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攻殻機動隊 SAC_2045 7話『はじめての銀行強盗』の解説

攻殻機動隊 SAC_2045 ep07『PIE IN THE SKY/はじめての銀行強盗』にて、バトーが仕掛けたことを軽く解説。

①バトーとカエデの資金をまとめて1つの口座に入金

バトーの約1,000万+カエデの約200万=約1,200万円ドルの資金を用意。

※円ドル=2045年における日本の通貨単位

②①の資金を担保に仮想通貨QWEを借りる

約1,200万円ドルを担保に約2万QWEの仮想通貨を借りる。

ここでのポイントは、円ドルでQWEを「買って」いるのではなく、円ドルを担保にQWEを「借りて」いるということ。当然、後に仮想通貨QWEは返済する必要がある。

※QWE=本作に存在する仮想通貨。また、その単位

③②で借りた仮想通貨QWEをすべて売却

借りた仮想通貨QWEをそのまま売る。「そんなことしていいの?」って感じだが、金融の世界では全然おっけー。

このとき、売った仮想通貨分の円ドル(≒①と同額)を受け取る。この時点で手元の現金は①の約2倍(約2,400万円ドル)になる。

最終的には、ここで現金化した円ドルのほぼ全額がバトーらのものになる。

④取引所にウイルスを流し込み仮想通貨を流出させ、QWEの市場価格を暴落させる

このプロセスが最も重要かつカッコイイところ。

後段、⑤のプロセスで儲けるのため、何らかの方法で仮想通貨QWEの価格を暴落させる必要がある。今回バトーがとったのは、仮想通貨取引所にウイルスを流し込み、仮想通貨QWEを流出させるという方法。

仮想通貨取引所をクラッキング(≒ハッキング)し、QWEに大量の売り注文を出す。結果、QWEに対する需要よりも供給の方が過剰に増えるため、需給バランスが崩れ、QWEの市場価格は暴落する。

こうしたクラッキングは現実でも起こっている。詳しくは以下を参照。

(蛇足)上掲のような、現実で起こる取引所のクラッキングでは、流出する仮想通貨の流出先は「クラッキングに関わった特定の個人、組織」の口座。クラッカーはそうして入手した仮想通貨を自身の口座から売却し、利益を得る。要するに、「取引所から仮想通貨を盗んで、勝手に売却する」というわけ。
しかし、今回のバトーは仮想通貨流出の際、クラッカーのように「自身の口座を経由させる」というプロセスを踏んでいないのではなかろうか
クラッカーのように、流出した仮想通貨をいったん自身の口座に入金し、そこから売り注文を出せば、「市場価格の暴落」という目的とともに莫大な利益を得ることができる。しかし、今回のバトーの動機は飽くまでも爺さん達+カエデの救済にあり、利益を得ることが目的ではない。
ならば、バトーは単純に、「取引所に預けられている仮想通貨に直接売り注文を出し市場価格を暴落させた」のではないか。
この場合、流出した仮想通貨は「盗まれて」いるわけではなく、取引所に預けられている仮想通貨の口座から「売られて」いるわけだから、取引所の損失はある程度軽減される。
バトーさんの魅力は、「外見は典型的マッチョなのに意外とナイーブ(本来ゴーストを持たぬタチコマに愛着を抱いたり、時代の変化に取り残された老人達に共感したり)」なところにある。然れば、クラッキングという不正によって、結果的にそうなるとしても、それで利益を得るということをバトーさんはしないのではないだろうか。

⑤暴落後の市場価格で仮想通貨QWEを買い戻す

②で借りた仮想通貨QWEを返済しなければならないが、借りたQWEは③ですべて売ってしまった。返済のため、借りたのと同額のQWEを用意する必要がある。そこで、約2万QWEを市場から買い戻す

QWEの市場価格が③時点と同じであれば、受け取ったのと同額の現金(約1,200万円ドル)が必要となる。しかし、QWEの市場価格は④のプロセスで大暴落しているので、ほぼタダのような価格で買い戻せる

簡便化のため買い戻した価格を0円と仮定すると、③のQWE売却で受け取った現金(約1,200万円ドル)がすべてバトーらのものとなる。

結果的に、③で「QWEを売った価格」と⑤で「QWEを買った価格」の差額が利益となる(「空売り」で利益を出すプロセス)。

⑥⑤で買い戻した仮想通貨QWEで②の返済

これで借りていた仮想通貨の返済は終了。バトーらの手元には約2,400万円ドルが残る。バトーは元手として提供していた自身のお金(約1,000万円ドル)を返してもらい、残りのお金は爺さん達&カエデで山分け。


要するに、仮想通貨を「空売り」したうえで、意図的に相場を暴落させて利益を抜いたということ。イケイケのヘッジファンド系映画でよく見る手法。

※空売り=本来所有していない資産を売ること。株や為替も同様

なお、バトーなら足をつけず取引所にウイルスを流し込めそうだが、爺さん達の気持ちを尊重し、敢えてバレるように支店長の端末からウイルスを送信。結果、ウイルス送信の容疑で支店長は逮捕され、爺さん達の手元には空売りでお金も残って、めでたしめでたし。

(と、言いたいところだが、ヒールの支店長はまだしも、暴落を食らった仮想通貨投機家やクラッキングされた取引所はかわいそう笑)。

ちなみに、本ストーリーの元ネタはこちら。

元ネタとなったこの映画の原題『Going in Style』と、SAC_2045 ep7の英語副題『PIE IN THE SKY』を比較すると、今回のジーサンズに対する皮肉になっていてクスッとくる。

SAC1期を彷彿とさせる面白い話でした。

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