見出し画像

マリみてSS「Semperflorens」

お題:秋(2022/10/19)

「秋といえば、バラが見たいわね」
なんてことを水野蓉子さまが仰ったとか。
祐巳は「それは面白そうですね」なんて社交辞令的に返事をしたら、すぐさま日程調整の話になって。
そんな事がきっかけで、実現した紅薔薇姉妹のバラ園探訪。
祐巳は率直に聞いてみた。
「なんで秋なのにバラなんですか?」
西洋風の庭園は、色とりどりのバラが咲き誇っていた。
「祐巳、バラは秋も見頃なのよ」
お姉さまいわく、秋バラは香りが強く出て、花色も良いのが特徴との事。
「バラには春だけ咲く一季咲きと四季咲きのものがあって、今あるバラ…現代バラモダンローズは四季咲きのものが多いわね」
四季咲きバラは春と夏と秋に咲いて、その季節ごとの楽しみがあるんだとか。
「私も、たまには祥子の顔を見ておきたいからね」
紅薔薇さまとしてちゃんとやれてる?なんて言っちゃうんだから。
流石は水野蓉子さま。祥子さまの扱いでは、祐巳はまだまだこの人には敵わないなあと思うのだ。
奥の方に進んでいくと「チャイナローズコーナー」と書かれた看板があった。
蓉子さまも祥子さまも立ち止まった。祐巳も気付いた。私は、このバラのことを知っている。
忘れもしない。祥子さまと初めて出会って、教えてくれたバラだから。
「これが、ロサ・キネンシス。木立性のタイプね」
ロサ・キネンシスは少し低いバラの木に、赤い花をたくさんつけていた。
四季咲きバラは、繰り返し花を咲かせることに栄養を使うため、あまり大きくならないらしい。
「こっちはロサ・キネンシス・オールドブラッシュ。現代バラに四季咲き性を取り入れる元になったバラね」
ロサ・キネンシスは一種類だけではなかった。こっちはピンク色のバラが可愛らしい。
「これはロサ・キネンシス・センパフローレンス。真紅の薔薇はここから生まれたと言われているわ」
こっちは深みのある真紅のバラで、さっきのとは違った大人のバラって感じ。まるで蓉子さまや祥子さまのようだ。
「ロサ・キネンシス・ヴィリティフローラ。花びらではなくて萼が花びらのように見えるのが特徴よ」
今度は完全に緑色のバラ。こんな変わり種もあるのか。
「ロサ・キネンシス・ミニマ。ミニチュアローズの元になったバラよ」
数十センチの高さのそのバラは、本当にバラを小さくしたミニチュアのようなバラだった。小振りの葉に、ピンクの小さな花が愛らしい。
「ロサ・ギガンティアやロサ・フェティダはないんですね」
「ギガンティアとフェティダは春にしか咲かない一季咲きだから、今の時期は咲いてないわ」
去年別荘にお邪魔した時に知ったのだが、植物にもお詳しい祥子さま。そんな祥子さまのガイドつきとは、自分はなんという幸せものだろうか。
「だから、私達紅薔薇姉妹だけで来たのよ」
聖や志摩子白薔薇姉妹江利子や由乃ちゃん黄薔薇姉妹とは来られないからね、と笑う蓉子さま。
「折角秋バラを見に来たのだから、バラの香りを楽しみましょう」
バラの香りは、朝の方が強く出るんだって。早起きして集まったのは理由があったのか。
「ダブル・ディライト。優雅な花と良い香りで、殿堂入りをしたバラよ」
祥子さまのガイドの通り、クリーム色と、花びらの縁に赤い縁が入った花がお見事。
香りも、想像していたバラの香りとは違って、甘いような香りがした。
バラ園散策の締めは、カフェでのローズティー。
「また来られたらいいわね」
前髪をかき上げて言う蓉子さまに、祥子さまは珍しく食い気味に言った。
「是非、来年もまたバラを見ましょうよ。お姉さま」
リリアンではない大学に進学された蓉子さまとは、もうそうそうお会いする機会がないから。
卒業されても、やっぱりお姉さまはお姉さまで。
妹である祥子さまも、姉の前では妹になるんだなあ。
涼しい秋風が、屋外のテラスに吹き込み心地良い。
他の来園者も、みんな笑顔だった。
蓉子さまも。
祥子さまも。
私も。
皆笑っている。
笑顔が、咲いている。
ずっとこんなだったらいいのに。
と本気で祐巳は思うのだった。

あとがき
センパフローレンス。ラテン語で「常に開花している」という意味の言葉です。
まず、「秋バラを見るために紅薔薇姉妹がバラ園に行く」というストーリーを考えました。
舞台は京成バラ園を意識しました。
出てくるバラは全て実在するものです。
京成バラ園のチャイナローズコーナーを覗いてみれば、これらのバラも見かけることでしょう。
流石にもう秋バラのシーズンではないですけど、香りよし色良しの秋バラを愛でてみてはいかがでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?