2023年の詩

造型

ものの輪郭を表さうとなぞり
指のほとりへ指を置き
定まらうものの
質量は失はれ ただおぐらく
そこにものそのものの
輪郭をとほしつつ
姿形を視 問ふ 忘れることより
こゑを訪ふこころの無さを
ただ現象として
わたくしもそのものの周りを
漂はうとし 漂はずにゐる
思ふことより
ひとの思ひと思ひの携へてゐる気配とを
また思ひを目裏に
映さうとする思惟をふたたび
官能し やはり失ひ
漠然とさうして 思ふことを思ひ始める
それらをなべて形式を問ふ仕草として又思ふ

2023年1月4日 Twitter


拍子

識ることのさう在れば
定まりなく
落ち着かうとなく 識らうとする
こゑをこゑの周りに這はせ
いづくへ何か思はうとするでもなく
識ることの
さう在る時や所ばかりのやうな愛しさを
識ると言ふ 感情と
行ひの識るばかり
ただ同じくさう在るよりなひ言葉と
こゑを そのこゑの片はらか
又はほとりへ 置ひたり 拾つたり
手よりそつと元ゐた所に
返したりして 識ることを思ふといふ
心の動きを耳となく手となく両の目となく
言葉の在る 在ることで失はれてゐる
胸の空洞と中枢ほどの
何をか識らうと思ほへる今を再び官能する

2023年1月17日 Twitter


たしなみ

日のうららかさの 日と日のあひだ
耳にわたくしのこゑばかり
添へる手前の
音の身体へ寄せ
まなざしから目の内の光景の裏まで偲び
手でつままうとしても
指を隣へ這はせるたびに
手はそのこゑと
こゑらしひ またはこゑの聴こへなひ
日ざしから
日を日ざしの集ふ土のうへの
笑ひ かなしむ 感情を
手の片はらへ置くのみでゐる
冬の暮れの
ひる時の
ちひさく 何もなひ こゑさへ失ひ
わたくしのまなうらの 頭のうしろへ
こゑといふこゑでなひ波の漂ふ部屋にて息む

2023年1月24日 Twitter


花のしべ

わざの在らう わざに近ひ
心を手に寄せて佇ち
手の許へ おまへのわざと
象るなにほどとまで
形やこゑや色の失くした
心の心と思ふ心の
芯まで深ひ わざばかり
おまへの手許へ 在ると見へる
日を畳み
昼より空の暮れかかり
日の内の
日ばかり歩くうつろのかがよふ
こまやからしひ
小さな部屋の座椅子の前の空の漂ふ
机の見つつ
日を日と為して 此所へおまへの
わざを見 表す思へで またなにを
おまへはわざかと思ふだらうと 業を尋ねる

2023年2月7日 Twitter


波の音

だうしても書かざるといふことを
紙を手前にして
文字を追ふといふより
文字の浮かぶといふこころのまま
綴らうとする情動の
何といふでもなく
摑みどころのなひ
或るとも亡ひとも言ひ難ひやう
物思ひする筆の程度で
文字さへやはりしたためる
これを書くといふ手の為すことの
書かなひといふ行ひとして
文字を目に
まなうらをだうも漂ひさすらふ在り様の
思ふといふ一言へ
収まつてゆく行為ならば
此れを詩と言ひ、詩のこゑとして聴く、
書かざることの夢に笑ふ、又は萌す野と思ふ

2023年2月12日 Twitter


かがよひ

わたくしはさう思ふ
裏側の空ひた管をとほる
規しひ言葉を
耳に手を置くくらひ
摘むと思ふやうに考へる
とどまるこゑの
とどまらふといふはずも失ひ
寄せつつ耳へくりかへす
からだの裏の
音のよく波うちとほる日の光の
明るひ庭や
何と言ふ霞のきはを
さまよふ言葉を
手づから浚ふとやうやく思ひ
さう考へ
風景に騒がしひこゑを聴くらしひ
わたくしはそのやうに
言葉につひて思ひ、過去をわづかにさう語る

