こゑを手に拾ふ日より - 13

こゑを手に拾ふ日より  二〇二三年一月


 時のかほどそらぞらしひ、暮れかかりつつ時の内のこゑのなひ、飽く程に、同じひ色合ひとおほきさと陰のこがねのうつろひ方とをくりかへし、手と、手の表しかたどる寂漠ばかり、時の失ふ、こゑの円みを恰も失ふ、失はうまま、空そのものを寂しんで見てゐる。

二〇二三年一月八日


 平静をその日と日の折り返す、暮らしの波のおもてを空に、寄せるとも散るとも笑まはうともなく同じ動作をつづらに束ね、かうまで物と物の境のこゑに耳を澄ませる、日をまた畳み表へ返すやう、聴こへるこゑへ立ち留まりたく、文字の在り処の片はらへ、その日の風や光の色合ひを思ふ仕草で、手を添へることは、読むといふことらしひと思ふ。それをもし、情愛と言はば淵の深ひ情愛であると考へられ、さうして自づから考へることより、いつか平静もつづらにその情愛の静かさの内にゐると思ひ、またあはくさう感じる。

二〇二三年一月十五日


 立ち枯れた樹の並ぶ程、わたくしの身の程度より手前から、しだひに景色のとほくへ樹をずつと序べてゆき、規めに正しく、樹も樹を見凝める私の目の向かうも、道の程の奥まるに連なつて色や光や、それに伴ふ空を失ひ、やはり冬は官能のしたためるこゑをかうまで白ませるのだと、考へつつ身よりわたしくしを歩かせてゐた。こゑの芯のこごへて寒く、色と光を失ひながら、何もなひ五つの心を冴へて静かに、冬を冬らしく、春もまた近ひ折かと、樹の序びから思はれる。とほくまで樹の各々ふるへ、寒々しひ、波を身許へ寄せながら、わたくしは身さへ失ひ、冬のとよめく、官能の淵の近くを毎日のやうに歩ひて過ごす。

二〇二三年一月十九日


 冬の佇ち樹がさも嬉しさうに、それを其の地の上や平らな空の周辺に佇つ樹であると、姿を冬の枯れた樹のまま、あなたのまなざしの内に現れ、其の時刻を夜と設へる程の暗さを、だうもあなたの目と耳と鼻と手を通してそれと得られてくる、心なひ其の真心の儚さへ伝へ、その内を漂ひたさうに輝ひてゐる。夢をさへ、佇つそれら樹のならぶ周囲の、目のさなかのとほのく手前の景色より、発つこゑのあるとして、こゑを其の目と耳で聴くなら、樹佇ちの姿形を震はせ虚ろはせはかなませていく物として、あなたは忘れられるだらうか。夜空に対して樹の言ふことのなひ、枝と枝を影にたがへる佇ち姿を、幻と思ひつつ。

二〇二三年一月二十九日

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