2021年の詩

詩(2021年)


こころへ

涼しひ
木の陰で
こゑと話し合はうとして
こゑを
たつとぶ(…、
と言ふ
おまへを
たふとぶ(…。
憶ひ出を
夢から
雪ぎ(…、けふ憶ふ(…、
樹の
蒼ひ枝の
芯にある
さびしひ管をとほる言葉よ
家に
ゐる心の執着よ
おまへを
たふとぶ(…
無名のこゑよりたふとぶ(…。

   (2021年1月29日 Twitter)


散歩

秋の日の
宵の道を歩いていると
秋のその日を定義したくなる
今日は
何を為したか ひと日を築いたか
何も思わず
思うことと争えたか
量の無い秋の樹のように

買い物袋を提げて
袋を前後に揺らしながら
私は歩いている
日も暮れかかる歩道のうえで
息をしづかに
もらしつつしづかなつもりで帰っている

どうしていようか
為すとなくなにを思うとなく
思うべき思いのなさも
今日は
在りとなく在る心の寂しさよ
歩くばかり秋の日も
どうしていよう 言葉を無くして
秋風が体中に満ちている

お日さまも
ずっと沈みかかったままの
輝きが綺麗な日だ (秋らしい優しい日だ)

   (現代詩人会投稿欄第19期 投稿作)


小さな部屋へ

 時計が静かに音を重ねていました。しづかに傾く音の波動を雨が降り積むように聞いていると、胸は波動の海にかしづき瀬々らごうと心のほとりに静まってきます。(私は三十二歳になったのだなぁ… 時がこんな響き方で人に物思いさせるとは知らなかった。胸の部屋の軒を打つ雨音を聞くような音だ。時に私も数えられている。音のない音の満ち引きを繰り返す時のしずけさよ……)

 もう夜の頃です。闇が寂しく今を満たしています。もののしづもる時の深さへ月が出て、言葉をすすり翳を白ませている小夜になりました…… これら樹や叢や軒と道と光の寄せる風景に心の淵を表すような月光だ…… (深夜三時の闇の瀬にいて詩を書いている。)

 (眠らうよ。あなた…、あなたのさはる座椅子へ体を寄せて夢を眠らうよ…… あなたはけふを生きましたか? 時計の音に耳をかたぶかせながら窓の外の闇夜と月明かりを思ふあなたは時の波動のささめきごゑを聞ひてをりますか? 荒々しひ力の風が吹くやうで窓が鳴る小部屋にゐて… (けふは日の明るひ日だつた。夢よ、うつつのこゑを紙のうへ旧仮名のまま綴つてよ))

 さきほどから詩を書いています。原稿用紙を鉛筆が追ってゆく字で桝目を満たしています。書くほどに書かれる言葉へ私という人が読まれてゆく心地がしており、手はずっと書きたい言葉を綴ろうとなぞっていて書くことと読むこととに鉛筆は右往左往しています。声よ…、この深夜に私の身をざわめかす言葉よ、詩を書く私の心の所作をお前は読んでいるぞ…… 声が私を読むから私は詩を書くのだ。

 (今日を私は充分に生きただらうか。身に問ふ思ひをやはり旧仮名にてしたためるこゑへも問ふ。書きなずむ言葉とこゑへ。思はうとして思ひなく私の言葉とこゑの波動をさまよふお前は何者か。おまへは一体問はれやう者か。何も思はず何も答へのなひ文字よ…)

 こんなこゑが喉のもとの渚を震はして聞こへてをります。首をとほる言葉の管に耳を澄ますやうなこゑの発ち方でした。喉の底の渚にゐる女と風の出入りする入り江をしづかに歩ひてゐる心地です。(春となつたら霞も通つてゆく瀬の広い入り江だなぁ……) この渚……、やはらかひ渚をこゑは湛へてをります。小夜の身の喉へつどふ江のざはめき渡る波を手に掬ふやうに凝つと言葉を聞ひてゐます。恋しひ声だ……

