マリみてSS「Sourire Toujours」

いつもそうだ。
鈍感なんだから。
朝起こしてくれなかった。
三編みおさげにリボンを付けてみたのに気付いてくれなかった。
そういえば、昨日の帰り道で明日も一緒に行こうねって言ったのに。
気まずそうに笑う祐巳さんには気の毒ではあるのだけど、ここは親友だから許してほしい。
全部、令ちゃんが悪いんだから。

いつもそうだ。
鈍感なんだから。
朝声をかけたのに起きなかった。
朝食の紅茶はミルク多めが好きだから用意してあげたのに。
そういえば、昨日の帰り道で明日こそ自分で起きるんだって言ってたのに。
涼しい顔をして紅茶を飲む祥子には関係ないのだけど、ここは親友だから許してほしい。
全部、由乃が悪いんだから。

「折角よ?オシャレしてみたのに!なんで気付かないのかしら」
祐巳さんは、ますます困った顔をする。
「まあ…私だってすぐには気付かなかったし」
ほら。完全に言葉を選んでいる。
そんなのは私だって分かってるもん。
「違うのよ!いつも一緒の令ちゃんが気付かないのは、令ちゃんが鈍いのよ!」
八つ当たりで。
一方的で。
それでも謝れないでいる。

「折角よ?由乃の好みに合わせておいたっていうのによ?なんで気付かないのかな」
祥子は、涼しい顔を壊さない。
「それも含めての由乃ちゃんでしょう」
ほら。一人っ子の祥子には分かりはしないんだ。
そんなのは私だって分かっている。
「そうだけどさ、もっとお淑やかというかさ。もう二年生で、つぼみになるんだしさ」
自分勝手で。
無神経で。
それでいて謝れないでいる。

一通り愚痴を聞いてくれた優しき親友が最後に言う。
「それで、結局は相手にどうしていて欲しいのよ?」
愚痴を言い終えてクールダウンした頭には、鋭く刺さる一言。
「それは…」
口ごもる。
答えは出てる。

「隣にいてくれて、微笑んでいてくれれば」
それだけで、いいんだって。

あとがき
2020年の11月22日、「いい夫婦の日」に書いたSSです。
SSというか、詩ですね…
スーリール・トゥジュールは、フランス語で「いつも微笑んで」という意味を持つバラから拝借しました。
黄色い切り花品種です。

スーリール・トゥジュール
作出:今井ナーセリー

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