見出し画像

データを可視化すること

参加型デザイン学会Participatory Design Conferenceに初めて受理された論文は、東大先端研時代にやった研究を元にして執筆した2006年の「Collaboration Supportin the Initial Intercultural Collaboration Phase」だった。異なる仕事文化(プログラマとデザイナと研究者)を背景とする専門家同士が集まって行ったソフトウェア開発のための会議の会話分析を行い、12時間の会話から抽出したキーワードの共起関係の変遷をChaSenPopout Prism岡崎さんのPolarisを用いて可視化したものだった。可視化をすることで、当初は、噛み合わない会話をしていた三者が同じ言い回しや用語を同じように使い始め共有理解が構築されていく過程が手に取るようにわかり、可視化の面白みにちょっと触れた。会話を聞いていただけではわからなかった相互理解のプロセスが、会話をビジュアルに変換することで、プロトコル分析や会話分析とも違う新しい視点が得られたわけだ。

画像1

一般に何に役にたつかわからない研究の分野でだけでなく、可視化は自分のいる社会を見る軸にもなる。デンマークの統計局は、データの可視化を頑張っている私が大好きなデンマーク組織の一つで、定期的に見に行くサイトの一つだ。統計局と聞いて拒否反応を示す方や自分と関係ないと考える人も多いかもしれないが、デンマークの統計局は秀逸だ。データをきちんと整理している。データベースを真摯に作り込んでいる。そして何よりもデザイナをきちんと雇い、わかりやすいデータの可視化やデータを身近にするための、工夫にも余念が無い。毎年、作成されているDenmark In Figuresなどは、涙が出るほど面白い2019年度版Denmark in Figures。

画像2


上のイラストは抜粋だ。インフォグラフィクスの使い方はともかくとして、表の使い方、イラストや写真を多用し、目で理解させる工夫に富んでいる。さらにもっと知りたい人には、元データを確認できるように、テーブル番号もキチンと併記されている。当然のことだが、できてない国や組織も多い中、デンマークの統計局は素晴らしい。

最近の発見は、データは世界を見る軸にも、世界の未来を見る軸にもなるということだ。最近完読したFactfulnessは、数年前より注目していたスウェーデンの医師・公衆衛生学者のハンス・ロスリングによる書籍。ハンス・ロスリングは、公共統計を活用したデータの可視化を通して、事実に基づいた世界観を促進することに注力していてTEDトークが有名。書籍には、「世界はどんどん悪くなっていく」と恐怖を煽る言葉に踊らされるのではなく、データをキチンと見て、世界の動きを理解し、世界の正しい見方を身に着けることで対応していこう、というメッセージが本には散りばめられている。データテーブルやグラフは、一見数字の羅列なために見ただけではわからないことも多い。ハンス・ロスリングの講演で紹介されているように、切り口を変えつつデータの変遷を見ることで、多くのデータに基づく事実が理解できるし、思い込みを乗り越えるツールになるのかもしれない。

ちなみに、TEDばかりでなく、ハンス・ロスリングのBBCの映像もおすすめだ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?