2023 Best Music ①TOP5

2023年を振り返ろう。

コロナが終焉を向かえ、海外ミュージシャンの来日も増えた。また4年振りに私自身も海外に飛んでフェス、ライブ三昧の休暇を楽しんだ。
やはり身体に音楽を浴びるのは良きことである。
そうなるとプレイヤーで音楽聴く時間がそれなりに減るもので今年新たに聴いたアルバム数は1,141枚で昨年の2/3程度。
まあ、それでもそれなりに聴いたね。
減った要因はライブを観に行ってるからではなく、仕事上の都合(激務+会議多すぎ+出社機会増etc)もあった。
良くも悪くも日常が戻ってきてる、と。

さて、2023年のベストアルバムである。
2022年中に聴きこなせず2023年として扱っているモノも含まれていることはExcuseということで。

■ Jan Martin Smørdal, Øystein Wyller Odden – Kraftbalanse [Sofa Music]

https://sofamusic.bandcamp.com/album/kraftbalanse

2022年秋にリリース。2019年録音。
ノルウェー若手現代作曲家Jan Martin Smørdal、Øystein Wyller Oddenの作品を弦楽八重奏。
全2曲、終始ミニマル+ドローン。
タイトルのノルウェー語「Kraftbalanse」とは英語で「Power Balance」。
電力の配電網の音に関する研究をもとに、主電源のハム音(交流の周波数50~60Hzあたりで聞こえるノイズ)を音楽的に解釈。
50Hzおよび50Hzの倍音でピアノに共振させるが、リアルタイムな電力供給事情に連動し音が変動するようにされている。
その発生音に被せるように、ヴァイオリン(4者)、ヴィオラ(2者)、チェロ、ダブルベース(各1者)が奏でられるが、
それらの楽器にはリアルタイムで周波数が計測できる電圧計を装着し、演奏者たちも常に50Hz帯で音を出すことを強いられている。
この作品は背景を知る前に聴き、一定周波数帯を浮揚するストリングス群の音たちの安定/不安定具合が読めないものの一定に流れている奇妙かつ妙な美しさ。
2曲で約45分の演奏を聴力と意識を完全に持っていかれた。
聴き終り作品情報を知り、22年発生の戦争による世界規模の電力需給問題と重ね合わせ何度も聞き込みより一層の感慨深さがあった。
曲名は「17:40:15 - 18:02:15 GMT + 02:00 DST, 2019.06.01」「18:29:05 - 18:51:22 GMT + 02:00 DST, 2019.06.01」。
定期的にアップデートされたらどのような変化が得られるのだろう。

■ Liv Andrea Hauge Ensemble – Hva Nå, Ekko [Odin Records]

https://livandreahauge.bandcamp.com/album/hva-n-ekko

若手ノルウェーピアニスト Liv Andrea Hauge 率いる7人のジャズアンサンブル。
メロディー、コンポジションの軸を持ちつつ、曲が進行していく中で即興をまぶし、入れるべきところで同時演奏で統合する。
メロディーの転調と反復といい各パートの合奏ハーモナイズ、コーラスワーク、篭って柔らかに膨らむヴォーカル。
ノルウェージャズの特徴であり、良き部分がたっぷり詰まった内容。「だからノルウェージャズってイイんだよねー」な。
即興と言っても、さほど広くない枠の中で共通意識・感覚を持ちえた面々が反応しあった展開しているためバラけた感じはなく、一体感すら感じる。
そしてアルバム1枚としての物語ができている。オープニングからエンディングまできちんと纏めあがられた世界を楽しめた。
彼女の演奏は、5年前、Oslo Jazz Festivalで、若さ溢れるアップテンポなコンテンポラリージャズのKongle Trioとしてショーケース枠で見たことがある。
そのKongle Trioでのドラマーは去年ベルリンのA'Larme Festivalでアヴァンギャルドなドラマーとして活躍した姿を見て「ピアノの彼女はどうしてるんだろうか?」と思っていたところだった。Livも同じく新境地で活躍してることがうれしい。
2024年のOslo Jazz Festivalにこのアンサンブルがラインナップされているようだ。つまり、今年はOsloに行けと言われてるのかな?

