ラブストーリーは突然に in体育の授業
体育の時間。それは私にとって一番苦痛な時間だった。
持病のおかげで毎回見学だし、友だちがいないので見学中誰かが来てくれるわけでも誰かを応援するわけでもない。サボってどこかに行ってしまうような勇気もない。ただ、体育館の床の冷たさをお尻に感じながら、体育座りで縮こまっている。
今日の体育の授業は選択で、サッカーやらバレーやらをみんなでやっていた。
私だったら、うーん、どれも嫌だな………。
とか考えながら、ぼんやりサッカーの様子を眺めていた。ルールもわからないし、目が悪くて誰がいるのかわからないし…視界も脳も、超ぼんやり。
途中別のクラスの体育の先生が来て、「菅田はなんで休んでるんだっけ?腰?腰が痛い?足か。」と、全問不正解をかましていた。(余談)
そんな体育の時間にも、ラブストーリーは突然やってくる。私はその日、それを初めて知った。
ビー、とアラームが流れて「勝った〜‼️」みたいな声が聞こえてくる。多分ひと試合終わったんだ。ひとつのチームは壁沿いに撤収して、逆に壁沿いにいたチームがコートに入る。
そんな中で、ひとり、私の方へゆっくりと歩いてきて、私の隣に座った。
急に視界が良くなって、フィルターがかかったようにキラキラしていた。
私の好きな人。
「気まずい…」
話を聞くと、友だちとチームが別れて違うクラスの知らない人と同じチームになってしまったらしい。
え、そういうとき、この子は私のところに来てくれるの???そ、それって!!!それってさあ!!!!
勘違いも甚だしいといったところだけど、心は浮かれまくっていた。
床から伝わる寒さは顔の熱に負けた。多分このとき、視力上がってたな。視力検査すれば裸眼で5.0くらいある。好きな人の、カラコンの縁も、下まつげを塗る時に色がついてしまったのであろう目の下のマスカラも、全部見えた。肌こそ触れてないけど、恋する乙女がドキドキするのには十分すぎる距離。
ああ、ごめんね。多分君はただ話す人がいなかったから仕方なくこっちに来ただけなのに、私、そういう気持ちでドキドキしてる。
「私理系にした!菅田ちゃんは?」
「えっ、文系なの??菅田ちゃん理系だと思ってた。」
私と一緒だろうなと思って選んだのかな〜とか、思っちゃったりして??そんなわけないのに。虚しいけど、恋愛をしているっていう感じが楽しかった。
今回はたまたま私のところに来てくれたけど、この子と話す機会なんて、1ヶ月、いや2ヶ月に1回あるかないかだ。
次の試合が始まって、あの子は行ってしまう。ありがとうって言わないで。仲良くないみたいじゃん。まあ実際、仲良くないんだけど…。
君と話せる機会は、クラス替えまでのこの期間でもう最後だったかもしれない。だとしたら、もっと言うことがあったよなと思った時には既に、床の冷たさを感じていた。
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