150万円⇒税制上の壁
106・130万円⇒社会保険の壁
となります。

税制上の壁は「壁」じゃない

まずは税制上の壁について。
一定ラインを超えたら課税が生じるのは確かなのですが、税に関しては、増収分の一定割合を納めるもので、稼いだ以上に課税されることはありません。よって、ココを超えないように収入を押さえる意味はなく、個人的にはいつまでも「壁」と呼んで話を面倒クサくするのはやめないかい!?と思っています。
 

社会保険の壁で「働き損」現象が

一方、社会保険の壁については当事者にとって深刻です。
壁を超えて収入が増えると、社会保険料の負担が発生するため手取りが減る。いわゆる働き損ともいわれる状態に。
106万円の壁を例に見てみましょう

月収80,000円(年収96万円)⇒社会保険料の負担はなく手取り96万円
月収88,000円(年収106万円)⇒社会保険料約16万円(※)で手取り90万円
※加入している健康保険の主体により若干異なります

勤務時間が増え、負担が増えた結果の増収なのに、手取りが減ってしまう!
これでは何のために頑張ったのか? 働き損と揶揄したくなるというものでしょう。
 

壁はさらに・・・

それにこの壁、以前は130万円で統一されていたのですが、2016年10月以降、新たに106万のラインが登場し、
☆2016年10月以降⇒従業員数501人以上
☆2022年10月以降⇒従業員数101人以上
と適用範囲が段階的に拡大
☆2024年10月以降は、従業員数51人以上の企業が対象となります。

そしてこの先も…確定はしていませんが、「近い将来には70万円を超えた人に社会保険を適用の方向へ」といった報道も出ていますね。
 

2.改変の目的とメリット

では、どうしてこのような改変がなされているのでしょうか?
どちらかというと制度が改悪されているとの向きで取り扱われがちなこの話題。ここでは敢えて逆張りして、この改変により、メリットが生じる人に焦点を当ててみましょう。
 

自営業の妻の場合

例えば、夫が自営業で、妻が年収106万円のパート勤務の場合・・・
そもそも、自営業者には扶養という概念がありません。なので保険料はもともと妻の分もキッチリ一人分負担しています。金額は、
●国民年金保険料⇒年約20万円(16,980円×12ヶ月)
●国民健康保険料(妻分)⇒39歳まで5.5万円程度/40歳以上7.5万円程度
(市町村により若干異なります)
と、合わせて26~28万円程を既に納めています。

こんな人の場合、妻が社会保険に加入できるようになると、保険料負担は年間10万円ほど減ることに。必ずしも負担が増える人ばかりではないのですね。

社会保険加入のメリット

そして、保険料負担が増える人も、減る人も、制度から受けられるメリットにも注目する必要があると思います。ここは主に2つ

1.厚生年金が上乗せされることにより将来の年金受給額が増加
保険料を一月納めるごとに、厚生年金保険料の約6%相当が年金額に上乗せされることになり、年金受給開始から17月目で元を取る計算。
(以降、生涯にわたってリターンが増え続け・・・)
2.傷病手当金や出産手当金などの保障が受けられる
病気やケガ、出産などで休業の際は、報酬額の3分の2相当を支給
(扶養内はもちろんゼロ)

いかがでしょう?かなり大きな保障であること、伝わりました?
そう。社会保険適用範囲の拡大は、この給付を受けることができる対象者を増やすための施策なのです。(まあ、保険料も徴収したいんだと思うけど)

3.制度を理解・活用しながら選択したい

扶養という言葉が話題に上るとき、どちらかというと「働くと損」な文脈で語られがちな印象を持っているのは私だけ?
働き方は様々ですし、それを選択する理由や事情も様々ですから、扶養に入ることが適切、あるいは切実な状況もあるでしょう。
ただ、刷り込みが強すぎて、理由や事情をすっ飛ばし、何が何でも「働いたら損」というイメージが蔓延してはいないかと思うこともしばしば。
そんな思い込みに縛られて、本当の気持ちに反して自分を抑えてしまう人がいるとしたら、ご本人にとっても、社会にとっても大きな損失ですよね。

このテーマ、今後も順次、改変が行われることと思います。それぞれの人が、その時々の状況に合わせて、制度を理解し活用しながら働き方を上手に選んでいくのがいいのかな!?と思いつつ、見守っていくつもりです。


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