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選歌 令和5年5月号

映像のダイヤモンドダストに目を凝らす誰かが中にゐると思へて
高田 香澄

切り落とす桜の枝の樹液さえ意志持つ者の恨みなるべし
田口 耕生

大相撲を初めて詠みしは愚庵とか癖のメモ書きまた一つ増ゆ
橋本 俊明

人と犬次々過ぎてその為のごとく静もる一本の道
広瀬 美智子

恋しいと冷たい月夜に身をよじり横たわる君のてぶくろ一つ
森崎 理加

孫とまく鬼やらひの豆朗朗と久しぶりなる夫の良き声
渡辺 茂子

水害をうけて早くも二年の余朝霧の濃き此処は「人吉」
井手 彩朕子

春一番あとの北風雪もよひまだまだ遠きものばかりなり
臼井 良夫

窓に来る冬の日ざしのやさしさをガーゼに包み吾に贈らん
児玉 南海子

このパンダ貸してやるから殖やせよと神は如何にかこの貸し借りを
髙間 照子

マスク無しの会話ささめく喫茶店にゆったり流れるジャズ聞きとめる
田中 昭子

金色の光を抱きて茶の花はひそけき里の段畑に咲く
友成 節子

思い出はみな楽しくて哀しくて光と影のフィルムは回る
三上 眞知子

消印の示すところは知らぬ街 知ってる街がひとつ増えたり
渡邊 富紀子

六十億年後には地球の滅亡とふパンフが届く嬉しくはなし
高貝 次郎

無造作に今日のコロナの数を告げ画面一転天気図となる
永田 賢之助

若き日に若莱摘みし里何処七草粥に故郷想ふ
伊関 正太郎

雪三尺気温マイナス十・二度北国の冬こもるにこもる
佐藤 愛子

湖国には数多の先輩歌人たち千の風になり会場舞うや
富安 秀子

乱れ咲くコスモスの花続く道次来る秋は我が身揺れたし
松下 睦子

合格の掲示板前に待機する永遠ほどに長い十分
山内 可奈子

劇場を出れば冬の夜カルメンのきらめきほどの星ひとつ見ゆ
髙橋 律子

三年もかかる郵便碁なれど二百九手で終局となる
田中 章

くるりくるり赤い螺旋を落とし来る母の林檎の夜に妖しく
山口 美加代

君からの一行だけの風邪見舞ひ「治るといいね」のラインがピコン
岩本 ちずる

節分は豆を撒かずに恵方巻見えぬ鬼にも仲良く一本
上村 理恵子

エスカレーター乗って動かぬまま動く動かねば死ぬ鮪思いて
小笠原 朝子

眼差しをあなたに注ぎ限りなく  慈しむこと傷つけないこと
鎌田 国寿

コロナにて閉ざされていた庭園に券新しくおとなう池の面
清水 素子


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