 雪が降る。時計の音から雪が。物思いを雪の音に変えていく針の音だ。夜中だけする雪降る静かさに聞き入る冬の一日。寒い真冬。

 机があり机の上に紙があり鉛筆で詩を書いています。夢にも付いてきて夢を明るませる机のうえで詩を書いています。さっきからずっと。樹の肌の色に樹の心を優しく置き、木目を言葉の指でなぞっています。まだ樹の(樹と樹の間の)彼方の闇に呼びかける波濤は浜を探しております。遠くまで机の表何度かの夜をまたぐ旅人よ…。本ばかりたくさんある机から離れ一夜の宿を尋ねよう旅人よ。時計の音が空のように寂かです

   (現代詩人会投稿欄第19期 投稿作)


春の道

本を
たづさへて
春らしひ
郊外の
道を歩ひた
午の
日の
明るひ道を
本をたづさへ
駅に向かつてゐた
鞄の中の
本を
しのびつつ
春の花のかたはらを
歩くほど
本をかへりみ
今の暖かさを懐かしんだ
たづさへ歩く折ふしのしづけさよ……

   (2021年3月11日 Twitter)


ひとよ
ひとへ瀬々らがうこゑを
耳の
形のとほりに
さやぐ器で
すくはふひとの手よ
目には見へなひ
虚しひ水辺にゐて
そつと
耳を立て
その耳といふ
花器の中心には
こゑとなひ
こゑが
瀬々らひで波立ち
音を耳に届けてゐる
浚はうよ浚ひたひその幻の耳よ(耳の夢よ…

   (2021年4月16日 Twitter)


夢の野のすゑ

窓辺より
てうど
かういふ
樹や風や曇り空の
明るく笑ふ
こゑがひかつて聴こへてゐます
窓へ耳を傾げると
川のあをい色合ひを
ささめかして
誰か往来を歩ひてをり
色とりどりの
鳥の鳴くけふは
だうもなつかしひひと日です
しどけなひ
風の吹く音もやはらかく
寂かに座椅子に座つてゐるひとの
心のさなかに在る森を
がうがう
うならせてをります
まう少し
暮れやう春のほとりの方へ
夢の小指でそつとさはり
こゑと言ふこゑを
そぞろに身へたゆたはせる
なべて
この世の現象よ
あなたはどこへ行つたのか

   (現代詩人会投稿欄第20期 投稿作)


また来やう季の頃

やうやく 日の
こはくなつて来た、
春のおはりの往来を
ゆつくり歩ひて
ゐた
差しては
少しずつ岩や土へ
ぶつかり
また差してくる
日の光は
暖かく、
雨と陽光を
夜の
影の積もつた道へ
とても
明るひ
そろそろ虫もさざなまう春だ
耳を澄ませば静かに聴こへる

   (2021年6月4日 Twitter)


時と時の在る所に

あなたを
あなた(…、と
呼ばう時と
その
束の間の時の在つた
所は
まう風の
夢と心の内へ
そつと眠つてゐるだらうか
あなたへ
幻の
霞のさなかの
春や
秋のやうな
あなたへ
心色づかう
新しひ六月の風景の
そのどこかにゐる霞にさはつてみたひ

   (2021年6月4日 Twitter)


憶へ

息(…、をしてゐる身体(…、の中の空管へ
弓なりの(心ある…、
手を
ほのあかく
やはらかひ
風と指で
雪ひでゐました
ここは
だういふ狭ひ部屋だらうか
息に
口を添はせるやうな
目の(…、中の
明るさより
吸ふ息を
指(…、の形に見られる山波で
愛ほしむのだ
どれほど
けふは寂しひのだらう(……

   (2021年7月16日 Twitter)


風……、のかほる……、
かほり……、汗ばむ頬へ
移ろふ
風……、の吹く懐しい頬へ
頬といふ草の野へ
かほり……、
移ろふやう
野を漂ふ
風……、よ
たはやかな風……、と
たゆたふほど
かほる
……この風……、
風の優しひ肌心地よ
誘はれるまま
風……、に
煙らされ
風……、の可愛ひ秋が懐しひ

   (2021年8月6日 Twitter)


あなたが今に生まれたことを

野の
花のかなしひ、その花を
花とかたどる花の
とても寂しひ可愛さより
花と草たちの笑ひ合ふ
声がこの夏の終りのけふへ
響ひてきてゐる
風とほころぶ花々に
目と耳と頬を寄せれば
私も花と花の象る今へ
たゆたふ気がする
花が野を形容し
野の表さうとしてゐる
花たちのこゑをそつと野へ返しつつ

