こゑを手に拾ふ日より - 7

こゑを手に拾ふ日より  二〇二二年七月


 こゑを追ふ……、追はうとして聴ひてしまひ、聴きつつ辿る……、耳に目を沿はせるやうに目のてうど円ひ、円く落ち着かうと広がる光景の明るひ色合ひを……、こゑに合はせて鎮かにしてしまふ……、ひとはしづかに華やひでをり、こゑを追ふなら、そのこゑの在る……、けふの片はらの往来は、ひとらのこゑに充ち充ちてゐた。昼間から夕べまで日とともにこゑは風にしなり、景色をあたため、こゑそのものの柔らかさを日陰のまはりへ漂はせつつ、とてもしづかでゐた。さういふ瞬く間だつた。暫く人を厭ふ気の起こる鎮かさを、こゑを手に追ひつつ考へてゐた……

二〇二二年七月六日


 拾ふ……、落穂(ばかりでなく……、)落葉や(その落葉の……、)心の並び方に見られる落穂を……、(私は)余りしづかに拾ふ……、拾ひ、それとも拾ひたかつた。こゑの(樹の濃ひ影に……、)さざめき、またその葉の鳴る音の寂しさは笑ふやうでもあり、道を辿る草といふ草の(葉の並ぶこゑの……、)音の無さは、それぞれ風に体(と心の姿や形……、)を乱しつつ、(昼といふ時に……、)驚くやうであり、きつとその樹と草の陰で落穂を拾ひたかつた……。土のうへこゑと手をしづかに行き交はせてゐたかつた……

二〇二二年七月七日


 花のしほれ……、しほれるやうに草臥れ……、草臥れつつ花であり……、なほうるはしく蕾をとじてゐて、宵とともに細く枝垂れてゐるのを、その闇の静かな落ち着き方さへ目に鮮やぐやうで、花の蕾の思はず肩に触れた思ひを、けふの七夕らしひ夜の星ばかりの輝き方へ、重ねるこころでゐた。虫らのこゑも妻恋ふばかりたはやかに聴こへて来てゐる。

二〇二二年七月七日


 雨ばかり(雨のおとなしく(怖ひばかり激しく……、)このやうにしづかに降るばかり……、)雨の降る……、こゑのたゆたふ雨の、人の顔を幾つか曇らせ、考へさせ、又は目を笑はせるやう……、企みもなくまたおとなしく降つてゐる。雨の(この瀑く音を聴ひてゐる間)こゑの雨と(雨の間の……、)樹の陰に佇つ雨脚のしづけさより、だうしてそれらこゑは自由に響ひて聴こへたのか、考へても分からなひ。あるひはこの思ひは、寂しひと言ふことかも知れなひが、愛ほしいと言ふことかとも思ふ。雨はけふ、のどかに降つた……

二〇二二年七月十二日


 人の言ふ(こゑの……、(どこか川のやうに優しく、また風に近くおとなしひ……、野と野に近く在る街の(しづけさより……、発ち、哀しみ、時にほほえまうとしてゐたこころを……、私はきつと知つてゐた。その口惜しひこゑのか弱さも、知つてゐたと思ふ……

二〇二二年七月十九日


 こゑのかがよふ……、かがよふこゑを耳にて浚ふ……、こゑの空へとほのき、空にてまた空に浚はれ、音の無ひ(音の激しひ……、)騒々しさより、またこゑは耳の内に木霊して行き、かがよひとして整へられつつ、こゑを耳(と目……、)にするひとは何を思ふだらうかと私は思つた。こゑはいづくか夢のすゑ、夢と夢の話し合ふ、夢の(とほひ……、)こゑを諳んじるひとの、身のほとりにて重なるやうに、消へてしまつてゐたらうか……

二〇二二年七月二十四日


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