マリみてSS「Soulmate」

お題:卒業前小景(2022/09/21)

「ここにいらっしゃいましたか」
薔薇の館にいたその人は、夕日に照らされて、これいじょうないほどにこの空間に似合っていた。
長く美しい黒髪。凛々しいお顔。上品な佇まい。その全てが、この洋館に調和していた。
小笠原祥子さま。
私のお祖母ちゃんで。
私のお姉さまの大切な人で。
明日、このリリアンを巣立つお方。
「ごきげんよう、瞳子ちゃん」
本当は私ではなく、お姉さまがいらっしゃるべきなのだろうが。
とはいえ、今更時間は巻き戻せない。
瞳子は気付いてしまったのだ。
この人もまた、待っているのだ。
お姉さまを。

多分。
いや、確信があった。
お姉さまが卒業し、去っていくことの意味と重さは、このお二人にとってはとてつもなく大きいんだって。
だから、それを超えていかなければならないお二人の心の内を想像すると―
「私は…」
文庫本に視線を落としていた祥子さまの瞳が、こちらに向く。
「私は、何も出来なくて」
私は、知っている。
二人の魂の結びつきを。
そこに私が割って入るなど、できっこないことを。
「何も、できないのが」
悔しかった。
何もできない自分が。
祥子さまが立ち上がった。
「これ以上、泣かないで」
差し出されたハンカチで、自分が泣いていたことに気付いた。
「あ…」
祥子さまは微笑んだ。
「私のお姉さまが仰っていたわ。『包み込んで守るのが姉。妹は支え』、なんですって」
「妹は、支え…」
「そう。だから瞳子ちゃんも、祐巳の支えになって頂戴」
これは、遺言だ。
卒業し、これから会えなくなる祥子さまからの。
私への、言付け。
「分かりました」
私はハンカチを受け取らず、袖で涙を拭った。
きっと、そのハンカチが受け取るべき涙は。
私のじゃない。
―祐巳と向かい合うの、怖い?
いつだったか、祥子さまがこう仰ったことがあった。
今なら分かるような気がする。
一人の人間と。
演技もなく向かい合うことの意味。
私もいつの間にか、お姉さまの世界に染まりだしていくような。
それが、心地良い。

祥子さまが待っているのは、私じゃない。
きっと、お姉さまは、ここに来る。
妹は支え、なのだから。
支えるべきは、私じゃない。
瞳子は信じていた。
この二人の、魂の結びつきを。

あとがき
ソウルメイト。英語で「魂の伴侶」という造語なんたとか。
「もし瞳子が祐巳より先に祥子さまに会っていたら?」というIFです。
やはりマリア様がみてるは、祐巳と祥子さまの物語、というイメージが僕の中にあって、この二人の魂の結びつきの強さを表現できたらと思って書きました。

ソウルメイト
分類:切り花系品種

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