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韓国人ラッパーWooの新曲から見る韓国のヒップホップシーンについて

2017年のヒップホップサバイバル番組「SHOW ME THE MONEY」のシーズン6に登場したWoo(우원재)。一般人として出場し優勝はならなかったが3位という結果を残し、今では韓国のヒップホップシーンを支える1人となっている。そんな彼を一躍有名にしたのが『We Are(시차)』である。元々は同番組の最終ラウンド用の曲として準備されていたが番組終了後の同年2017年にLocoとGrayを客演に迎え大ヒットを記録した。それをきっかけに韓国のヒップホップアーティストが多数所属するAOMGに加入した。2024年4月、彼は長年共にしたAOMGを去り、5月21日にAOMGとの契約終了後、初の新曲を発表した。今回はその新曲から彼の音楽ジャンルについて掘り下げていく。

まずは今回の新曲『29』の歌詞を紹介する

내가 사랑했던 것들에 나 이제는
僕が愛したものに僕はもう
그땐 그랬지란 말을 덧붙여야 해
あの時はそうだったという言葉を付け加えなければならない
추억이 이리 입에 담기 싫은 말이었나
思い出ってこんなに口にしたくない言葉だったのか
나 안 익숙해 Uhm
僕は慣れてない
겨우 넘기려는 20대의 마지막은
やっと乗り越えようとする20代の最後は
꽤나 많은 걸 느끼게 했지
かなり多くの事を感じさせた
영원한 건 없다는 말 이해가 돼
永遠なものはないという言葉が理解できる
근데 니가 한 말관 안 비슷해 Uhm
でもあなたが言った言葉は似てない
요즘만큼 의욕이 없던 날이 있었던가?
最近ほどやる気が湧かない日はあったかな?
내 조카의 얼굴을 보는 것과 몇억을 버는 것 사이
甥っ子の顔をみるのと数億稼ぐ事の差
삼촌은 그 몇억 들고 니 뒤에 항상 있을게 Uhm
叔父さんはその数億をかけてお前の後ろにいつもいるよ
이젠 어른이 돼야 한다는 것과
もう大人にならなければいけないということと
속물이 돼야 한다는 그 차이를 잘 모르겠어
俗物にならなければいけないということの違いが分からない
그냥 엄마 아빠의 가르침을 난 믿을게 Uhm Uh
ただお母さん、お父さんの教えを信じるよ
Uh

Hol’up wait i said you my mate,
待ってくれよ、仲間だと言ったじゃないか
don’t cheat me bro
騙すなよ
오늘도 밤새 일했지 어저께의 일은 잊고
今日も夜通し働いたよ 昨日のことは忘れてね
보름달이 떴네 떡하니 우리 집 거실이 밝게 갈게
満月がでたね どうにか家のリビングが明るくならないうちに行くよ
너네 집 앞에서 담배 한 대 어때 하늘이 너무 이뻐
あなたの家の前で一服どう?空がすごく綺麗だよ
Huh

글쎄 돈이나 샐라 해
さあ金でも稼げよ
새벽 2시 역시 로꼬형은 꿈나라 Uhm
夜中の2時、ロコは夢の国だよ
코쿤형은 바쁠 거야 내일
コクンは明日忙しいんだろうな
쌈디형은 술 아니면 드라마
サムディはお酒かドラマ
성화형은 나보다 전화를 안 받어
ソンファは僕より電話にでない
고향 친구들은 출근할 준비를
故郷の友達は出勤する準備を
아니 그 준비할 준비를 uh
いや、その準備をする準備を
요즘 내 주변은 언제나 그랬듯
最近、僕の周りはいつもそうだったように
내 걱정뿐인 걸 알아
僕の心配だけだったということを知っている
스물둘 훅하고 나타난 막둥이
22でびゅっと現れた末っ子
그래 난 평생 그때고 싶나 봐
そうだね、僕は一生その時のままいたいみたいだ
그때 시차로 받았던 상들,
その時”시차”でもらった賞
단상 위에서 날 째려보던 눈들이 아직도 아파 난
壇上の上で僕を睨んだ目がまだ痛い
어 근데 이젠 괜찮아
ああでも、もう大丈夫
저 마디까지는 어젯밤에 적었던 가사
あの節までは昨夜書いた歌詞
Ye i used to
僕は以前
난 진짜 어제까진 어떻게 할 줄 몰랐지
僕は本当に昨日まではどうするか分からなかった
겁이 너무 났지만 내 뒤를 봤지 huh
すごく怖かったけど僕の後ろを見たんだ
Ye i used to 난 항상 받기만 했지
僕は以前 僕はいつももらっているだけだ 
곧 나이 삼십
もうすぐ30歳
이제는 받은 거
もうもらったもの
되돌려 갚기로
返していくことに
Uh

