『大阪』-1

2021年8月21日

東京の赤坂というところにある、双子のライオン堂という本屋さんで、この本を買った。こないだ出版した私家版詩集を扱っていただいていて、近くへ行った折に、動いていますか、と尋ねるついでに一冊買ったのだった。変わらず瀟洒な店内で、読みたいという欲求を刺激する本に囲まれていると、それだけで楽しくなるが、そのときはお店奥を改修中で、まだ本が増えるということだった。近々行きたいなぁ、と思いつつ、その後なかなか行けていない。

店主さんと少しお話しをして、オススメの本はありますか、と聞いてみた。あまりにざっくばらんな問いかけだったので、彼が困ってしまい、それでは岸政彦さんの本が読みたいのですが、何かありませんか、と言ってみた。ちょうど店内では岸さんの本を特集していて、話題に軽く花がさき、どれも面白そうですね、というところに落ち着いたが、彼がことにススめてくれたのがこの『大阪』で、私も話題になっていたのをそれとなく知っていたので、買うことにしてみた。彼が、写真もあるんですよ、と言うので、指さす方を見上げると天井近くに数枚飾ってあり、私はざーっと眺めた。本を早く読みたかった。

確か、六月か七月の初め頃の話だったと思う。その時、帰りの電車の中でひもといてみると、岸さんのはっきりとした、しかしユーモアのある声が聞こえてきて、ああ、この本は読みきるなぁ、と思った。そういえば桜桃忌の近くだったので、六月かも知れない。三鷹で下車をした気がする。

しかしその後、通勤電車の中で、たまたま本を開ける余裕のあるときにばかり読んでいるとなかなか進まず、まだ柴崎友香さんの一つ目の文の七合目のあたりにいる。通勤用のカバンに入れているのと、いろいろな本を同時に読む悪癖があって、全く進んでいない。他に読みさしたままの本が何冊もある。

だがたった少しの時間でも、読むという行為との対話は、私にはとても貴重で、読んでいると、自分が活字中毒なのかも知れない、と思われてくる。実を言うと、今日も仕事の休憩時間に本屋さんをぶらついていて、目当ては泉鏡花の全句集だったのだけど、ハシゴを続けて詩歌句集のコーナーで様々な本を立ち読みしていた。(永田和宏さんの歌集や、前登志夫さんのエッセイを見かけてうなったし、まるで正気にかえるような心地良い時だった。味わい深い文を読むと、目が雪がれる気がするので、活字中毒なのでは、とその後考え込んだ。)

たった五分程度の読書を、気ままに続けているので、いつ読み終わるともわからないが、この本は読み終えるなぁ、という予感には、本を開くつど出会う。ライオン堂の店主さんにススめられたときは私もノリで買ったが、考えると良い本に出会えた気がする。

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