皆さん初めまして、大阪大学法学部国際公共政策学科1回生の内海聡介です。

突然ですが、皆さんはEU法というものを知っていますか?


EU法とは皆さんの知っているEUという国際機関において適用される法律のことです。私はEU法がEUに加盟している各国の独自の法律とどのように異なっているのかに興味がありました。


そこで日本でも数少ないEU法の研究者である大阪大学法学部国際公共政策学科准教授の西連寺隆行先生にEU法がどのようなものなのか、お話をお聞きしました。


西連寺隆行教授


―なぜEU法を学ぼうと思ったのですか?

よく聞かれる質問ですね(笑)。大学に入るときに面白そうな科目はないのかと探していた時に、EU法という授業のある大学を見つけて、その大学に実際に入学しました。EU法は、当時の大学ではすごく珍しかったんです。また、中学生の時に社会の授業で当時のヨーロッパ共同体についての説明を受けたときに、アジアの共同体もできるのではないかという話を聞いたことを思い出して、実際にそのようなことができるのか知りたいと思いました。それらの影響もあり、アジアの状況とヨーロッパとの共通点、相違点を見つけようと思って、今に至っているという感じです(笑)。


―EU法が珍しいという話があったと思いますが、今もそこまでメジャーではない学問なのですか?

 マイナー科目であることは変わりないと思います。昔に比べれば他の大学でも授業が行われることがありますが、専任の先生がいるわけではなく、非常勤の教員が授業を行っていることが多いです。阪大でも私が来るまではEU法の専任の先生はいなかったです。

 

―EU法を学んでいて一番面白いと思うときはいつですか?

 判例を読んでどこからどこまでは明らかになっていて、どこからはまだわからないのか未確認なのか、そういったことを他の判例と比べて共通点や相違点を見つけることが法学の研究なのですが、自分は大きな議論や抽象的な議論を行うことよりもグループ分けを行い、グループごとに見比べていって、新たな発見を見出すことが好きだったりします。


―先生の以前のインタビューでは、EU法を英語版で読むと意味の差異が発生してしまうため、フランス語で法律を読んでいるという記事を拝見しました。実際にはどんな違いがあるのでしょうか?

 それは判決文を読む時だと思います。裁判官がフランス語で議論して、それをEUの各国の公用語に置き換えるのですが、翻訳の過程で言葉遣いが変わってしまうことがあります。過去にある研究会で、この判決はここの部分が少し異なっているので違うのではないかという指摘があったのですが、フランス語の原文は何も変わっておらず、ただ単に翻訳の過程で、これまでと異なる表現が用いられているだけでした。そのため翻訳の影響で、余計な解釈を産み出さないためにフランス語で読むようにしています。それがニュアンスの違いを産み出しているのだと思います。

 また、同じような言葉の使い方に慣れてくると似たような書き方や表現が出てきたり、違った書き方に気づいたりできるということもあります。

 

―個人的に気になっていたことなのですが、EUの本部はフランスにあるわけではなく他の国にあるのに、どうしてフランス語でEU法が書かれているのですか?

今は立法などに関しては英語の権力も強くなっているのですが、そもそもEUの初期加盟国に英語を公用語とする国がなかったということがあります。フランスとドイツとイタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク。最初はフランス語、ドイツ語、オランダ語などがベースだったのですが、外交面ではフランス語の権力が強く、地位が高かったという経緯あります。その後にイギリスが入ってきて英語が浸透したので世界的に使われている英語も使われるようになりました。

 

―EU法を研究するにあたって、EUに属している国のそれぞれの国の法律も勉強していると聞いたのですが、EU法とEU加盟国の国内法と日本の法律とではどのように異なっているのですか?

分野によっては様々な違いがあると思うのですが、大きく違いを説明することが難しいと思います。


―先生の研究の内容で先決裁定制度 ※というものがあると思います。私もその研究内容を読ませていただいたのですが、私の解釈だとEUに加盟する国の国内法とEU法は対等な関係ではないと思います。序列があるというか、、、

 

先決裁定制度※・・・「EU加盟国の国内裁判所でEU法関連の事件があったとき、「この条約・条文はどういう意味ですか?」という質問を欧州司法裁判所に送り、そして、欧州司法裁判所はその質問に対して、「この条約の条文はこういう風に解釈します、解釈すべきです」というように応答するという制度」

 