■ Powell + LCO – 26 Lives [Diagonal]

https://odbpowell.bandcamp.com/album/26-lives

PowellとLondon Contemporary Orchestraによる作品。
Powellってもっとゴリゴリした電子音やってなかったっけ?と耳を疑った。いや待て、そういえばMegoからリリースされた前作のアルバムではPianoに言及した作品だったようなと聞きなおしたが、そこではゴリゴリはしてないが、エレクトロニックの延長にあるピアノ曲でMidiというか電子処理がなされていたので、「まあ、そういうことか」と聞き流していた。今聞けば前振りだったのかもしれない。リズムがその時点でそぎ落とされていた。
本アルバムで明らかに変化を感じたのは、コンテンポラリーなオーケストラとPowellの電子的アプローチ(というかライブ・エレクトロニクス)がフラットに並び不自然さが見えない点から来るものだろう。
古くからの電子音が持つ無機質さがそこには存在する。ミニマルなんて表現ではなく無機質。
時間の経過で電子音も生音と共に生成されていき交差し重畳していく。途中からどれがエレクトロでどれがアコースティックか見えなくなってくる。
いろいろ想像したくなってしまうコンセプチャルな展開で楽しめた1枚だった。

■ Valentin Ceccaldi - Bonbon Flamme [clean feed]

https://cleanfeedrecords.bandcamp.com/album/bonbon-flamme

フランスのチェリストValentin Ceccaldiによる独特な世界観を持ったアヴァンギャルドな展開を見せる作品。
カタログナンバー1番から全てを追ってるClean Feed Records。「こういうのも範疇なのか?」という凄いのを時々ぶち込んでくる。
今作は、フリーでアナーキーでプログレでヘビーでスペーシーでジャズで凶暴でほんわかで、ヴァリエーション豊かと言っていいのかバラバラなのか
形容しがたい。それらに思いつきで数珠繋ぎされた印象はなく、スリルあるアドベンチャー劇やサーカスを観てる感覚があるのだ。
次に何が来るかワクワクしちゃったりする。なんだか、お茶目というか。
ジャケットの絵は、視覚上トリッキーでカラフルで超越したオブジェクトが集合してて、これらを音、音響として落とし込まれて表現されているのかしらとも思えたりする。
何かのレビューで、キングクリムゾン、ネイキッドシティーという形容されていたが、あながち「そうかも」だったりするのである。

■ Anna Webber – Shimmer Wince [Intakt Records]

https://annawebber.bandcamp.com/album/shimmer-wince

カナダ人サックス/フルート奏者Anna Webberによる現代ジャズ作品。
ジャズ即興、現代クラシックスを行き来する彼女の音楽性が更に深みを増した。純正律への更なる深い探求と広がり。
学が無い私としては上手く言語化できないんだが、音の周波数の重畳、倍音使い、リズム、ピッチのタイミング(ポリリズムも含め)、音程、あらゆるエレメンツに細部までの追求。コンポジションとインプロの絶妙な配分と交差。なんというか数学的というか。
結果として創出される音にアカデミズムがたっぷりあるくせにハードルの高さはなく、どこかユルさがあるように聞こえてしまったりする。
こういった革新的なアプローチに満ちていつつもそれぞれがシンプルに音楽として楽しめる点はキチンとあるし(不快、耳障り、意図的なズレなどで切込みが入り邪魔されること山の如しではあるけど笑)、Anna含めメンバー皆が名演奏者揃いだし。けど、この複雑な構成からするとAnnaからの要求が相当厳しかったんじゃなかろうか。それにしても、オーケストレーションといい、アレンジといい、点と線と面と立体の幅と奥行きの構造は凄いなあ。物語性まである。
6年前オーストリアWelsのUnlimited(ジャズフェス)にて、Anna Webberのソロインプロを1mに満たない至近距離で聴いたが「いい演奏だなあ」と思ったもののこれほどまで音楽への探究心を持ったアカデミックな人だとは気づけなかったなあ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?