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詩96 憂さ

憂さ

風と風の定まらづにゐて
木を数へさせ
空の色を落ち着かせうるさがらせる
風とばかり
ただ風にこたへてあるのを
さも年の暮れ方に似て
さう愁ふとしか言へ得ずにあり
かへつてその時の傾く所を
ひとにだらしなく
言葉のとほる恋ほしさに酔ひ
風に手を合はせ損ねてしまふ日を
さうあるとしか思ほへず
こだはり叱りかなしむ今は春に似てゐる
願ふところや
嫌ふところを漂はせ
沸ひてくる目の前の水を見るやうに
たはやかでありのどかでありこはくあり
凪ぐ風をさう呼び得なひことを春とさう書く

/小倉信夫

二〇二四年三月三十日

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