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【バッタ】セックスせずに「メスだけ」で25万年間生き延びてみた

地球上のほとんどの生物はオスとメスの2つの性を持っている。しかし中には、オスとの交尾を必要とせず、メスだけで繁殖(単為生殖)できる種がいてる。自然に単為生殖をすることが知られてる動物の大半は、ミツバチやアリ、アブラムシといった小型の無脊椎動物で、彼らは有性生殖と単為生殖を切り替えることができる。脊椎動物でも80種以上で確認されてて、その約半数がサメなどの魚かヘビなどの爬虫類で、自然界の哺乳類では知られてへん(ただし、人為的にマウスに単為生殖させる実験の成功例がある)。

これまで生物学者たちは単為生殖を行う種が少ない理由に頭を悩ませてきた。というのも、オスだけやったら繁殖できひんのに、子孫の半分がオスになる必要があるのは無駄に思えるから。また、交尾相手を見つけるのに時間と労力が必要で、明らかにコストがかかると思う。

それでも有性生殖にはメリットもあって、交尾で生じる遺伝子の組み換えによって遺伝的多様性が豊かになり、環境変化に対して適応するスピードが速まることである。また生存に不利な突然変異を種から排除する効果もある。そのため、単為生殖を採用している種は、気候変動や病原菌の感染といった環境要因や、不利な突然変異を排除できないために、全滅するリスクが高くなると考えられている。

ところで、オーストラリアの乾燥地帯に生息する緑色の美しいバッタ「ワラマバ・ヴィルゴ(Warramaba virgo)」は単為生殖を行うことで知られている。そして、豪メルボルン大学は過去18年間にわたって、W. virgoがどうして単為生殖するようになったのか、またその変化が種の生存に与えた影響などを研究してきはった。

W. virgoは、1962年に著名な進化生物学者のマイケル・ホワイト(Michael White)氏によって初めて研究された。その後、ホワイト氏は、2000キロ離れた西オーストラリア州でも同じ種を発見し(Warramaba virgoと命名)、また有性生殖をする種(Warramaba whiteiと命名)の存在も明らかにしはった。そして、W. virgoは、W. whiteiともう一つ別種のW. flavolineataという共に有性生殖を行い2種のハイブリッド(交雑種)として誕生した種であることが判明した。

(左)W. flavolineata、(中央)W. virgo、(右)W. whitei / Credit: Michael Kearney, Author provided(The Conversation, 2022)

この度、メルボルン大の研究チームは、W. virgoの1500以上の遺伝子マーカーを解析し、親となった2種と比較しはった。その結果、W. virgoに生じた突然変異の数とその性質から、2種の交雑は約25万年前に起こり、その際に単為生殖システムを手に入れたと推定された。

また、有性生殖種(W. whiteiとW. flavolineata)と単為生殖種(W. virgo)の間には、遺伝的にネガティブな変異がほとんど存在しないことも判明した。気温変化に対する耐性、代謝速度、卵の大きさ、成熟にかかる時間や寿命など、あらゆる生理学的形質において、親種との優劣は確認されへんかってんて。つまり、単為生殖のデメリットが見当たらんかったってこと。一方で、W. virgoはすべての個体が子孫を残せるから、有性生殖種に比べ一世代で2倍の子孫を残せる。つまり、W. virgoは25万年の間、特にデメリットなく、親種に比べて2倍の繁殖力を維持できていたことになる。

単為生殖にはこんなにメリットがあるのに、実践する種が少ないのはなんでなんやろ?その理由を知るために、研究チームはW. virgoを生み出した2種を交配させてみた。すると、数匹のハイブリッドができただけで、そのハイブリッド個体はいずれも子孫を残せへんかった。つまり、ハイブリッドそのものが危うい状態であり、子孫を残すシステムとして安定しておらず、単為生殖で種を発生させることが難しいみたいやね。せやから、W. virgoは単為生殖の成功という非常小さな確率を長い時間をかけて引き当てた変わりもんのみたいやね。

実験で生み出されたW.whiteiとW.flavolineataの交雑種 / Credit: Michael Kearney, Author provided(The Conversation, 2022)

僕は中高男子校の後、工学部から工学研究科を卒業して、メーカーに勤務するという男だらけの空間で生きてきた。しかし、メスだけで25万年も生き延びてきたW. virgoの姉御に比べたら序の口やった笑。姐さんには恐れ入ります…。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.abm1072


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