『火を焚きなさい』

2021年8月27日

施設の待合で手持ち無沙汰になったので、近くの本屋さんで本を買った。それを待合や電車の中などで少しずつ読み進めて、一ヶ月くらいで読み終えた。今日、新宿から多摩方面に向かう電車の座席に座って、三章分くらいを一気に読み、読み終えたときには感慨と、気持ちにすがすがしさのある一冊だった。乗り換えるために下車しつつ、家に帰るまで次の本は開けずに、途中、スーパーで買ったお茶をホームで飲む間も考え込んでいたくらい、読む行為や書く行為に心が引っ張られ、実りの多い読書だった気がする。

私には終わり数章前あたりの詩が一番よかった。深い思索と生活の実感と、山尾さんの官能とがあわさって、それまでの運動的な性格の詩より、増して認知の深みにいざなわれる様は、圧巻といった感じがある。声の豊かさに包まれていたんだなぁ、そして彼自身がその声の豊かさの一つだったんだなぁ、と実感される、凄い言葉だと思う。

やっと帰り着いて、そこからその日の夕食を買うためにスーパーへ歩く間、読むことや書くことについて考えたが、今は少し昏くなっている気がする。当たり前のことに当たり前に気がつくためには、自分の声と息についてよく知らなくてはいけないし、たった一人ではそれを知ることもできないので、世の中の現象に広く耳を澄ませていられたらなぁ、と思うのだ。

だいぶ心が雪がれる読書になったし、いつか読み返すかも知れない。それくらい、衒いもなく言葉の深みについて考えさせられる本だった。

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