『鹿の王 水底の橋』-5

2021年4月25日

前登志夫さんという歌人さんのファンなので、わりと熱心に読んでいる。今は講談社文芸文庫から出ている前さんの『存在の秋』という本を探しているのだけど、なかなか見つからず、方々で尋ねても「ない」という答えばかりで、私の住んでいる辺りにはもうなさそうだしちょっと落胆してしまった。

前さんはもうあまり読まれていないのだろうか……
ウェブで調べても軒並み在庫なしで、どうやら版元にもないようだ。これは古本で買うしかなく、しかし通販というのも今まで気が引けていたので店舗を回っていたのだが諦めた。通勤の電車で読むのに我慢はしたくないし……

『鹿の王 水底の橋』は、その前さんの本を探す電車の中で読み終えた本で、思い入れの深い読み終え方になったと思う。この物語は私にとってはビルドゥングスロマンとして読めたので、まさに「架橋」の話だなぁ、と思えて嬉しかった。
私は前さんも架橋や耕作の歌人さんだと思っている。

電車の座席の上で、この『鹿の王 水底の橋』の「あとがき」を読んでいたら、泣きそうにも寂しくもいたたまれなくもなった。上橋さんの文でこんな気持ちがしたのは初めてだった。パンデミックという状況から彼女の筆の揺らぎが伝わってきた、などというと傲りになるけど実際そう思ったのだ。
まるで架けた橋がきちんと水底にあるか確かめるような揺らぎと言おうか……

しかし久々にいい読書ができて、満足した。
手に取るときも出会いだが、去ってからもまた出会えるのは、読書の醍醐味かも知れない。

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