こゑを手に拾ふ日より - 8

こゑを手に拾ふ日より  二〇二二年八月


 日のうへを日(のこゑ……、)が足を(静かに……、)偲ばせながら、そのこゑ(の寂しさ……、)を唱へるやうにとほつていつた……。日のもとへ日の差してゐる日のうへを(日差しの……、)湿やかさを(小さな部屋へ……、)湛へつつ、渡つて行つたやうに思ふ。窓の外では虫の(だうしても……、)うたひ、そのこゑも耳(と目……、)のさなかの空(といふ空に……、)聴こへては騒ひでゐる。騒ぐ程たちこめてゐた。手で夢を(そつと……、)浚ふやうに私は夕食を料理した……

二〇二二年八月五日


 樹の(樹といふ樹上の……、)日とさはぐ風の(おほきな……、)体のすぐ片はらを、樹の(その……、)とても濃ひ(又は深ひ……、)葉の緑を見上げつつ渡つて行く(まうひとつの……、)風があつた……。風のひとつ日に笑ふとほりの脇をまた違ふ風の通つて吹き、風はその樹へ至る道と、道のうたふ(道を行く人のうたふ……、)(それらこゑの行くすゑの……、)(洞穴に在るやうな……、)本当の夢(……、に似た夏の日差しの近く……、)へ通じてゐるらしかつた……。多摩をとほる風のもとの風のこゑとは……

二〇二二年八月十日


 雨のこはひ……、雨の(日に雨の……、)もだしてゐる……、ひとしずく空よりとほるつど、区切りつつ降る……、(日の見へなひ日(の傾き方……、)らしひ)薄暗ひ部屋と窓の外を、しづかに濡らす……、雨が音をたてて降つてゐる。ひとつぶ降ると、次のひとつぶの雨が空より(空といふ音声ばかりの空のいづくかより……、)雨のほとりへ降つて来てゐる。雨のうたふ……、うたひすさぶ……、音のすきまを失つた音ばかりかたぶかせて、けふは一日うたふやうに降つてゐた。雨が音をたてる日のこゑの往来は静かに濡れた。

二〇二二年八月十四日


 だうもかりそめに生まれた(といふ……、)こころや言葉や時のこゑへ耳と目と手からはじまる肌のうへにある(また在りもしなひ……、)音と光と手ざはりの得られる風景を(聴くでもなく視るでもなく触れるでもなく……、)想像し把握しやうとして考へ直し(そつと……、)想ふ景色のさはがしさの内にゐた。ふと暮らしの内に生じ(生じるとともに……、)彩りのある手つきによつてその手そのものを構へ(老ひるやうに……、)おとなしくなる夢(に似た官能……、)の移ろひと言はうか……。さういふ無言の静けさのさなかでこゑの発つ(山の……、)樹と樹の間をじつと見てゐる心地だつた……

二〇二二年八月二十六日


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