『汽車旅の酒』-2

2022年2月26日

寝る前に少しずつ読んでいた本をようやく読み終えた。以前から興味を持っていた作家の本を本屋さんで見かけて、パラッと立ち読みしたらそのまま欲しくなり、そしてその欲しくなった熱に浮かれて読み出したのだが、途中から身辺も忙しくなってきたためになかなか手に取れず、年をまたいでの読了になった。

前回書いた記事を読むと、確かに何か熱っぽい調子で書いており、この文を書こうと読み返してみたら、この本を買ったときの興奮が思い出されて、少し懐かしい思いもあった。懐かしいと言っても買ったのは去年の秋なので、そう離れている訳でもないが、それだけ多忙多難が続いたのだと思う。

いつ頃からか、本を読みながら著者が原稿用紙に筆を走らせる様を想像しながら読むようになっていた。これはいい読書ができている時の独特の体験で、著者の声を文から聞いたり、著者が紙に筆を滑らせる時の何か言いがたい、書くという行為の生むやや特殊な状況を身に引き寄せながら追体験しているような心地があるのだが、その感覚があったということはそれだけ文がよいのだと思う。

熱に浮かされて買った本を、熱に浮かされるまま読んで、先の記事を書いたのに、その後熱が静かになると文の良さが際立ってきたので、初めの方は読めていなかったのかも知れない。あるいは著者の声になじむのに時間がかかったのだろうか……

確かに、ちょっと小林秀雄っぽさがある。しかしそれもよくわからないまま読み終えた気がする。読み終えたのは寝る前ではなくて遅いお昼ご飯を食べ終えた宵近い頃だったので、夕景が窓の外に映る感慨もあってか、少し不思議な感傷を得た。

もう春も程近いころである。読み終えるとしばらくその本はそのままになり、次の本をどれにしようかと迷い始めるのだが、積ん読を上から順に読んでいるので、次に枕頭に置かれる本を、この夕景の中から読み始めてみようかと思う。同じ言葉を繰り返し味わうタチではないため、浮気を繰り返しながら、しかしまたいつか戻ってきそうな言葉と出会えたのが嬉しい読書だった。

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