2023年2月22日 Twitter


となりゑふ

いづくにかあると思へて
花を瀬と考へる程
日ののちに
日ののたうち
時を波と憶へるやう
くりかへすと言ふ
こゑの現れ
こゑのほとりへ こゑを返し
さうかと言ふと
その閑かさを瀬らしひと
瀬の草の
花やぎらしひと思へ
くりかへしと言はば
のたうつ時を息といふ身の表現として
思はずに思ひ浮かべる
その花やぎに
ただ波うち続けるばかりでゐる
姿形の無ひ草を春と言ふならここへ春のゐる

2023年3月11日 Twitter




こゑを手にていちいち拾ふ
わたくしのゐる
小部屋より こゑの周りのだうもうるさひ
やかましく または明るひやうな
こゑのよく聴こへる心より
手にてこゑを拾ふくらひ わたくしは
落ち着ひてゐる
同じ手の同じ指を
しまふところをてうど忘れてをり
いつかまた
手はこゑの周りをなぞる
悩ましひ波のほとりへ
しまはれてゐるのを
夜の空の余りのうるほひに
騒がしひこゑの漂ひ
春ほどの
霞くらひに空へ置かれて在るのを見つけ
憶へ 考へる 春もけふへ落ち着く為と思ふ

2023年3月23日 Twitter


恥じらひ

ただに何をか思ふわたくしの
どれほど思はうとして
思ひを重ね
だうにか浚ひ 若しくは把み
手の許へ思ひをまた
思ふすべも失ふまま置ひて
わたくしの
身のまはりにゐる草や
川や風や それとも思ひを
思はうまへへ連なる思への風合ひや
さういふ小さく 優しく
こまやかであり
それとともに一人として身のまはりには
人気なひ春の野の霞であり
然しだうも人心地する
春雨と日の在るけふの夜より朝に
思ふことより日を辿り
何もまた象られずに思へは私の声を儚ませる

2023年3月29日 Twitter


感想

日をかへし 昨日と同じひ
日の明るみの其の所にゐなひ
けふと言ふ程
いまばかり其の時を
思ほへる そればかり時を真昼と
言ふならやはり
日の光はどこまでも差すくらひ明るく続き
それがその日を
昨日にはなひけふとして
思はれるのを
わたくしは思ふと言ひ
言ふといふ行ひを日のかへす
道のほどへと
色付ける為
思ふと言へて さうあればその言葉は
思ふと言ふよりただに寂しひ
色の在り その色合ひの騒がしひ風景の
漂ふ思ひを寂しひと言ひ 然しこはくは失ひ

2023年4月2日 Twitter


言ひ黙す

発つこゑに こゑの内
こゑよりいづくか発たうとして
発つこゑに こゑの許の
こゑの発つ こゑと言はれる他言はれやうの
見当たらなひ こゑを
発つこゑへ 添はせ 尊び そのこゑより
離れつつ 目の前へゐなひわたくしとして
こゑを空しく
こゑの許 何もせずにゐてしまふ
道を歩ひてゐれば
ただ思はれ 思ふがために
こころの生まれるところのあり
それをまた心であると考へるものの
しかし幾つも
思はれることの思ふといふ
思ふもとより何もなひ
こゑを寂しく物語りする風景の
身の内に在るばかりだと思ふ 詩の足元より

2023年4月13日 Twitter


叙景

やうやく日の暮れかかる折
日ざしから日の隣へ映る日ざしを手で
寄せては手繰り
手の移ろふ手の気の程と
日のさなかの空の内
いづくか空の在る気配の消へつつ失せ
又あせてしまふやう
通りの麓の建物の裾と
往来のにぎやかさ
華やかでゐつつ静かな風情を
片目に映し 目の裏側で失ひ
無ひ風景を淵のやうにしならせて
わたくしは歩ひて渉り
日ざしばかりまた 手の許へ
かぎろはせるのを懐かしんでゐた
をりふしに
時と所を幾ばくと違へたとして
いづくにゐても私は其の所を今と思へられる

2023年4月23日 Twitter


うつろひ

こゑのする 日の落ちきるやう
だうにも定まらずこゑの深ひ
よほどと言ふほど
ふかく重く淡ひ淵より
こゑのすると言はうか
何をかこころ手にて探り
手づから畳む習ひでもつて
そのとほりの表の
日のとほ去かる
闇と思へるばかり夜の静かさを
やぶをだうも見やりつつ
このやうに言ひ表したくなつてしまふ
ひと日をふたたび
まうひと日として身のほどへ手繰り
その過ごし方さへ
今ばかり夜を夜とばかり
官能し思ほへる
このこころの深さを詩と言はば詩とも思へる

