かき菜

かき菜という野菜をご存知だろうか。

アブラナ科で、春には黄色い菜花を咲かせる植物だ。

我が家では、冬明け~春先まで、この野菜が食卓の定番となる。

しかし、一般的にはあまりメジャーではないそうだ。調べてみると、祖父母のルーツである土地の伝統野菜であることをさっき知った。

年末、ちょうどお餅つきの一週間前くらいに祖父母がやって来て、畑一面に苗を植えてくれるのが恒例だった(最近は父の仕事になっているようだ)。

植えられた頃はなんだか青暗く、どこか元気のない感じがするのだが、年が明け、少しずつ暖かくなってくると顔色もよくなり、空に向かって伸び始めるのだ。そうしていつの間にか、かき菜のジャングルになっている。

そうなったらいざ収穫。休日の朝、祖母と一緒に畑に登り、かき菜の畝を進みながら若芽を折り取っていく。摘むたびにパキパキッと気持ちのいい音が鳴る。取ったかき菜を小脇に抱えながらさらに進む。上を見上げれば桜の芽がだいぶ膨らんでいる頃。私にとって、春の始まりを告げるのは、かき菜を摘み取る音だった。

畑を一周し、大きな袋2つ分ほど。すぐに家で一番大きな鍋で茹でていく。鍋を覗けば鮮やかな緑色。アブラナ科特有の、花の香りが台所に広がる。

茹でたかき菜を、母特製のそばつゆでいただく。甘くて、ほろ苦くて、いい香り。私はこのかき菜が大好きで、夕飯が終わってもいつまでも食べていた。

収穫が終盤を迎えるのはゴールデンウィークを過ぎた頃。畑は一面黄色の菜の花で埋まる。その上を、モンシロチョウやモンキチョウが飛ぶ。葉っぱには蝶々の幼虫がちらほら。いろんな生き物がいた。陽が射すと、何とも言えない景色で好きだった。

「太陽のように明るく、菜の花のようにまっすぐ」

私の名前の由来を、むかし母が教えてくれた。あの畑の光景は、私の心を掴んで離さない。




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