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#人外教室 (感想・ネタバレあり)

2月25日、にじさんじ所属のバーチャルライバーであり新人作家・来栖夏芽先生のデビュー作、『人外教室の人間嫌い教師』が発売された。人間が嫌いな主人公が人間になりたい人外の少女たちの教師となって彼女らに「人間」を教える物語だ。

既にTwitterでも感想ツイートをしたが、それでも書ききれなかった感があるので改めて感想をまとめていきたいと思う。ネタバレありとは書いたが、具体的な内容への言及はできるだけ避けるつもりなので、もしこれを読んで興味を持った方がいれば是非ご自身でも買って読んでみてほしい。普段こんな風に感想や文章を書くことは稀なのであまり上手く伝えられる自信はないのだが、温かい目で読んでもらえると幸いだ。


昨年末に来栖夏芽が新人作家としてデビューするという発表があり、元々ライバーとしての彼女を推してきた自分としてはその時点で買わねば(使命感)という気持ちがあったため、1月にメロンブックスで予約をし、発売翌日の昨日に店舗で受け取ってきた。と、ついでにアニメイトととらのあなにも立ち寄って合計3冊を購入した。それぞれの店舗の特典が欲しかったのもあるが、やはり読む用や保存用、布教用などのためにも複数冊買っておきたかった。

ただ、正直に言ってしまえば読む前には不安もあった。デビューのきっかけともなったマイクラ内での短編小説などから文才やセンスがあることは知っていたものの、元々ラノベをよく読むわけではない、また他人と比較して趣味・嗜好が偏っている自覚のある自分の好みに合わなかったらどうしよう……という懸念である。

しかし実際に読んでみると、そんな懸念は全くの無駄であったことが分かる。人外教室は自分の期待をはるかに上回り、今まで自分が読んできた中でも群を抜いて心を動かし、感動を与えてくれる作品だった。

まず、読み始めやプロローグからすぐに夢中になってガンガン読み進めることができたし、発売前から抱いていた「人外教室とは言うけれどいったいどんな世界観の中に存在する学校なんだろう……?」というような疑問がすぐに解消されてすんなり物語に入り込めた。

世の中には人外のキャラクターが登場する作品として、異世界を舞台としたものや現実世界の中で人外が生活するものなど様々な形が存在する。この人外教室という作品では、現実世界の中に存在するが一般の人間社会とは隔離されており何やら不思議な力が働いている学校が舞台という、それらの中間のような設定だったのが印象的だったし自分の好みに合っていた。

また、この物語は基本的に主人公である人間零ひとま れいの視点から描写されているのだが、彼の内面の描き方にもとても魅力を感じた。言わずもがな、作者である夏芽先生は女性だが、彼のように陰キャでオタクな20代男性の内面が違和感なく描写されており、非常にリアリティのあるキャラクターだなと感じた。同僚の女教師に対する接し方や、水着回での生徒たちへの反応などが個人的には印象的に残っている。

また、タイトルにあるように人間嫌いと言いつつも、別に全ての人間を嫌っているわけではなく他の教師などと普通に友好的に接しており、彼の過去に関する記憶以外からはあまり人間嫌いというところを感じにくい。彼のそんなところに逆に現実味というかリアルな人間らしさを感じた。

そのような主人公の描き方や、学校に赴任することになる過程など様々な点からこの世界観が現実と地続きになっていることを感じさせてくれる。フィクション作品において、その物語の出来事やキャラクターが実際に存在しているのかも……と空想や妄想をするのも楽しみ方の一つと考えているので、人外教室にはそういった魅力も感じている。

全体の構成としてこの作品では各話ごとの直接的な繋がりは少なくそれぞれが独立したお話となっている、いわゆるオムニバスのような形式をとっているのだが、その中で特に自分に刺さったお話が2つあるのでそれらについて話そうと思う。1つは人狼の少女である尾々守一咲おおがみ いさきに、もう1つはウサギの右左美彗う さ み  すいに、それぞれスポットが当てられた回である。

前者の回では事前に公表されていたキャラ設定からのイメージやそれまでのお話における描写とは異なる、一咲の意外な一面が登場したのだが、まずそこで自分は大きく彼女に惹かれた。いわゆるギャップ萌えというやつかもしれない。(厳密に言えば彼女の人格自体が変わっているので少し違うのかもしれないが。)