Hol’up wait i said you my mate,
待ってくれよ、仲間だと言ったじゃないか
don’t cheat me bro
騙すなよ
오늘도 밤새 일했지 어저께의 일은 잊고
今日も夜通し働いたよ、昨日のことは忘れてね
보름달이 떴네 떡하니 우리 집 거실이 밝게 갈게
満月がでたね、どうにか家のリビングが明るくならないうちに行くよ
너네 집 앞에서 담배 한 대 어때 하늘이 너무 이뻐
あなたの家の前で一服どう?空がすごく綺麗だよ
하늘이 너무 이뻐
空がすごく綺麗だよ
검정 하늘에 노란 천막을 씌었나 봐 별들이 숨고
星が隠れて黒い空に黄色いテントをかけたみたい
내일 아침이면 한강엔 수채화 서울이 떠
明日の朝に漢江には水彩画ソウルが浮かぶ
그렇게 스물아홉이 됐나 봐 어제 일은 잊고
そうやって29になったみたい  昨日のことは忘れて
이젠 알아 뭐 괜한 일에
もう分かるよ 余計な事に
문제 삼아 문제를 만들 필욘 없지 huh
問題視して問題を作る必要はないよ
안 좋은 일들에 감정을 팔아
悪いことに感情を売る
날 가두어 놓을 시간 없지 huh
僕を閉じ込める時間がないんだ
추억은 남아 근데 그건 이제 내 옆에 없으니
思い出は残る でもそれはもう僕のそばにないから
추억이란 말로 남잖아
思い出という言葉で残るじゃん
그게 영원이란 건가 봐 너무 아름다웠었지
それが永遠ということなんだね すごく美しかったよ
Huh 유난 떨 필요 없잖아
大騒ぎする必要ないじゃないか
어디 안 가잖아 더 급한 게 많아
どこにも行かないじゃん  もっと急なことが多いんだ
이쁜 도화지에 색깔은
綺麗な画用紙に色は
하얀 창밖엔 비가 와 내 걱정은 하나
白い窓の外には雨が降って私の心配は一つ
벌써 바뀐 내 성격은 너무 차가워
もう変わった私の性格は冷たすぎる
우리란 말은 우리 말곤 모두 적으로 만들잖아
僕たちという言葉は、僕たち以外はみんな敵にするじゃん
근데 우린 안 그랬잖아 맞아
でも僕たちはそうじゃなかったじゃん  そうだね
나는 아직도 거기에 살아
僕はまだそこに住んでいる
Uh

Hol’up wait i said you my mate,
待ってくれよ、仲間だと言ったじゃないか
don’t cheat me bro
騙すなよ
오늘도 밤새 일했지 어저께의 일은 잊고
今日も夜通し働いたよ、昨日のことは忘れてね
보름달이 떴네 떡하니 우리 집 거실이 밝게 갈게
満月がでたね どうにか家のリビングが明るくならないうちに行くよ
너네 집 앞에서 담배 한 대
あなたの家の前で一服どう?空がすごく綺麗だよ
어때 하늘이 너무 이뻐
どう?すごく綺麗だよ
하늘이 너무 이뻐
空がすごく綺麗だよ
검정 하늘에 노란 천막을 씌었나 봐 별들이 숨고
星が隠れて黒い空に黄色いテントをかけたみたい
내일 아침이면 한강엔 수채화 서울이 떠
明日の朝に漢江には水彩画ソウルが浮かぶ
그렇게 스물아홉이 됐나 봐 어제 일은 잊고
そうやって29になったみたい  昨日のことは忘れて

AOMG退社後、初の新曲となる『29』だがWooにとって何か節目のようなものを感じる曲である。曲の中には、2020年にリリースしたアルバム『Black Out』の『USED TO』のサンプリングが入っていたり、共にAOMGで過ごしたLOCO、コクン(Code Kunst)、サムディ(Simon Dominic)、ソンファ(Gray)などの名が挙がっている。GrayはWooと同じ2024年3月にAOMGを退社、Code Kunstは同年4月に退社をした。
退社をしてからも형들(日訳:兄さんたち)の名前を入れることでラッパーとしての位置を確立するきっかけにもなった方々への感謝、そしてAOMGへの愛を感じる。思慮深いWooらしいリリックだ。AOMG退社後に投稿したインスタグラムでWooはこう綴った。

