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企業知財担当者の発明ヒアリング-おかんのやり方


はじめに

X(旧ツイッター)で明細書作成業務には、
・技術知識
・文章力
・論理的思考力
・コミュ力
がないと、発明者から必要な事項を聞き出せないというプロフィック特許事務所 谷和紘さん(@tanikazp912 )のポストを見て、兼務の企業知財担当者の視点で、発明者から必要な事項を聞き出すヒアリングをどのようにしているのか、どういう力が必要か書いていこうと思います。

自己紹介と普段の業務の説明

いままでのnoteにも書きましたが、会社には知財部はなく、開発部に在籍し、開発業務のひとつとして知財担当をしています。
毎月の仕事の分配は、月末から月初の約8日間は、開発部の経費処理、残り15日間で知財関係、ISO関係、技術資料管理、社内対応業務などの業務支援が主な仕事ですので、知財業務に避ける時間も限られてます。
会社は中小企業ということもあり、予算との兼ね合いで出願は事業化、製品化のものだけにしています。
私自身は大学は日本史専攻の文系なので、勉強としての技術知識はありません。バイクや、ものづくりの過程を見るのが好きなので、機械工具の構造がイメージできるという程度の知識です。

ヒアリングをする意味

日本史専攻という文系の私がヒアリングするよりも理系の知識を開発者が、直接、特許事務所と打ち合わせしたほうが早いのではないかと思われますが、この「直接」というのは意外と危ないのです。
まず、開発者が当たり前の技術と思い込んでることに新規性・進歩性があったら…事務所に出願の相談に至りません。大きな機会損失になるかもしれませんし、実際損失してしまったこともあります。

次に、開発者は考えたアイデアや技術はどんなものでも「かわいい我が子」であるため、アイデアや技術面に囚われた内容にしたがり、事業に役立つ権利範囲にならないことも…。
開発者が自己満足したものを出願するだけのお金の余裕はありません。
開発者の思いは受け止め、そこから事業に役立つものへとガイドすることが知財担当者がヒアリングをする意味だと私は思っています。

発明の魅力を利益につなげる力


コミュ力は、開発者から発明を引き出すために必要です。
文章力と論理的思考力はビジネスマンとして必要です。
知財担当者なら技術知識がある方が良いに決まっています。文系だから、根っこのところで理解するのに限界があります。餅は餅屋派なのでそこは無理はしません(笑)
でも根っこのとこまでは要らなくても
・自社商品のことを構造、動きだけでも知っておく
・構造や動きの何となくのイメージをもっておく
は必要かと思います。
ただこの4つだけだと企業知財担当者として少し物足りないというのが、私が開発者とヒアリングしてて思ったことです。

5つ目の力は、発明の魅力に気づき、利益につなげる力です。
買ってくださるお客様は製品のどこに魅力を感じてお金を使ってくださるのかを見つけ、そこを権利化しておくことが一番利益につながると思っています。
開発者が技術の範囲と、会社の利益を重ね合わせて「発明のキモ」や「製品の魅力」を見つける力は企業知財担当者だけが必要な力だと思います。
特許事務所さんに明細書の作成をお願いするときも「発明のキモ」や「製品の魅力」をお伝えすることで、事業に沿った権利化ができるようになったと思います。

この考えは自分だけで思いついたわけではなく、大阪の前田特許事務所のセミナー「知財塾」で学びました。

どんなふうにヒアリングをしているのか

発明お披露目会とか、毎月打ち合わせというものは時間的に余裕がないのでやっていません。←今はインボイスと電帳法で変わってしまった業務の流れをフォローするのに必死で、ただでさえ(クソ)忙しいのに、倒れますやん…

開発者は約20人所属しているので、闇雲にヒアリングしても時間のムダになるので、私は
・来年度の予算計画
・毎月の役員向け開発進捗報告書 

の2つの情報からヒアリングの対象とするものを決めています。
開発業務との兼務だからこそ得られる情報です。
対象品の担当者への最初のヒアリングはがっつりせずに、図面作成しているときや、開発品の現場に足を運んだりとしたときに
「今どんな作業をしているの?どんな製品作ってるの?今までの製品と変えたところがあったら、出願できるかもしれないし、他社権利の調査しないといけないから。教えてね」というおしゃべりのレベルです。
おしゃべりには、
支払いの手続きのこと
職務発明の報奨金のこと
考課での評価へのつなげ方
などのアドバイスも添えます。←ご褒美をつけること大事

このおしゃべりで、開発業務と知財業務の両方の情報が得られますし、「変えたところがあるから」とおしゃべりの中で出てくればこっちのもんです(笑)

ここからヒアリングに入ります。

  • 従来製品との違いや変えたところ

  • 最も工夫したところ

  • 最も苦労したところ

  • 他の会社、ライバル社で似たようなものがあるのか

  • 変えたところは、他の方法でも出来るか

などの質問を褒めながら(ものすごく大事)、「発明のキモ」、「製品の魅力」みたいなのを探っていきます。
この時点では、私は教えて貰う立場なので、聞いたことをイラストにしたり、ポイントをリストにしたり、最低限の仕組みを理解します
調査するにも最低限の仕組みがわからないとできませんし。

次のヒアリングは、事務所さんへの相談前です。
取るべき権利範囲と効果の整理と提案、出願国などを整理します。
ヒアリングの場で開発者とともに情報を整理することで事務所さんとの打ち合わせもスムーズになりますし、後の中間対応でも開発者の意向を言語化してますので、対応しやすくなった気がします。

色々やりたくても、兼務には限界がありますし、兼務だからこそ普段のコミュニケーションを利用してます。

知財担当者として楽しもう

知財担当者は、開発者の言葉を特許事務所に伝える翻訳者だということを、ある会社の知財部の方がおっしゃってました。
翻訳するだけでは、請負の仕事になりますが、真意や利益などの見方を加えることで翻訳の意義が出てきて、自分の仕事も楽しいものになりますし、開発者ともWin-Winの関係なるのではないかと思ってます。

大手の会社や知財部さんの発明発掘の方法には全く及びませんが、中小企業での兼務知財のやり方の一例になればと思います。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

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