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詩94 日暮れ

日暮れ

ひとより此のひとの言ふことを考へて
かなしひと思へる心を発たせられたり
ゆゑよりまたわざまでなく
川のやうとも淵のやうとも
戸やまな板の片はらの底ひのやうとも知れず
激しひと思ひ深ひと思ふ心を発たせられ
さう思ふひとも考へてゐるひとも
同じくひと朝の霞に似た同じひとでゐて
あたかも詩を紙のうへにしたため
本と言ふ形をとつて
姿までくぐもらせてしまふ
言葉のもとへ言葉の重なつて綴られてある
思ひ出すことと覚へのなさに似た心の
こゑそのもののやはらかさとして聴こへる
日と日との境より日は日を追ひかけ
日のうしろにも日は暮れかかり
いさかふことや負ふことや手遊びの
服を纏ひ食らへる物を整へて読む事を諦める

/小倉信夫

二〇二四年三月三日

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