このエピソードではそういった二面性に関わる彼女の葛藤や問題が主軸となるのだが、それに向き合い乗り越える過程や手段にとても“ニンゲン”らしさを感じた。事前に紹介されていたあらすじでもヒューマンドラマを謳っているだけあって作品全体としてそれをテーマに描かれているが、個人的にはこの回でそれを強く感じた。

続いて後者の右左美の回について、この回では彼女が“ニンゲン”になりたい理由とそれに関わる出来事が主軸となる。彼女の境遇には他の生徒たちとは少し異なるところがあるのだが、初めはそれが明かされず、読みながら微妙に違和感を覚えた後にその謎が明らかになる。小説や文章については疎い自分だが、この構成がとても巧みで面白いと感じた。

右左美はこの回の中で彼女の恩人に会いに行き、今まで伝えられなかった思いを伝えるという願いを叶えた後、新たな夢を見つけるのだが、自分は途中から涙が止まらなくなった。Twitter等によくいる誇張表現しがちなオタクの一人でもある自分も今回に関しては文字通りボロボロと涙を流してしまった。人外と人間という、異種族間の関係性を描いたストーリーには“エモい”ものが数多くあるが、自分はこのお話で特にそれを感じ、涙として溢れ出てしまうほどに感情が昂った。

また、4人の生徒たちの内の残りの2人、水月鏡花みなづき きょうか羽根田はねだトバリ​についてもそれぞれのエピソードを通じて理解が深まり、結果的に4人全員の魅力を余すところなく知ることができた。本のサイズも大きく文章量も多めとはいえ、1冊の中でこうして4人のキャラについてのお話を偏りなく描けるのはとてもすごいと思った。

さて、そのようないくつかのエピソードを経て、物語は終わりへと近づく。一通り大きな出来事が終わった後のエピローグで、序盤から残されていた謎が明かされるのだが、それは自分にとってとても衝撃的で思わず「マジかよ!」と口に出してしまった。初めから注意深く細部を読み込んだり伏線を探したりして推理しながら読んでいた方ならもっと早くに気づいていたのかもしれないが、自分は何も考えずに読んでいたので本当に予想外の展開だった。

そのようなエピローグや先ほど言及した右左美の話を含めた作品全体、ひいてはマイクラで執筆された短編にも言えることなのだが、作家としての夏芽先生は読者に驚きを与えるような展開やいわゆる叙述トリック的な物語を作るのが非常に上手だと感じた。全体を通して自分がこの作品に感じた魅力、また作家としての彼女の強みはそういったところにあるのではないかと思う。

また、これは普段からバーチャルライバーとしての来栖夏芽の活動を追っている人の多くは感じたのではないかと思うが、作品の随所に彼女自身の考え方やよく使っている表現、また時折垣間見える性癖などがちりばめられており、ファンとしては少しニヤリとした。

今回の物語そのものは1冊でひと段落して綺麗にまとまってはいるのだが、一方で生徒たちや主人公の今後、また新しい展開を期待できる終わり方でもあり、読み終えてすぐに是非とも続編が読みたいと思った。さほど本を読むわけではない自分だが、少なくとも来栖夏芽先生の作家としての能力・センスは間違いなく本物であると確信できたので、今までのようなバーチャルライバーとしての彼女だけでなく作家としての彼女も推していきたいと感じた。今までにも好きな作家は何人かいたもののそれぞれ1つか2つくらいのシリーズを読む程度に留まっていたが、今回はデビュー作から追うことができるので今後が益々楽しみだ。(古参ヅラしすぎないように気をつけよう……。)


改めて、来栖夏芽先生『人外教室の人間嫌い教師』の出版おめでとうございます。そしてこのような素晴らしい作品を読ませてくれてありがとうございました。また、それを世に出すために関わってくれた担当編集氏や出版社の方々、泉彩先生を始めとするイラストレーターの方々なども本当にありがとうございます。

今後もお体に気を付けつつ活動頑張ってください。応援しています。


P.S.
読み始めるまで誰推しとかはあんまり考えてなかったのだが、読んでからは前述したエピソードのこともあって「一咲ちゃん、推せるな……」と思った。かわいい。


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