   (2021年9月4日 Twitter)


さはらう手

手づから
愛ほしひ……、と言はば
さうである
夢と夢との行き交ふ往来に
そつと心ささめき
月の光りの影同士を
闘はすやう妻恋ふお前たち
草のそよぎ……
秋の虫のこゑの瀬々らぎ……
悶へつつ
かういふ夜風を愛ほしむ
けふはみな
切なくうたふ
哀しひ……、と言はば
凡そ哀しひ……

  (2021年10月1日 Twitter)


秋の日と出会ふ

(2021年10月6日 Twitter)


雨ふり

夜になつてやうやく
雨がしづしづ降り始めた
干ひた雨粒は夜道にさざなみ
目に見へなひ
気配をうるほし
まばらな滴の様相のまま
冥ひこの往来を
暮らさう人の心へ降つて
なにがしか
目や耳や体や胸を瀬々らがせ
湿らした
雨らしひ雨が降つた
外灯のもと
これほど暗ひ川の底のやうな
道をめがけて
何もなひまばらの雨が
豊かに此の足下と
空のある身の周りへ
充ち充ち
半袖を着た私の腕や
頬や唇や首筋を
こころ明るませた
雨に
雨のくりかへし降つた海と
雨を海へ
もたらした樹とを
思はされ
とても寂しひ思ひのたつ雨だつた
祈るやうに降つた
雨が雨を祈るやうに雨が降つた
かういふ
夜のかぼそひ音と声を拾つて
風景の色づかひにしづかにさはり
いつか私も
空気のふるへる暗ひ川床に
さざなんで瀬々らぎ濡れるやう
だつた
雨はまばらに紋様を織りこゑをザアザア響かせた

   (現代詩人会投稿欄第21期 投稿作)


わたしは十月……、(の小さな家(のさ中の往来にゐた……

(2021年11月9日)


もみぢする日のもとより

秋を追ふやう
秋の
みづみづしひ日の笑ふこゑを
追ふやうに
あるひはこゑより
追はれるやうに
けふのこの
けふほどの日へ
あなたは身をはためかせ
心より
あなたのまとふ
それら日を
今にくゆらせてゐる
おほく寂しひ
この優しひ午の野へ
秋と会はうと
歩ひてゐると
いつもあなたと出会つてしまふ

   (2021年11月12日 Twitter)


一ト瀬の内に……

そこにこのやうな
心の
愛ほしく
愛ほしひと言ふ
それが小さひ
そして風に
強ひその野生らしひ
言葉の細波が在つた
たふれて また たふれやうと
戦き あるひは立ち
立つてもただ
寂しく その寂しさと言ふ
みづみづしさをもつて
愛ほしひ在り方で野に
日々を生きる
こゑの風になびく様子と
それに似た
けふの花と草が在つた 在る程在つた

   (2021年12月17日 Twitter)


日の差す時の(心の)拠り所に居合はせた…

日のあたたかさの
目に白く
よはよはしひ程
けふを
その寂しさより
暮れやうとあはひ
冬の今
日に時めく此の所へ
日のさしてきてゐる
光より四方へは
鳥のこゑのとよめき
花はかそかに咲き
その花と鳥の静かな
無窮のこゑを
日はけふへ霞ませてある
冬らしく
寒ければ
鮮やかと言ふよりなひ色と香りを煙らせてゐる

   (2021年12月17日 Twitter)


十二月三十一日

この冬の 冬の夜の暗ひ
暗ひと言ふより たださざなむやうな
叢の ひとつひとつの乾ひた花と
そこに寄せる 冬の
冬らしひ時の尊ひ けふの出会ひへ
またとなく夜風より
聴こへるやうな
こゑを綴つた そのこゑたちと
出会ふけふと けふとして在るこの叢の
花と草と虫のうたふ
こゑの透きとほるほど
やはらかひ しづかな風景へ
その風の色のたゆたふ今へ
あなたとゐると
それらこゑに 手を添へながら
在る思ひがして だうも切なひ
ひとはその叢のその時々の折ごとに
恥じらふやうでゐた こゑに正しく恥じらつてゐた

   (2021年12月31日 note)




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