リハビリテーション医学総論

リハビリテーション(Rehabilitation)と言う用語はre=again:再び、habilis=able:できる、から成り、合わせてto become able again:再びできるようになる。と言う意味。

リハビリテーション医学の特徴はその視点の中心を、救急・生命の維持ではなく、活動障害の改善に置かれている。                      
ここで言う活動とは生活をなす行動、行為、動作、運動、認知、判断などの動物機能的事象を指す。

活動の中心的領域は5つに分けて捉える。3つの運動領域(①セルフケア②移動③摂取・排泄)と2つの認知領域(④コミュニケーション⑤判断)がある。機能的自立度評価法(FIM)によってうまく表現される。

活動の問題を生活という視点で眺める際、障害の階層性を理解する必要がある。主な障害階層の分類は1980年にWHOにより発表された国際障害分類(ICIDH)とその後の国際生活機能分類(ICF)2001年がある。
ICIDHでは生活の機能障害、能力低下、社会的不利の3層に分類する。機能障害は臓器レベルの障害であり、例えば左脳出血患者の場合、右片麻痺がこれに当たる。
能力低下は機能障害の結果生じる個人レベルの障害であり書字障害、歩行障害、あるいは日常生活活動の障害。
社会的不利は能力低下の結果生じる社会・環境レベルの問題で、復職困難や段差環境での移動困難などが挙げられる。
これら3層間は上記した因果関係が存在する一方、各層間に厳密な1対1の対応関係はなく、それぞれのレベルに介入可能であることを理解する必要がある。
例えば右片麻痺という機能障害の結果生じる書字障害という能力低下は、麻痺が重篤のまま残っても聞き手の交換練習によって左手での書字が可能となれば解消される。
因果関係には逆方向も存在する。ADLが低下したため筋力低下などの廃用症候群が発生するといった『能力低下がもたらす機能障害』、あるいは、社会参加ができずに家に閉じこもっているために屋外歩行能力が低下するといった『社会的不利が能力低下を憎悪させる現象』などがその例である。
ICFとICIDHを比べると、ICFでは分類用語名の陰性表現をやめたこと、背景要因を分類したこと、活動、参加の評価において実行状況と能力を分けたことが特徴となる。

機能、構造と活動性は強い関連性を有する。という原則を活動−機能-構造 関連と言う。
活動性を変えることは重要な治療手段である。
動かないことを不動と言う。人は身体が動く前提に機能しているため、臥床し動かないとそれだけで種々の支障が生じる。深部静脈血栓症は下肢筋活動の欠如による静脈の鬱滞が主因。沈下性肺炎も仰臥位を続けることで生じる合併症。だから急性期から人の身体を物理的に動かすことがその予防として必要。

活動が足りないために起こる変化を廃用と言う。例えば、筋肉は個人が日常の活動で使用する平均的筋力の3〜4倍の最大筋力を持つように調整されている。言い換えると日常の活動強度は最大筋力の2〜3割にあたり、それを超える活動は筋力を増やし、それを下回る活動状態だと筋力が減る。
この現象は筋収縮活動によって誘導される筋繊維での淡白合成・分解の調整や運動神経での発火閾値の変化により達成され維持される。
したがって、日常の活動を制限すると最大筋力が低下する。これが廃用。
使わない筋肉では、まず筋繊維が萎縮して短縮し、ついで筋周膜が短縮し、最後に筋節が脱落し、筋力が落ち、拘縮を生む。1週間の臥床によって10~20%の筋力が低下する。
安静は無害ではない。拘縮の他にもたくさんの2次的合併症がある。

廃用は悪循環に陥りやすい問題であり1度生じた廃用を治療するには多大な時間を要する(改善には、発生時間の2~3倍の時間がかかる)。安静は有害であることを十分認識して、安静を必要最低限にとどめる努力が必要。骨折による(局所の安静)の必要性は(全身の安静)と明確に区別しなければいけない。

不動、廃用の予防には体位変換、良肢位選択、下肢圧迫、可動域訓練などの受動的予防と筋力増強訓練や座位、起立、歩行訓練などの患者自身に筋活動を行わせる能動的予防がある。
摂食嚥下障害患者についてみれば、経管栄養などにより摂食活動がなくなると、咀嚼・嚥下運動回数が減少し、その結果、廃用として、口腔衛生の劣化、口腔・咽頭筋の筋力低下、食道入口部の開大不良(特に仮性球麻痺患者)などが生じる。

リハビリテーション医学の最大の特徴は学習に用いる点にある。治療的学習は訓練(練習)と言う過程を通して個人の能力を直接変えて能力低下を改善する。
例えば対麻痺者が装具を用いて歩くことができるようになるのは、テニスやピアノを練習し上手くなるのと同じメカニズム。

運動学習とは
獲得される行動単位はその行動が目的をもっていて、幾つかの行動から構成されており『スキル』と呼ばれる。スキルはもともと備わっている行動ではなく、学習されて生まれる能力。スキルを獲得することでいろいろなことを行うことが可能。
リハビリテーション場面での新スキルは数多く挙げられる。
義足歩行や片麻痺歩行、車椅子駆動、片手動作ADL、利き手交換など。

システムとしての解決を図るリハビリテーション医学では道具や環境も味方にして新課題を乗り切る。
支援システムは2つの柱がある。1つは工学的支援、もう1つは社会的支援。
人は道具を使う動物であり、日常生活で使う道具は2万個もある。治療的学習によって克服できない問題に対しても道具つまり支援工学的手法によって対処する。義肢、装具、車椅子、座位保持装置、杖、歩行器、自助具、嚥下調整食など。
家族や介護者などの関係性調整や社会制度の利用促進も重要な社会的支援である。

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