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線は、僕を描く

水墨画をテーマにした小説。作者自身も水墨画。
絵具を使う美術画と違って、
水墨画は筆一本で勝負しないといけない世界。
配色も墨一つで表現しないといけない。

目の前にある花や風景を見て、水墨画を描くけど決してその瞬間を描くには遅すぎる。
それは描いた時点で目の前の花や風景は変化してしまっているから。
水墨画に興味を持った主人公は苦悩する。
どのようにして目の前にある「菊」を生きた形で水墨画として残すのか。
主人公の師匠には「花に教えを請いなさい」というメッセージを残されていたが、それがどのような意味を持つのか自分の中で消化しきれない苦悩は芸術を嗜む人にしか分からないのだろうなと感じる。
だから芸術家は孤独なのかと。勉強はスポーツのように結果が勝敗や点数で分かるわけでもないし。

最終的に主人公は自分の筆を通じて「菊」の生きている変化をそのまま映し出すことに成功したのだが、そのときの表現の仕方が凄まじかった。
一種のゾーン状態を言語化するとこのような表現になるのかと。

よくある小説家がそのテーマの専門家を取材し、作品を作る形が多いのだが、この小説は水墨画家である作者自身の苦悩などがダイレクトに表現されており、読者である自分にも染み渡るように伝わった。

このような小説にはなかなか出会えないだろうな。

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