マリみてSS「朱に交わらず」

お題:蟹名静(2023/05/24)

あの日のことを今でも覚えている。
ひと目見た、あの時を。
ここ、リリアン女学園で。
誰にも交わらずに、ただ一人、そこにいる。
鋭い眼光。
他の人を近付かせない雰囲気。
それはまるで、子羊の群れの中に、一匹混じった狼のよう。
いつか噛みつかれてしまうかもしれない危うさを秘めていた。
それでも、私は構わないと思った。
「静さん、どなたか気になるお姉さまでもいらっしゃるのかしら?」
静さんなら、どの上級生のお姉さまからも姉妹の申し出があってもおかしくないですから。
そう言って茶化すクラスメイトに適当に愛想笑いを返す。
あの人は誰だろう、と思った。
その疑問は、近いうちに明かされた。

佐藤聖。
この広い学園で、個人の名が知れるのは、相当な有名人だけである。
それもそのはず。
彼女は、白薔薇のつぼみという大層な肩書を持っていたのだから。
学園では、誰が誰を姉妹にするのか、といった話は、格好の話題だ。
ましてや、有名人たる薔薇さまともなれば。
そして、全く無名な佐藤聖という人物がピックアップされたことに、話題は騒然だった。
(姉妹になるんだ…)
私は、複雑な気持ちでいた。
一匹狼だと思っていたのに、って。
心の底では、誰かを欲していたんだ、って。

冬になった。
あの人は長かった髪をバッサリと切り落としていた。
栞さんがいなくなったから。
多分、その記憶を残さないように。
多分、その未練を残さないように。
似合っているな、と思った。
私も揃って髪を切り落とした。
気付いてくれたらいい、と思った。

初めは一匹狼だと思っていた。
誰とも群れず。
誰をも噛み千切る。
でも、あの人の周りには仲間がいて。
隣には、一人の少女が立っていて。
自分がそこにいないことが。
悔しくて。
苦しくて。
復讐心からか、生徒会選挙に出てみたり。
嫉妬心からか、藤堂志摩子に手を出してみたり。
したけれど。
でも、もういいんだ。
―餞別
そう言ってあの人がくれたもの。
その感触が。
思い出があれば。
生きていける。

いけない。
居眠りをしていたようだ。
窓から見下ろすのは、異国の地の風景。
私は、今日からここで生きていくんだ。
あの人のように。
朱に交じわって。
それでいて。
朱に交わらず。

あとがき
蟹さまのSSはいくつか書きましたが、魅力ある飽きないキャラクターですよね。
タイトルは「朱に交われば赤くなる」から、決して交わらないであろうかつての聖さまを連想して作った造語です。

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