第一章 第一節 命のらせんと深淵の書
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第一章 第一節 命のらせんと深淵の書

※この作品はシェアワールド『テラドラコニス』の世界観に基づいて書かれています。
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あの日も死体に
ライラックの花びらが降り注いでたっけ。

もう息をしていない少女が
眠り姫みたいに横たわってた

「今から、死んだ彼女を蘇らせる。そこで見ててくれ、アレキ」

父さんはあの時、大きなガサついた手の平で
ポンポンって頭をなでてくれたっけ。

「死んじゃったの、あの子?」
「ああ。でも、今から魂を呼び戻すよ」
「どうやって?」
「ディストピアの扉を、父さんが開けるのさ」

なんか夢みたいな言葉
父さんは、くしゃくしゃの笑顔を刻むと
満開のライラックの根元へと、走った。

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あの頃、俺は少年だった。

うす紫に染まる、ライラックが満開で
ゆるやかな風を孕み、揺れていたのを覚えてる。

その大樹の根元に、少女の死体があって

父さんは反魂の術を使ったんだ
死んだ少女を、蘇生させるために。

声をかけてはいけないような、ピンと張り詰めた荘厳な空気のなか
澄んだ青の空に、はらはらと舞う花びら

「なんか……すみれ色の雪みたいだ……」
そんな呑気なことを、ボーーっと考えていたような気がする。

父さんが呪文を詠唱した。
動くはずのない少女の腕がビクン! と一瞬はぜる
ゆっくりと起き上がると、歓声とかどよめきとか、拍手が鳴り響いてすごかった。

「嘘だろ……」

こんなの、ありえない光景だ……
反魂の儀式を見たのは、生まれて初めてだった
死体だったのに、なんで動いてるんだよ!?って
鼓動がすっげードクドクしてた。

金髪の少女が、瞼をあけると
淡いブルーのワンピースが風を孕み、くるり。一回転して笑った。鳴り止まぬ拍手の中を、夢のように降るライラックの花びら。

生きてるーー
さっきまで大樹の下で横たわっていた、ただの死体だったのに。父さんは蘇生させたんだ。

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すっげーーーーーーーーーー!!
胸がカアアッと熱くたぎって興奮した!
俺は父さんに駆けよって、こう言ったんだ。

「俺も、俺も大きくなったら反魂使いになりたい!」
「なれるさ、17歳になったら」
「17歳?」
「そうだ。反魂使いは、17歳になったら継承できる。なってみるか? 命を呼び戻す、ただ一人の継承者に」

「なる!」

父さんは、ゴツゴツした大きな掌で、俺の頭をわしゃわしゃ撫でてくれた。少年だったあの日。胸が踊るような、神様に選ばれたような、その、どうしようもない嬉しさを覚えてる!

父さんがいなくなった今も、鮮やかに想いだせる。

17歳になったら、反魂使いになれる
17歳になったら、あの術を継承するんだ!
俺か、双子のダリウスのどちらかが、選ばれる。
俺はきっと、選ばれてみせる……!


「……って、夢オチかよ」

珍しく、幼い頃の夢をみた。
父さんの夢とか、なんかめっちゃ懐かしい。今日が、17歳のバースデーだからかな?

目をこすっても眼前にあるのは、いつもの俺の部屋だ
俺はベッドを降りると、真っ白いカーテンを思いきり横に引く。窓をバタンと開ければ、雲ひとつない瑠璃色の空。

あの日と同じライラックの樹が、早咲きなのか咲きほこっている。運命の日に見た、すみれ色の花びらが、夢みたく俺の胸を揺らしていたーーー

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〜第一章 第一節 命のらせんと深淵の書〜

「禁忌の書物『深淵の書』。反魂使いを継承する者は、たった一人。この本に選ばれることとなる。わかるな?」

「本に選ばれる?」

「そうじゃ。アレキとダリウス、お前たち二人どちらかが深淵の書に選ばれるんじゃ。お前たちが選ぶんじゃない。本が、継承者を選ぶ」

え、それ、どうやって選ばれんだよーーーーーーーーーー!!
俺は胸の奥で絶叫する。

竜峰歴515年の1月27日
ドラーテム王国にある、ティリア村で
俺と双子のダリウスが、17歳になったその日
反魂使いになるための試練話を、実家のキッチン横で、じっちゃんから聞いていた。つか、今も聞いてる。