2023年5月3日 Twitter


こづゑのもと

わたくしを身の周りから見て
身の程をわづかに支へ
大事に扱ふ 言ふなれば
扱ふと言ふ片はらで身のうへを
立てつつかたどり
さうしてその身を切なくあしらふと
言へばまた
身と言へる身の周りから表立つ
こゑにかなふと思へるらしひ
こゑをたてる
そのこゑは
わたくしの身をわたくしと
言ふのみでゐるその時の
ひと時となひ切なさのほとりにて
身の周りより見るわたくしの
身と同じひやうに
だうしても切ながり哀しひ程のこはささへ
とほざけつつ そのやうであり 唯に失せる

2023年5月10日 Twitter


下解

どのやうに思はれ だう定められてか
捉へ難ひまなざしの
識るといふ
識り得なひことを言ひ交はし
聴くことと触れることより
そのひとの
目の裏と表に通ひ合ふやう
なぜか思はれ
あるひはわたくしも
そのやうに識られず 言ひ当たらず
ただ輪郭と形式のある風景として
今のこの
ひとときの内に置かれてゐるらしひ
其の所までいづくか儚く
漂へる 風と言はうか 光と言はうか
林のほとりで
識ることのあり得なひ
そのひとの形式を想像し 形式を解ひてゐる

2023年5月14日 Twitter




雨のかうも降る日のたたみ
日より日の折合ふやう
雨音の潤ふといふ
さういふけふで在ると思へてゐる
その思ほへる
雨のにはかに深まつて降り
小暗ひ日の
日の影と淵を追ひ
指より手の心に連ね
雨のこれほどこはく在り
またその雨ばかり降る
ひと時のくりかへし
しづく寂しさを
だう思ふならわたくしは
雨の日の追ふ
雨ばかり追はれる雨を
心のさなかへ疎ませられるだらう
音をたてて雨の降るけふを雨のうるさく象る

2023年5月20日 Twitter


思淵

雨夜の夜のいづれか貧しひ
夜の雨をとほして
思ふところの
延べやうにも身体の内の
思ひのその空しひ所へ
定まり得なひで
ただ夜の得体の暗さを
思ふといふ行為から
思ふその思へを
沈めるばかり
夜の雨の雨音を身へとほしつつ
このしどけなひ日を
雨夜と言ふと
だうもこの心のしづく思ひで
考へてゐる
雨より幾つも音はたたず
夜はまた夜のひと時までの
うつろふ暗さを雨音の岸辺で深め滴き深まる

2023年6月2日


抵当

夜を夜と言へる時刻の今
まなざしの移ろふ表へ
あらはしこごめると言ふばかり
夜をとほすと見倣す
わたくしのゐる夜の淵の手前より
又は手前と言ひたくなる
これほど静かで音にあふれ
せつなひ思ひやむなしひ感情の
いづれか明るひひと夜の内と
かへりみたくなり
さうして手にさはれるやうな実態を
いづくにも得ることのかなはなひ
定めのなさを時として
したためやうと考へてゐる
目の見つめる空と時と所の間の
見てゐるものの失はれ
ただに静かである闇を深める
わたくしの目前に現象する夜を今も切ながる

2023年6月8日 Twitter


静かさ

音をまた音と為さなひ程
部屋に膨らみ
飽くまでいづれか満ちてゐるとも
その物音の
音のうしろにゐて音の色をさう収める
夜の空と空の漂ふ風の黒く
同じひ位ふかひ為
物音のいづくへ発つ
音のまはりでその音の色を失ふやう
初夏にまうほど近ひ
部屋にひとりゐしつつ夜の暗ひ
物音へ耳をそば立ててゐる
林と言はうか
林のほとりの道と言はうか
いづれか深く
物音のうるさひほど
夜をあをらめ寂しく静かにしてゐる
その物音の発つ所を思ひつつ光さへ色を失ふ

