
[ フォトレポート ] 『小さなラヴェルの小さな物語』 たにこのみ原画展
たにこのみ「小さなラヴェルの小さな物語」原画展
ホホホ座 浄土寺店(京都)
2023年5月14日(日)〜5月28日(日)
『小さなラヴェルの小さな物語』(作:コンガー・ビーズリー Jr.、絵:たにこのみ、訳:だいこくかずえ、装丁:⻆谷 慶)の原画展が終了しました。
この本の装丁、そして原画展のDM等のデザインをしてくれた⻆谷慶(Su-)さんが撮影した展示風景を紹介します。
まずは会場となったホホホ座さんの店内風景。本(新刊、古書、zineなど各種)を中心に、作家ものを含めた様々な雑貨や文具などを販売する雑貨感あふれるユニークなお店です。元の名は「ガケ書房」、京都のインディペンデント書店として老舗だと思います。





拡大して見てみてください!
中央の絵は、ラヴェルの作った紙人形をイメージしたもの

モーリスの落ち込みはかなりひどく、作曲もすっかりやめました。モーリスの聴覚は硬直して鈍感になり、タルが室内で履いているずっしり重い木靴のようでした。ピアノの前にすわって新しいメロディーをつくるのではなく、画用紙で、ひん曲がった顔や猫背の奇妙なヒト型を切り抜いて過ごしました。
タルがそれを画鋲でキッチンの壁にとめました。タルはその切り抜きが好きだったのです。故郷のブルターニュの村の人々を思い出させたからです。タルは一つ一つに名前をつけて、そばを通るときには、小さく声をかけていました。ときにタルは、家族の様子を尋ねたりもしました。紙の人形は、この陰気な冬をいくらかでも楽しいものにするのに、役立っていたのです。




モーリスは好奇心を抑えることができません。「お願いだから、それが何か教えてほしい」 そう頼みました。アネットの端正な顔が赤く染まりました。「ええと、それは、、、わたし、、、わたしはこんな才能が、、、どこからやってきたかわかりませんけど、、、」 アネットは不安げに指をからみ合わせます。「口から大きな泡を出すことができるんです」 モーリスはすっかり心を奪われました。「ほんとうかい!」とモーリス。「すごいじゃないか!」


……キャサリンが部屋の奥にあるピアノの前にすわって、モーリスの初期の作品、18世紀の様式と優雅さをもつ『ソナチネ』の全楽章を暗譜で損なうことなく弾いたとき、はっきりとわかりました。あー、なんという、とモーリスはもう1本タバコに火をつけ、ワインをがぶりと飲みながら思いました。この女性は真の心の友だとわかったのです。


ハトの名前はアルトーで、シカ革のジャケットを着てはいましたが、フランスのランス出身のハトでした。シカ革のジャケットを着ていたのは、アメリカの西部劇が好きだったから。ふだんはカウボーイハットをかぶっていましたが、空を飛ぶときはすっとんでしまうので、代わりに耳あて付きの毛皮の帽子をかぶっています。

アルトーの絵(下)は下絵、上が転写後の作品

「②下絵をのせて上からまた新たな気持ちで線を描きます。」っていうのがいいですね! 下絵を描くけれど、上書きするときは上手になぞるんじゃなくて、「新たな気持ちで」なんですね! これ油絵転写のキモでしょ。
*わたしも試しにやってみたんですけど、そのとき下絵をなぞってました!



キャサリンの田舎風屋敷に滞在したモーリス。ある晩、パチパチ燃える暖炉の前で楽しくおしゃべりをした後、モーリスとキャサリンは、そのままソファで眠りにつきました。真夜中に目を覚ましたモーリスは、すぐ隣りにキャサリンが寝ているのに気づきます。
これをどう解釈したらいいものか。本当に一つになったわけでもないのに、まるで恋人同士のようです。モーリスは困惑しました。キャサリンは暗闇の中で目を覚まし、モーリスが寝ている場所まで手探りでやって来て、隣りにからだを横たえたのです。これは何を意味している? モーリスはここまでの人生で、それほど多くの恋を経験してきませんでした。

「エアポートラヴェル」と題した似顔絵描きのイベントが、ホホホ座店頭で行われました。5月28日(日)12:00 - 18:00
*主人公モーリス・ラヴェルと共に冒険しているという設定で、たにこのみさんが皆さんの似顔絵を描きました。





……「きみは一度ならず、わたしの命を救ってくれたね」 かすれた声でモーリスは言いました。「だからきみのことは一生忘れないよ、一番の友だちだ。いつの日か、戻ってくるよ、春か夏のきみが起きているときにね。そして乾杯して、昔の日々を思い出すんだろうね」
「さようなら、マエストロ」 ヤンニもノドをつまらせ、ゴクリと唾を飲み込みました。
ステッキを振りながら、モーリスはタラップを登り、カルデロンの上甲板に集まっている群衆の中へと消えていきました。

*
おしまい
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!