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詩43 幽けさ/日の片はらにて/家居と歩行

幽けさ

夜気の冴へ 夜の微かな空の重量と
空のほとり(らしひこころ……、)を漂ふ
秋の匂ひ(のやうな風……、)に
冴へ 余り涼しく冴へ渡り
夜気のかほる(夜気の周りの空間……、)の
儚ひ暗さと明るさと 互ひに亡ぶ
時と所を 寂しく(目と目の内の心で……、
心と言ふ夢の川の霧のやうな場所で……、)
摑む もしくは拾ふ 又は掬ひ それら
時刻の見せる夜間(夜と夜の狭間……、)を
浚ふ手さへまた
冴へてゐるらしひ さう思へてゐる
樹と 樹の脚元に立つ草と 草の隣の道に
これら夜の輝き(としか言ひ得なひ
風(決して吹かなひ夜風だらうか……、)の
余程ふかひ風合ひ……、)は
どのやうにこの時刻や場所を思はせるだらう
秘めやかに 皆 眠りつつ息吹するだらうか

/小倉信夫

#愛の礫


日の片はらにて

わたくしの心のまはりの(畔のやうな……、
草の(あるひはかがよふ 濡れた道路を
あなたと
あなたの暮らしの(在るであらう心の芯の
淵に似ておとなしく 湿つてをり
余りこはひ気丈さとを
何も言はずに身へ伴はせ
あなたは私を煙たさうに見た
見つつ 又 こゑを発してゐる(気のする
その(幻のやうな……、
心ばかりの深くのどかな(川……、
もしくは田と 野と 林と 湖のほとりへ
やはり草の(並ぶ棚引き方より
思惟とも官能とも言ひ切れず
ただそれを智恵と言ふことの出来さうな
あなたはあなたの心でもつて
歩ひて行つてしまひさうだつた
夏と言はば時に こゑの空へ漂ひさうに思ふ

/小倉信夫

#愛の礫


家居と歩行

こゑを読み くりかへし こゑを
耳に憶へ その聴こへたこゑを手に携へ
手にて象り 形らしひこゑをテーブルに置き
椅子やあるひはいぐさのうへに
腰かけながら こゑに耳を澄ましてゐる
こゑは樹に
樹のまはりの山や 山のしづかな胸の内の
目に映らなひ おほきな空と
空を支へる草の穂たちに似てをり
そしてまた
どこと言ふことのなひ街の
明滅する夜気や 閉じた門扉や
何も言はずしたたかに延びる舗装からも
聴こへて来てゐる その道では
虫が鳴ひたり 人の歩ひてゐることもあり
音のなく 寂しひ程しめやかに
雨の降るのみである時もある
さうしてこゑは造形され 漂ひ 呼吸される

/小倉信夫

#愛の礫



2022年7月28日に、詩人の和合亮一さんが 関わっておられる Twitter の企画、愛の礫に参加しました。そこに投稿した詩です。

 ※ 愛の礫 = 国際芸術祭「あいち2022」に連動して行われている詩の投稿企画です。
 ※愛の礫のハッシュタグを付けて投稿された詩は「あいち2022」の和合亮一ブースにあるモニターに流れて行きます。
 ※題を付しました。

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