2023年6月14日 Twitter


かげろひ

宵の暮れやう頃とも思へる
目のこころの表までとほのくやう
目の当たり憶へられ
そのまなうらの
誰もをらずいづれも語らず
未だ風ばかり
目に見へる樹のあかく静もる
机の前へ寄せてくるのを
目の前とうしろの景色を風に
無ひものとして象れるとも
考へられ涼しんでゐる
表は暗く
暗ひこころと時の在るのを
思はうことより
未ださう語れる程に暗ひ時の頃合ひも
更けてきてゐなければ
ただ黙したくなり
それは今の目の裏の机の上をなほ明るませる

2023年6月18日 Twitter


虚偽

今はほんたうに静かで暗ひ
此の夜を何もなく
音をたてると言ふことをさへ
忘れてゐるくらひ
目に見へる風景の色彩と
明かりの暮れた闇ばかりの
影の漂ふ時刻のさなかに
おまへたちもまたうるさく
息を潜めて眠るらしひ
夜の余り蒙く
まなざしのうつろふ所へ
思へば飽くまで
音にせよ彩りにせよ何もなひのを
だうしてもまた
此の言はば闇とのみしか言ひやうのなく
考へられるけふの夜であり
憶への内の昨日の夜に再び似てゐる
身の周りの暗さを夜に喩へれば夜は尚深まる

2023年6月22日 Twitter


追想

夜をとほしかうして影の
いづくとなく在るらしひと
思へられ
また思へる程したためられ
目の許にゐなひ
樹や叢や石の暗く重く目差しに映らずにゐる
その形象と色合ひの表とを
心より目をうつろはせつつ
まなうらに
思ふやうな思はなひやうな切なさで
梅雨のしどけなさの在る夜を
だうもこころもとなくてゐる
雨音のくりかへし
この蒸せる夜の幾程かの時の合ひ間を
さもとほくより部屋の戸へ
さざなませおほよその戸の周りまで
影を静かに深めてゆき
雨粒と雨音の外にある可愛らしさを思はせる

2023年7月6日 Twitter


灯影

此方のところこのやうに
目のまへにゐなひことより
いづれとも考へられず詳らかに現象する
形のなくその音はわづかであり
いつも暗ひ夜の風景の
どこかにゐて影ばかりまた漂ふお前たちを
思ふと言ふことさへ
思ひ出さなひ日のくり返しの内にゐる
さうと言へば灯の明かりの
身のひとつ在る目の許に表れ
まなざしの芯まで明るみ
それによつて音の絶へた部屋にゐる身を
夜を幾つまでとほして
静かなほどに騒いでゐる
時刻といふ時の表現を
昨日と同じく切ながるやう
また何も思ひ出せず
いくつとなひ日のつどに詩に表して考へる

2023年7月9日 Twitter


一時

ひと日をかうして手のうへに畳み
昨日とけふの時刻の続く
くりかへしと明らめたくなる
昨日の背にある
そのとほざかり漂ふやう
けふの周りへも問ひかけてくる言葉のとなり
言葉に似たそれをひと日として考へ
あらたに識る時の
莫として面白ひ感情をまた手に畳んでゐる
思ふと言へば
それより静かな寂しさのゐる風景の内
かういつた
胸に時ばかり空の暗さを伴ふ思ひの
あると言ふほどになひまま萌す
漠然としか言ひ表し難ひ感覚を
思ふとも漂ふとも考へられて
詩に書くことで口惜しひ思ひのしてしまふ
夏まで幾日となひ半端な時をさう振り返る

2023年7月12日 Twitter


午睡

何かを書くといふ気も起たず
書くまでなひことをだうあらうか
書きならべやうといふ積もりもなく
書かなければ書かなひまま
書かれやうなく文字としてあるやうな
ここに詩としてもゐなひやうな気のしてゐる
日々をつづらに折りたたんだ
日のうるさひけふを
詩とも何とも言はずに書ひてゐる
書かずにゐやうと思ひ立ち
書くことのとなりあはせにゐる思への
書かうといふまま書くでもなくあらはれる
時間を確かめ暮らしの縁をとほまはり
またどのやうにもかたどれなひで漂つてゐる
風景ともその彩りとも手触りとも
考へがたひ気怠さをまへに
書ひてもゐなひことを書くらしひ
それはまた書くことの縁を遠廻る夢かと思ふ

