『かぜがおうちをみつけるまで』

2021年8月31日

今年七月に開催された八王子古本まつりで買った絵本を、積んでいた束の中から出してきて、電車の中で読んでいた。谷川俊太郎さんの訳した言葉から、命の息吹が身近に感じられるのと、レイチェル・カーソンみたいな思想だなぁ、と思った本をふたたび開くと、やはり言葉から生が溢れてくるようで、電車に乗りながら心は海辺にいるようだった。

森閑としていて、しかし嵐の兆しもあり、砂浜はのたうつ海に浚われるまま静まっている傍らで、海の心にじっと耳を澄ませている気がする。読みながら、カーソンっぽさも感じたが、思い浮かべていたのは、堀口大学が訳した有名なジャン・コクトーの詩で、その二行の詩を一冊の絵本にしたようだとも感じられる。波打ち際が耳そのものになって、その耳が海を懐かしんでいるような、神秘的な絵本だと思う。

カーソンには『海辺』という本もあって、それはだいぶ学術的なエッセイなのだけど、この本は『センス・オブ・ワンダー』の感受性へ近かった。自然の心を読んで、声をかけた自然から声と心が返ってきたのを聴き、またその声と心へ言葉を返して、そうして自身の言語と心の成り立ちへ触れようとする、科学的な絵本かも知れない。

電車に乗りながら海辺にいるようだと言うと変だけど、本当にそんな無窮の対話をしているような感覚になった。それくらい、この本を発見したことを喜びながら電車に乗っていたのだ。谷川さんの平易な言葉を読みつつ、命の生まれてくるところについてそっと教えられる、素敵な絵本に出会えたと思う。

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