マリみてSS「Bridal Tiara」

小高い丘に建つ、一軒の小さな教会。
参列者は少ないけれど、皆私の大切な人。
純白のウエディングドレスを、風が優しく撫でる。
左手にはバラのブーケ。
右手には。
同じく純白のドレスに身を包んだ、ふわふわ綿菓子のような髪の、私の大切な人。
祝福の言葉をかけてくる、左右に髪の毛を巻いた彼女の目には、うっすらと涙が見えた。
手を引いて。
大切な人を離さないように。
お揃いの純白の手袋越しでも、上がりきった私の体温が伝わってしまいそう。
神父が高らかにこう言った。
誓いのキスを、と。
向かい合う。
ずっと待ち望んでいた。
ずっと待ち焦がれていた。
雨の日に、桜の樹の下で誓った、離れないという言葉が。
嘘じゃなかったと。
私の生涯をかけて、証明する。
あまり変わらない身長差は、向き合ったときに距離が近くて。
少し照れくさくて。
いっぱい嬉しい。
さあ、いくんだ。
いけ!乃梨子!

「乃梨子?」
「…えっ?」
目の前には、心配そうな顔をした志摩子さんの顔が。
「うわあ!」
思わず声が出た。
そりゃあ出ますよ。
目の前に美少女のどアップで。
それが、自分の一番大好きな人なんだから。
「大丈夫?」
胸のドキドキは、冷静な感情を排除してくる。
落ち着け。
自分に言い聞かせて、一呼吸。
「大丈夫、です」
「変な乃梨子ね」
クスリと笑う志摩子さん。
祐巳さまのこと、これでは笑えないな。
そのくらい、顔が熱いのを自覚した。

帰り道。
志摩子さんは、マリア像に向けてお祈りを捧げる。
何をお祈りしているのかは分からない。
ただ、見返りを求めること無く、何かに対して敬虔に祈りを捧げる志摩子さんを。
今日は、遠くに感じた。

―その祈りは、誰のため?
言葉にすれば、たったの一言なのに。

雨の日に誓った、志摩子さんから絶対に離れないって。

―それは、いつまで?

乃梨子も、志摩子さんの隣で祈りを捧げる。
外は暗く、星が瞬いていて。
いつもは何もお願いなんてしないけど。
頭の上に瞬く星に、祈ってみたりして。

「乃梨子、今日のお祈りは長かったわね」
ふと振り向くと、志摩子さんはもうお祈りを済ませていた。
「叶えてくれるかは、分かんないけどね」
私の、精一杯の照れ隠し。
「叶うわよ、きっと」
そう微笑む志摩子さん。

―いつまでもずっと、志摩子さんの隣にいられますように。

「叶ったらいいな…」

あとがき
ブライダル・ティアラ。
ご存知、結婚式で花嫁さんが頭に付けるやつですね。
ティアラには、こんな由来があるそうです。
かつて、星々には神様が宿ると信じられていました。
人々は大事な物事を決める際には、星空の下でお祈りを捧げていたそうです。
もちろん、愛の誓いも―
ティアラに散りばめられた宝石は、そんな神様の宿る星々をイメージしているのだそうです。
乃梨子の妄想からスタートするという、奇をてらってみたSSですが、お楽しみいただけたら幸いです。

ブライダル・ティアラ
分類:フロリバンダ・ローズ
作出:ジャクソン&パーキンス(米)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?