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空と海に君臨した古代生物を「力学」してみた!

バイオメカニクスとは?

バイオメカニクス(biomechanics)という学問をご存じ?日本語では「生体力学」あるいは「生物力学」と訳され、生物の構造や運動を力学的に探求したり、その結果を応用したりすることを目的とした学問である。

例えば、ヒトの骨や靱帯、腱などに対して材料力学や構造力学的な解析を行ったり、心臓・血管内の血液の流れを流体力学的に解析することで、外科医療の発展に貢献している。また、ヒトの運動を運動学や動力学の観点から解析を行うことでリアビリやスポーツに活かす取り組みも行われている。

そんなバイオメカニクスはヒト以外に動植物を研究対象とすることもあり、時には既に絶滅した古代生物にスポットを当てることもある。今日は恐竜たちが大地を闊歩していた時代に空と海を支配していた「古代生物たちの異形な姿」を力学の観点から見つめてみようと思う。

巨大な翼竜は飛ぶの下手くそやった?!

現存する大型の鳥類は、翼を上下させる「羽ばたき飛行」やなくて、上昇気流を利用する省エネな「ソアリング飛行」を行う。そして、ソアリング飛行には大きく分けて、サーマルソアリングダイナミックソアリングの2種類がある。サーマルソアリングは、温められた地面から生じる上昇気流に乗って旋回上昇し、その後、滑空降下するプロセスを繰り返す飛び方で、トビやワシなどタカの仲間が使っとる。そして、ダイナミックソアリングは、海上の風速勾配(:海上付近の風速が、海面に近いほど遅く、高度が上がるほど速くなる現象)を利用して滑空する飛び方で、カモメやアホウドリなどミズナギドリの仲間が使っとる。

翼竜たちも省エネのためにソアリング飛行を使ってたんやろう。例えば、史上最大級の飛翔動物と名高い「ケツァルコアトルス」は、翼を開げた長さが約10mもあったって考えられてて、そのデカい身体のせいで羽ばたき飛行は続かず、省エネできるソアリング飛行を使ってたはずやって思われてきた。

せやけど、絶滅してもうてるからよう分からん…。ただ有難いことに、滑空生物の飛行は物体の運動(ある時間の位置と速度)を計算する「ニュートンの運動方程式」によって記述でき、この物理法則は古代より変わってない。そこで、名古屋大学は運動方程式に基づいて、翼竜のソアリング能力と、持続的な滑空に必要な風速を計算し、現生鳥類と比較しはった!その結果、史上最大級の飛翔動物と名高い「ケツァルコアトルス」はソアリング飛行が下手くそやったかもしれんことが明らかになった!

各飛翔動物のソアリング能力(ピンクの矢印の左側は従来の説、右側は本研究で判明した適当な飛び方を示す)/ Credit: 名古屋大学 巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~(2022)

ソアリング飛行では、上昇気流の速度が降下する速度を上回れば上昇でき、また、滑空する円の半径(旋回半径)が小さいほど、上昇気流が強い範囲にとどまりやすくなる。ところが、これらに基づいた計算によると、ケツァルコアトルスのソアリング性能は他の動物に比べて極端に低いことが示されたの!

ソアリング能力の種間比較/ Credit: 名古屋大学 巨大翼竜はほとんど飛ばなかった ~絶滅巨大飛行生物と現生鳥類のソアリング能力の比較~(2022)

研究者たち曰く、ケツァルコアトルスと同サイズの超大型翼竜は、ほとんど飛行せず、陸上生活をしていた可能性が高いらしい。今夏公開予定の「ジュラシック・ワールド ドミニオン」ではケツァルコアトルスらしき翼竜が飛行機を襲うシーンが描かれそう。でも、大空を雄大に飛び回る姿はあくまでファンタジーで、実際は地味に地面を這いずり回ってたんかもね苦笑

首長竜の長い首…泳ぐのに邪魔やないの?!

四肢を持つ脊椎動物は、過去2億5000万年の間に繰り返し地上から海に戻って奴がいる。例えば、既に絶滅した者ではイルカによく似た姿をした魚竜(Ichthyosaurs)、今でも生き残っている者ではクジラ類(cetaceans)がそれにあたる。中でも極端な形態に進化したのが、長い首と4つの大きなヒレを持つ首長竜(Plesiosauria)である。

魚竜やクジラ類の体は流線型で、水中での抵抗力が少なく、素早い泳ぎに適した体型をしている。一方の首長竜は、胴体から伸びる長い首が余分な抵抗力を生み出すため、水中での動きが鈍かったんちゃうかって考えられてきた。とはいえ、首長竜たちの遊泳効率に体型やサイズがどのように影響するかはよう分かってへんかった。

そこで、英ブリストル大学は首長竜・魚竜・クジラ類の化石をもとに様々な3Dモデルを作成し、体型やサイズが遊泳効率に与える影響を調べる流体シミュレーションを行わはった

本研究で作成された3Dモデル/ Credit: S. Gutarra Díaz et al., Communications Biology (2022)

そらしい3Dモデルの周囲に発生する流体速度を比較したところ、首長竜の遊泳効率は予想よりずっと高く、首長竜の遊泳スピードは魚竜やクジラ類と遜色ないくらい速かったことが示された!

3Dモデルの周りの流体速度(赤ほど速く、青ほど遅い)/ Credit: S. Gutarra Díaz et al., Communications Biology (2022)

また、体型だけではなくサイズも考慮にいれて抵抗力を見積もったところ、首長竜のようにサイズが大きいと首による抵抗力は有意なものではなくなることも分かった。したがって、首長竜たちは首の抵抗力を無視できるくらいまで体を大きくして、その抵抗分は大きくなった筋肉で補ってた可能性が高いんやって。

ただし、体をデカくすればなんぼ首を伸ばしても大丈夫って訳でもなかったらしい。3Dモデルのパラメータを変化させてシミュレーションを行った結果、首が胴体に対して2倍以上になると、余分な抵抗力が発生し、遊泳効率が下がることが明らかになったの!つまり、遊泳効率を低下させない首の長さの限界は胴体の長さの2倍程度やってんて。その証拠に、ほとんどの首長竜の首はこの比率以下の長さに収まってたことが、化石調査からも示されている。

様々な首長竜の首と胴体の比率/ Credit: S. Gutarra Díaz et al., Communications Biology (2022)

現在、水中ドローンは「海底インフラの整備」や「海底資源の採掘」などで活躍が期待されている。海底での作業のためにアームなどを搭載されることもある水中ドローンやけど、長いアームを付けてしまうと抵抗力が増して遊泳効率を低下するんちゃうかって考えられてきた。ところが、今回の研究をうけて、首長竜のようにアームと胴体の比率をうまくデザインしてあげると、作業力と遊泳力と併せ持った水中ドローンが実現できるかもね!

「古代生物を力学してみる」いかがでしたか?時空を超えて生き物たちの真実に迫り、そこから多くの事を学ぶ。バイオメカニクスってロマン溢れる学問やと思いませんか?!


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