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固有名詞科的解体新書

 中学1年のある休み時間、クラスメイトの山井くんが大声で僕に言った。

山井「ガスター10!使用上の注意をよく読み、用法・容量を守って正しくお使い下さい。」

 クラス中が変な空気になったものの、僕だけが爆笑した。

僕は、固有名詞に弱い。

 みなさんはどうだろう。TVの演者の掛け合いや誰かとの雑談における笑いとしての固有名詞を面白いと感じるだろうか?


「え、2回連続じゃんけん?じゃんけん&じゃんけんってこと?」

「ジョンソンエンドジョンソンみたいに言うな!」

極めて分かりやすい例

 言葉を愛する僕たちは、ちゃんと言い切ろうとする癖がある。
 時に執拗なくらい、言わんでいいよもうってくらい略さずに全部言い切りたい。ケンタッキーのこと「ケンタ」っていう奴の気が知れない。そこまで言ったんなら全部言っていけよ!残された「ッキー」の気持ち考えたことあんのかよ!とまではさすがに思ったことはない。

 特に固有名詞はそうだ。言い切ってなんぼだと勝手に思っている。言葉を愛する僕たちの中にもいくつか分類があって、きっと僕は、言葉を愛する者目、固有名詞科なんだと思う。いや、はっきりと固有名詞科です。

 ここに分類される人は、子供時代、寿限無を誰より早く習得し、NARUTOの忍術もフルネームで覚えていたはずである。

 いまいちピンと来ていない人の為に、例を交えて説明すると、遊戯王に「カオス・ソルジャー -開闢の使者-」というカードがある。
最初に言うと後半は「かいびゃくのししゃ」と読む。

【普通のキッズ】
「俺は、カオス・ソルジャー…あー、えー、を召喚!」


【固有名詞科】
「俺は、かい…カオス・ソルジャー -開闢の使者-を召喚!」
遊戯王は漢字の勉強にもなる

 おわかりいただけただろうか?

 普通のキッズは後半の漢字が読めなくて諦めているのに対し、固有名詞科はこのフルネームに面白みを感じすぎて、事前に『開闢』の読み方と意味まで調べて万全の状態で臨んだのにも関わらず、気持ちが早まり過ぎて『開闢』から言いかけて失敗している。そのくらい、『開闢』が言いたくて仕方なかったのだ。

 その単語をぶつける時、得も言われぬ興奮をする。僕はギャンブルを一切しないけれど、きっと賭ける瞬間ってこんな気持ちなのだろう。変態だ。

 次に、冒頭の山井くんの発言にやりとりを付け足して考えてみる。

僕:それ薬?何飲んでるの?

山井くん:ガスター10!


僕:西村正彦か!00年代、よくCMやってたな!背景の青空、白文字目立つなあ、じゃねえよ!

山井くん:ガスター10は使用上の注意をよく読み、用法・容量を守って正しくお使い下さい。


僕:ここ、ココカラファインか!
急にお笑いの厳しい目で見ないで下さい

 芸人の粗品さんが雑誌のコラムで言っていた。ツッコミはスピードだと。素人が変に例えても寒いだけなので、シンプルな言葉でぶつかるのが一番だと。

 でもね、無理なんすよ。僕はとっくのとうに固有名詞に毒されていて、頭がはち切れそうなんです。そして、それに笑ってほしいよりもそれに自分が笑っていたいだけなんです。

 例えば例文の最後「ココカラファインか!」っていうのは、「ドラッグストアか!」って言った方が万人に伝わる上、相手をないがしろにしていない。

 でも、僕は相手の「ガスター10」という面白固有名詞に応えてあげたいという謎の使命感に駆られ、「ココカラファイン」を選択してしまう。

 山井くんが「用法容量を~」って言っている時にはもう、①ツルハドラッグ②クリエイト③ココカラファイン④マツモトキヨシと各ドラッグストアを頭に浮かべて、どれが一番気持ちいいかな、と考えている。気持ちいいのは僕だけでいい。山井くんの話の後半は聞いていない、会話じゃなくてそういうゲームなんだと思っている。

 これも良し悪しで、その固有名詞を知らない人ばかりで白けてしまったり「それ、何?」と説明を求められたり、ワンテンポ変な間ができてスピードが落ちることは本来忌避すべき事態である。相手は「ガスター10」を笑ってほしかっただけなのに、その機会を泥棒した上に無くしちゃったわけだから。
 でも、もう一方で、「ガスター10」の時点で白けてしまうのを分かっててぶつかってくる場合がある。この神風特攻型は「あとはこの爆弾、任せたぜ」とサムアップしてくるので、その場合のアシストとしては時に有効だ。