그런 저의 반짝였던 20대를 돌이켜보니 우리 식구들과 함께 보냈던 시간들은 단 하나도 빠짐없이 행복했던 기억들뿐이라, 제 마음 한구석이 이리 시린가 보다(日訳:そんな僕のきらびやかだった20代を振り返ってみると、私たち家族と一緒に過ごした時間はただ一つも欠かさず幸せだった記憶だけで、私の心の片隅がこんなに痛いようだ)

https://www.mk.co.kr/news/hot-issues/10977109

リリックにも甥っ子、金などがあるようAOMG退社、当時のWooの葛藤や思いが書かれたものであることが想像できる。Wooは以前、「W Korea」という韓国の雑誌のインタビューで曲の制作過程の話をしたことがある。その際も、日記のように音楽にその日、その日のことを記録する。各曲がその時書いた自分の姿の様だと話している。(2020 W Korea) キーワードになるのはやはり「思い出」ではないだろうか。SHOW ME THE MONEYから登場し瞬く間に売れっ子になり、来年30歳になるWoo。そんな彼の人生を表したある種の区切り目になる曲であろう。

ここまで新曲『29』についてみてきたが、もう少しWooの音楽性について掘っていきたい。2017年のSHOW ME THE MONEYに出演した際、WooはSwagみたいなものじゃなく自分の話と自分の状況だけ話したいと言った。そのスタイルは先ほどまで見てきたように売れた今でも変わらない。元来、ヒップホップは黒人の若者らの文化の中で生まれた音楽であり、そういうベースがない韓国、もちろん日本においてもラッパーたちの中で様々な葛藤を生んだと思う。ヒップホップはSwagじゃなきゃというラッパーも韓国には多くいるが、本当に大事なのは自身を表現していくことでありWooのスタイルはそこに上手く合致したのではないだろうか。SHOW ME THE MONEYに出演し、私が一番衝撃を受けたのは『ZINZA』だ。リンクを張るので一度全員に聴いてほしい。SHOW ME THE MONEY準決勝、順調に勝ち進み段々と名をはせてきた当時の等身大のWooが歌詞に表れている。かっこよくラップをするのではなく自分の話を吐き出すように作られたこの歌は多くの反響を呼んだ。また、Wooを語るうえで外せないのが『We are』という曲である。先述したように同番組の最終ラウンド用の曲だったが番組終了後にリリースしYoutubeの再生回数は今では500万を超えている。番組中に見せた、独特の暗いフロウと攻撃的なビートとは異なり、『We are』は非常に大衆受けしそうな曲である。メロディーも明るく前向きな歌詞も目立つ。その中でもWooの多大な努力を歌詞から読み取ることができた。明るい曲も暗い曲も自身の色の曲にすることができるWooに脱帽だった。ただ少し皮肉だなと感じたのが、キャッチーなメロディーを使用したことでやはり大衆受けはよく、普段ラップを聴かない人でも聴きやすい音楽にはなっていたが、SHOW ME THE MONEYのWooを見ているとこれが本当に正解の売れ方だったのかなと思う。実際に今回の新曲『29』にも「賞をもらった時の鋭い目」と書かれているように当時のWooにも何か思うことがあったのではないかと推測する。そんな葛藤が書かれたのが番組終了後に出した『Anxiety』というアルバムだ。人気になったWooの心情や周りの様子がとげとげしく書かれている。Wooの音楽をリリース順に聴いていくと彼の日記のようにその当時の感情が分かり、どういう流れで今のウ・ウォンジェという人間が作られていったのかが分かり非常に面白い。これはやはりSHOW ME THE MONEYのインタビューで答えていた様に自分の話と自分の状況を伝えるというWooのスタイルに起因するのだろう。

Wooの音楽を見てきて分かったように、韓国のヒップホップシーンにおいてヒップホップというカルチャーと大衆音楽が衝突することが分かる。SHOW ME THE MONEYを見ていると明らかに昔よりシンギングラッパーが増え音楽もより大衆に向けたものが作られるようになった。そもそもヒップホップを大衆音楽にしたのがSHOW ME THE MONEYではないだろうか。誰もが見れるテレビ番組にてヒップホップのサバイバル番組を放送する。エンターテインメントとしては新しい視点からの最高の事業になったが、韓国のヒップホップシーンを変化させた要因(もちろんいい意味でも悪い意味でも)の1つなのではないかと感じる。韓国の文化であるK-POPアイドルも、K-POPのなかでラップを担当する者はラッパーの中ではラッパーと呼ばれない。SHOW ME THE MONEYにアイドルラッパーが出演することが多々あったが毎回怪訝な目で見られているのが事実だ。それはそれぞれの土台が違うから衝突が起こってしまうのはしょうがない事だとは思うが、その中で新しい音楽ジャンルが確立していくことを願う。その筆頭になっていくのがWooなのではないだろうか。『We are』のような大衆向けの曲でも等身大の自分を表現し自分のスタイルに落とし込んでいくことができるWooならそれが可能だと感じる。SHOW ME THE MONEYが終了し、韓国ヒップホップの絶対的存在「Jay park」が韓国の大手音楽レーベル、H1ghr music、AOMGの代表から退いた今、韓国のヒップホップシーンは非常に重要な過渡期である。そんな中、長年いたレーベルを去り新しい道を進もうとしているWooに期待を乗せながら応援したい。


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