2023年7月23日 note


縁の中

やうやく夏の日のうるさがり
暑ひばかりの時候を日ごとにくりかへしつつ
夜の風景をにぎはせてゐる
言葉の失せ
またはこころより色あせてしまふやう
静かさのあへて深まる道を歩ひてゐる
おもむろにその
暑さをあじはひ暑ひまま暮れてゆく日の
ひと時の終はりまでうるさがる
こゑのなひ日をかへりみて
日ごとと言へばこの日ごと
夏のこころのやるせなさの内に
詩を問ふやうで問はずにをり
詩を書く様子を忘れてゐたと考へてゐた
夜をとほすまで
さはがしくにぎやかな寂しさを
樹のたたずまひと凪ひ風と虫のこゑとが表し
その表せる夏の内側を思ふことなくてゐる

2023年8月3日 note


夏の遅れ

わたくしにはかう思へる
思ふことより手の許にあつて
その手にてさはれる内の言葉として考へられ
ただ思つたらしひと思はれるやう
かう思へると
手の裏のこゑの岸のほとりに仮定しつつ
思へることを伝へやうとする片はらより
こゑを果てまでむなしくしてしまひ
思ふといふ
日のつづらに差すひと日ごとの
残ると言はうか在ると言はうか
こゑばかり優しくまろく聴こへる気のする
そのやうにそのひとつの時を
考へ仮定し直し象れたとして
日のあたたかひばかり
木洩れるやうな夏の暮れ方の風景を
こゑのたつ
日と日ばかりの隙間の道を騒がしく辿れる

2023年8月24日 note


秋の口

思ふことより日を手に揃へ
その日の日や時の折合ふ量の豊かさばかり
身のまはりを囲ふ静かさと
身の内の心のうるささまで数へて
思ふことを疑ふゆゑさへ失ふやうに
身のまはりへも内側へも覚へのなひ思ひを
時といふ時の暮れ方として
詩のうへより手前へ連ねたくてゐた
ただ聴こへるまでの
聴くことの身と身を分ける聞き思へ方は
こゑの発ち
発つこゑのまた指の折合ふ日の許へ返り
ふたたびくらひ明るみながら
窓の辺に
時めく宵の恋しさのあるらしひことを
暮れ方の余りの時や日の量の多さから考へて
秋もそろそろ心を開き
ゆゑもなく誰とも言はず枯れて行かうとする

2023年9月14日 note


森の秋

ことごとのまはりの明るむ姿と
姿形として考へ得なひで手の許へ明るみ
また優しく亡んでゐるその言葉の
輪りを囲ふ怪しさや影のなさと思へる位
だう思はうか
中まで在り方の定まらずに
なぞらへるばかり問ひ
あらためやうと考へ直し
耳の片はらへ仕舞ふまで盛んな反響として
いづれとまで優しく佇むやうに思ふ
ひとの官能は
いたづらに手遊びを学ぶと
それをだうもくりかへし
習ひとするうちに憎らしさも失せてしまひ
その手遊びをまた諳んじて
くちづさむやうに指にてしたため
おのづから身の何かの思ひと照らし合ひ
定まりを得るらしひ 秋も日を追ひ深まれる

2023年9月28日 note


話す事

日が暮れてより時の経つて
安らかに思ほへる官能の
灯の明るさまで
かうまでとほく物の表を縁どるのを
昼の日の内の
昨日まで失はれ翌る日にはまたあらはれ
時のとなりには
同じく彩りの重なつて行くやうな
けふばかりの枯れたやぶや
色の変わつた樹の葉や丈のなへてきた草や
日の光まで
昨日といふ所のあつたらしひと考へさせる
景色や物の姿ばかり思ひ出されて
さながら時を秋と言ひたくなつてしまふ
ひと時の
暮れ方の内に秘めて行き
仕舞ふと言ふ仕草に近ひ身の動きで
秋らしく草と草の集ふ所の跡地へと安みたひ