 これが僕ら固有名詞科の常であり、業であると信じていた。

 だけど過去に2度、その考えを大きく覆す衝撃を受けたことがある。

 1回目は、メガマソというバンドの曲名で起こった。
「メグムミサダメキタゾラニナクノ」という曲があって、それはもう壮大なバラードなんだけど、そんなことよりも僕は「すげえ造語の固有名詞が現れた!」と一人血沸き肉躍っていた。

  そもそもこのバンドは今までも「クンクタトル乱舞」「パンデモニウム、発覚。」(どちらも楽曲名)などいい感じに意味不明な言葉をチョイスして合体させる天才だった。

 で、今回も「長ったらしくて意味わからんくていいね!」とニマニマしていたのだが、よくよく見ると「めぐむ御運命、北空に泣くの」という文章であることに気づいて、とんでもなくびっっっっくりした。なんて柔軟な発想なんだろうと腰を抜かした。この人たちは固有名詞科でありながら異端だった。普通の文章をカタカナにして意味を排除することによって、固有名詞っぽく仕立て上げたペテン師とも言える。僕は小さな詐欺にあったのだ。

 もう一つは、僕が敬愛して止まない芸人、金属バット。

 彼らのネタに「タイムカプセル」というのがある。
 ボケの小林さんが幼少時代に埋めたタイムカプセルが変なものばかりで、それにツッコミの友保さんが翻弄されていくという内容だ。

 冒頭で小林さんは「エックスのポーズをしたはにわを埋めた」と言い、それに対し「うーわ、ダサ、X-GUNのはにわやんけ」と大先輩芸人のX-GUN(ばつぐん)のキメポーズをいじる。

 話は展開していき、博物館に場面は転換。
そこで小林さんが「ジュラ紀の地層から発見された世界最古のはにわ」と出会う。そして「そのはにわがどう見てもこうしてんねん」とエックスポーズをする。

 ここで僕は「X-GUNのはにわやないか!」とツッコむと確信した。なぜなら、「X-GUNのはにわ」というワードが固有名詞化していたからである。

 ところがどうだろう。友保さんはこう言った。

「Xはに(ばつはに)やんけ!」

 りゃ、略している…。固有名詞科が一番嫌ったはずの省略するを、彼はさらりとやってのけたのだ。固有名詞を省略することで、より伝わりづらくなるリスクが増える。でも、事前に全員に「X-GUNのはにわ」という共通認識が敷かれていたので省略してもモーマンタイというわけだ。あっぱれ。

 面白ワードの力を信じていながら、最後はそこに頼り切らない感じ、僕には真似できないし、単純にカッコいいなと思った。もういっちょあっぱれ。

 それはそうと僕も動画を投稿している身であり、率先して喋る機会が多いのだが、やっぱり固有名詞科の呪いからは抜け出せない。むしろ固有名詞どれ出したろかな、とウズウズしているくらいだ。
 さっきも言ったけど客観的に見て適切かどうか、面白いか面白くないかは二の次だ。勢いと語感、そこに意味が少しだけかすればいい。初期の韻マンみたいなスタイルである。

 だから日々失敗するし、言わなきゃよかったってこともある。そもそもちゃんと人と会話しろよってのはご尤もだ。僕の実況グループがここまで続いているのは僕のおかげだし、まったく伸びないのは僕のせいだ。残念なことに視聴者は裏切られ続けている。それでもやめられないのは僕がそういう生態系で生まれて、誰にも矯正されずに育ってきてしまったことが原因だ。もう今更どうしようもない。会話の方が歩み寄ってこい。

 もし、この文章を読んで少しでも共感できる人がいたらいいなと思っています。肌感覚では確実にいるはずです。みんなで口角あげていきましょう。


   僕「でさー、その飲み会でめっちゃ友達が暴れちゃって」

相手「えー!やばいね、でもそのくらいの方が面白いよね」

 僕「しかもお金も払わなくてさ」

相手「え、かわいそう。でも、そのくらい破天荒な人、割と好きかも」

 僕「おい、どんだけ肯定すんだよ」

 「コウペンちゃんかよ!」


相手「え?コウペンちゃんって何?」
 僕「え?は?」
※実話です


おしまい。



2022年11月26日 自室にて、コロナ治りました、秋。

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