「いやいやいやいやいや、ちょっとまって。本が選ぶの? 俺じゃなくて?」
「そうじゃ、お前に選ぶ権利はない。深淵の書が選ぶのじゃ!」
「えーーーーーー! なんだよそれ!」

「書に選ばれる基準があるなら、知りたいな。先に」

質問の主はダリウスだ。
夢のように整った顔立ちのダリウスが、絹のような漆黒の髪をサラサラとかきあげて、じっちゃんに問いかける。

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「基準は、知らん」
「知らないんだ」
「ああ、選ばれた者は書を開き、ディストピアの門を開くことができる。骸となり果てた魂を呼び戻すのなんて、自由自在じゃ」

「それってさ、選ばれない奴は、どうなるんだよ?」
「選ばれなかった者は、書を開くことすらできん」
「そんな……!」

衝撃だった。
選ばれなかった時のことなんて、あまり想像もしてなかったから。隣をふと見ると、ダリウスが窓からの光を一身に浴びていた。ちょ……、こんな時だけど煌き感すごくない?  なんか透明感あるし。

今とかもう陽光が差し込んでて、そこだけキラキラ照明浴びたみたいに立ってるよ。一服の絵画みたいに神々しいんですけど。

ここに「反魂使いダリウス様、降臨!」とか太文字で書いてあっても違和感はない。そのぐらい、神絵師が描いたみたいなイケメンなんだよな〜。

俺もまあまあな顔で金髪だけど、ダリウスのおかげであんまり目立たない。だって「まあまあなイケメン(だと思うけど、え、たぶん)」だから

月のように白い肌、漆黒の髪、天才肌の頭脳をもち、長身でモテ感すごい! 
それが俺の双子、ハードル高すぎ物件! ティリア村在住、ダリウス・クローヴィス(17歳)なのだ!

うおおおおおおおおお、負けん!!
そして、なにより書に選ばれたい!!
どうすりゃいいんだ、俺?

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鬱々と考えていると、じっちゃんがスタスタ食器棚の方に歩いていった。棚の引き出しをゴソゴソ探ると、なんだか古めかしい〜羊皮紙を握りしめて、戻ってきた。

「これが、深淵の書に辿りつくための、遺跡の地図じゃ」

遺跡の地図、食器棚にあったーーーーーーーー!!

「そんな大事な地図、食器棚に隠すなよ!!」
「何いっとるか! 日常の中に隠してこそ、まぎれるのじゃ!!」
「そんなもんなの!?」
「そんなもんじゃよ! さあ、しっかり受けとるがいい」

じっちゃんが、俺の手の平にセピア色の古びた地図を渡してくれた。そこには、この町の外れにあるという「禁断の遺跡」の内部が描かれてたんだ。

「え、ちょっ……!! ここ、禁断の遺跡だろ」
「そう、禁忌の場所じゃ。選ばれてこい。アレキとダリウス、どちらか一人。運命の1冊に!」

「はい!!」

俺とダリウスは、力強くうなづいた。歴史を感じるキャラメル色の地図には、誰かの手垢や、誰かが握りしめた軌跡、すこし破れている部分もあった。うわあ……なんか、緊張する……!!
ドキドキしてきた……!!

かつて、たくさんの反魂使いを志した誰かが、この地図を握りしめて、反魂使いを目指したんだろう。

なんてーか、こう……凄いな。
時の年輪とか、地図から深い想いを感じるよ。うん、俺は絶対に選ばれる!! 
そう、決めている。

「生きて、帰ってこいよ」
「え……?」

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いつも朝から「なんで起きないんじゃーーーーーー!!」と怒号を飛ばすじっちゃんの、予想しなかった優しい声。やわらかく俺の頭にポンポン、と掌をのせると、こう言った。

「洞窟にはフォルネウスという、深淵の書を守りし魔獣がいる」
「フォルネウス……?」
「ああ。そいつに言葉は通じない。ただ、深淵の書を守るために襲ってくるだろう。フォルネウスに、殺されるなよ……!」

え……、洞窟に魔獣……?
殺される可能性があるってことか……?

(続きます)

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現職デザイナー、webライター。名古屋にてゲームデザインチーフ、編集ディレクターを経て、今も美しいモノを紡ぐ仕事をしています。キャラショー出身。妖怪でアクションのある芝居を演じ、作・演出したり。名古屋城金シャチ横丁の海鮮市場2018、2019公式レギュラー。勢州津高虎隊にて出陣。