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優雅な監獄:フレデンスボー・ハウス

1950年代にコペンハーゲン北部のエルシノア市に作られたフレデンスボー・ハウス(Fredensborghusene)は、自然の中に立地する住宅エリアである。近隣には、王室のサマーハウス(別荘)であるフレデンス城(Fredensborg )があり、広大な庭園が広がる。近隣には、エレガントな屋敷が並び、王室御用達のエリアであることを、それとなく感じさせてくれる。緑の芝生が珍しくも丁寧にメンテナンスされているゴルフ場も徒歩圏内だ。コペンハーゲン中心地から車で40分程度と、デンマーク的にはかなり遠方に立地するエリアではあるが、通りを歩く人たちには、都会的な洗練された雰囲気が醸し出されているのは、そんな訳なんだろうか。

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フレデンスボー・ハウスは、一般的には評判が良い素晴らしい建築群として有名だ。設計者は、建築家ヨーン・ウツソン氏。ヨーン・ウツソン氏は、シドニーのオペラハウスをデザインし、建築界の最大の栄誉であるプリツカー賞も取得している著名なデンマークの建築家だ。フレデンスボー・ハウスは、海外に住むデンマーク人たちが帰国した際に住む場所に困らないように、そんな長期海外生活者を良い環境に優先的に入居させることを想定して作られた集合住宅だという。

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公共エリアと私的エリアの絶妙なバランス、緩やかな傾斜のある地形に溶け込むように淡いベージュ色のレンガで作られた家屋は、日本の借景のコンセプトにもつながる自然に溶け込む住宅デザインとして評価されている。周囲の環境との調和、オープンスペースとプライベートのバランス、自然エリアと住居エリアのシームレスな連携…。元々著名な建築家の作品ではあるばかりか、近年、海外の建築家からの高い評価を受け、改めて注目が集まる地域になっているという。テレビプログラムで紹介されたり、ウェブなどでも多くの記事が掲載されていたりもする。

エリアが自然と同化していると言われる点が私が現在興味を持っている自然と融和する北欧のスマートシティと合い通じる部分がありそうな気がして、また、映像で見る限りでは通常のデンマークの住宅エリアとえらい雰囲気が違うことが気になっていて、いつか行って見てみたいと思っていた。

フレデンス・ハウスに行ってみた

夏の快適な青空が広がる週末のある日、家族をドライブに行こうと誘い、フレデンスボー・ハウスに行ってきた。

エリアに一歩足を踏み入れると、映像でも見たことのある明るいベージュ色のレンガが積まれて作られた家並みが広がっている。エリアへの入口は曲がりくねり、少し排他的な雰囲気すら漂う。隣接する家々からは、歩道から庭へのアクセスを遮る生垣に、細い人一人が通れるぐらいの道が作られている。家に住む人が外に出るための裏道だろうと思う。

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1メートルほどの高さの生垣は、一部にはまるで運動場のように広がり、綺麗にカットされている生垣であるが故に、奥の方まで水平にカットするには、どれほどの手間なのだろうかと考えずにはいられない。

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中心エリアには、コミュニティハウスが立地していた。家族で散歩したのは、日曜の昼間だったが、全開のコミュニティハウスの扉から中を覗くと、静かなピアノの生演奏と、ワイングラスがぶつかり合う音や人々の談笑の声が聞こえてきた。柱の向こう側にいるはずの人の姿は、全く見えず、なんとなく東京ディズニーランドのホーンテットマンションを思い出した。

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さらに奥に進むと、映像や写真でもよく見た景色が広がっていた。家の向こう側に広がるグリーンの芝生、砂漠の住居群を思わせる立方体の家並み。グリーン芝生は、エリアを超えるとゴルフ場で、遠くに点のようにゴルファーたちの姿が見える。家の壁には、蔦が絡み、小さな窓は、たいてい鉄格子がはまっている

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エリアをのんびり散歩していた間、人にも会うこともなく、住んでいる人の気配があまりない。昨日まで人が住んでいたが、何かが発生して誰もいなくなった廃墟のような静けさだ。ゴミひとつなく、荒れた庭もない。生垣は高さが揃い、静かに鳥の鳴き声が聞こえる。生垣は丁寧に整備されていて、車もロボットが停めているかのように生垣のラインに合わせて正確に鎮座している

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生垣は、一部の家には、通り抜け道も作られていなかった。これは、住民がいないから通り道を作らなかったのか、外界とのリンクが欲しくなかったのか、それとも社会的罰則なのか。

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「素敵な住宅街を見にいくよ」という私の誘い文句に誘われて出てきた娘は、なんだか「luxurious prison」だねとぽそっと呟いた。まさに、そんな印象のエリアだった。



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