2023年10月11日 note


底冷へ

このやうにして山なみのある
山なみを見て翌る日の
日の光を整ふともうるさひとも考へ
昨日のわたくしより
さう明るんでゐたと思へられて
それを仄かに明るくなひと
こゑもなく拒んでしまふ
光はさらに光の内にけふの日のあることを
うとましく考へさせてきて
それによりなほ
山容のわたくしの身の片はらに置かれ
その肌のなめらかであり
風のたはみ色気づくのを
さも深ひ過去や手ざはりの空しひやうな
わたくしの目の前と背の後ろにゐる私の
考へることを諦めてゐる姿と影を
その朝の日の光の
とどこほりなひ束の間の内に見る気のする

2023年10月19日 note


昨日まで

此所へいつ頃かの線の細さと
さういふ輪郭といふものの定かでなひ
それを表すなら
なぞらへると言ひたくなる
言葉ほどの波と
波より立ち波に連なり
自づからひとつの波や線として其の所へ在る
見当のなひ
色と色の境へ横たはり
なぞらへるとばかり言ひ表せる
其のとほくから
夜らしく薄暗くまなうらの明日まで眠ひと
居座る姿の此の所へ届ひてくる
何を言はうと
かける言葉のなく考へられて
ただその容姿を耳に聴くまま
こゑもなくて詩を手前に目を凝らしてゐる
伝へたひと言ふ前に明日も静かと思ひつつ

2023年11月2日 note


ひとところにて

空の青ひ色のあをさまで
むなしがり明るみつつ
目にかはくまで
このやうに晴れて見へるのを
其の時にさへづりの聴こへてきて
まなうらに広ひ
さういふ日の色の漂ふ空を
朝と
朝に連なるけふまでの明日かと思ふ
此の朝はかう見へて
かうあればおほよそこのやうに
空のもとに光景のうつろふだらうと
樹の影の樹とその梢の間からのぞかれ
若しかしたらくれなゐの
わたくしの昨日にゐたらしく又はゐたといふ
日より日の折りたたむ様子を
目の前に仮りそめにある樹の葉の赤さに
諳んじられさはがしく秋として空まで明るひ

2023年11月22日 note


かなしさ

日のことを終ふまで
此所を日差しの背景より
色の日によつて手のほとりまで色合ひの見へ
空の芯と言はうか
芯のまろさと言はうか
寄る辺なひかはひらしさに似た思ひを
目の前へ光と色と音のあつて
飽くまでと言はば
絶へず此の明るさの背の表の川と
川の波音のやうな騒がしさに
音も色も光もなく
ただ部屋のここにある
あつてその部屋の片はらにゐると言ふ
さういつた思ひを得て
得つつまた空のほとほと空しひ芯のまはりへ
うちやつてしまふ
宵ちかくまだやかましさの残る頃
空といふ空の色のあせて遠離るのを口惜しむ

2023年12月2日 note


食らふ

思はうにもやる瀬なく
かう言ふこころのこゑの発ち方や
またはそつとした
こゑのあらはし方から波うたせ方につひて
だうはかなまうと
雨のくだれば凍へさうな日のつどに
寄せたもののかへして行くやう
風の漂ふ木と鳥と往時のとほりの脇にゐて
思はうまでの言葉のゐどころの無さを
冬の立ち木の枯れ方の表から先へ
深めると言はうか
浅まると言はうか
ただ空のかはひた瀬々らぎに
もやふほどでゐるやうに考へられる
確かめるなら
鳥の鳴き発ち渡る日の空の
これを身のまはりと言ひたくなり
やる瀬なくただ朝の日のうるさひと思ひたひ

2023年12月17日 note


寒さ

今にこの陰や日や雲の湿やかさの現れ
昨日にも同じひやうに
つまびらかに其の所へ漂つてゐて
また明るまづ
目の前になくさうして色合ひをかはかせつつ
寂しくあるこゑの響き方を
森の木に喩へ
空に見られる日のおくり方に喩へ
あるひはただ詩を書くひとの
手のひとつひとつの運び方に喩へながら
それを閑かさと言ふ表し方で
目に見たり手に触れたり耳に尋ねたり
さう扱ふのが
今に適ふと思はれてきてゐる
このこゑや言葉に向かふひとの仕草を
明るさや暗さの感じ得方から
かうまで時のくりかへし
春に始まり冬に暮れるけふの切なさと見へる

2023年12月31日 note

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