 それは非常に重要な問題です。EU法と国内法の関係は、EUの裁判所の観点からするとEU法の方が上です。EU法が下だったら簡単に国内法に覆されてしまうからです。EU法と国内法の間で議論が衝突した場合はEU法が優先的に適用されると主張します。

 しかし、これを各国が素直に受け入れることは難しいことです。これはEU法が各国の憲法よりも上だという考えも含まれます。もちろん、EUに参加している以上EU法を尊重するわけですが、さすがに自国の憲法よりも上だということは受け入れることはできないということです。各国の憲法裁判所は自国の憲法を守ることを最優先に考えています。簡単にEU法に覆されるわけにはいきません。つまり、各国の視点によってEU法と国内法の権力は異なるということになります。簡単に言うと答えが出ないということです。これを対立や紛争を起こさないように調整する仕組みの一つとして先決裁定制度があります。

 

―数年前にイギリスがEUを脱退するというニュースがあったと思うのですが、それはこの内容が深く関わっていたりするのですか?

関わっています。イギリスには成文の憲法というものがありません。昔から積み上げてきた不文のものがあります。また国会主権の原則があって、国会だけがルールを作ったり廃止したりでき、裁判所は国会の作った法律の停止などをすることはできないという原則があります。しかし、このようなルールがあるとEU法に反する国内の法律が停止できないという問題があるので、EU法との関係では国会主権の原則は適用してはいけないというように修正を求められていました。そのようなことがあって、EUに参加したままだとEUの裁判所の制御を受けるので自由になろうとしたのが一つの理由です。

 また、もう一つ理由があってそれは移民です。EUに参加している以上、人の自由移動原則があるので、移民を受け入れなければならず、それで制御が利かなくなってしまったという背景があります。

 実際にEU離脱のスローガンとして「Take back control」を掲げ、そのコントロールのうちの一つが移民のコントロール、もう一つがEUの裁判所のコントロールから抜け出すためのコントロールがありました。

 

―EU法を研究するにあたって大変なことを教えてください!

大変なことはいろいろありますね(笑)。学生のころに比べると勉強に費やすことのできる時間が少なくなっていることです。授業や学内業務などで昔に比べると時間が減って継続的にできなくなっていると思います。

 あとは、語学ですね。EU法だといろいろな国の人がいろいろなことを言っていて、英語の文献が多くはなってきているのですが、分野によってはドイツの人が中心に論じていたりとかフランスの人が論じていたりだとかで、文献で英語以外のものがよくあります。そうすると、それを読まないとニュアンスの違いが生じるので、それを読むためにドイツ語やイタリア語などの他の言語も学ぶ必要が出てきます。それで時間がかかってしまうみたいなところは大変です。EU法を研究するには、英語だけというのは限界があって、その影響でたくさんの言語をかじっています(笑)。


教授の研究室には様々な国の法律書がずらりとある


―今後EUがどのようになるのかと、それを含めて自分の研究で取り組んでいきたいことを教えてください

ロシアとの関係があって、最近は結びつきが改善したのかなという感じで、ちょっと前まではEUの中でも分裂気味というか、イギリスも脱退してしまうし、ポーランドやハンガリーといった国が右派の制度が強くて自分たちの都合のいいように制度を変えてしまうということがあり、EUともめるようなことがあったんです。それが最近はロシアとの関係もあり、EUの中で対立している場合じゃなくなって、まとまってきた感じがあります。今後もEUという枠組みの中で協力していく意義が見直されたというか、これでもう少し関係改善が進むという感じですかね。あまり将来的な予想は考えたことはないですね。イギリスの脱退も予想していなかったので全然わからないです(笑)。

 あとは、今の研究をもっと深く研究していくことですね。やはりやればやるほどわからないことが出てくるので、EU法と国内法をどう調整するかをもっと深く学んでいきたいですね。


―研究とは別の話になってしまうのですが、EUの国の中で行ってみたい国はありますか?

 どこでもいいなと思うんですけど、ベルギーですかね。中心っていうのもあるし、現加盟国でもあり、ベルギーの中でもいろんな語圏があって、その中でEUがどの立ち位置にあるのか実際に調べてみたいですね。

 あとはフランスですね。フランス語で勉強していたので、フランスの国内法の仕組みとEUの仕組みがどのように動いているのかを勉強してみたいというのがあります。


―最後に私たち学生に向けてのメッセージをお願いします

健康で生きてほしいというのが最初です(笑)

 あとはありきたりですが、うまくいかなくてもいいので自分の設定した目標に向かってチャレンジしてみることですね。うまくいくかなんて気にせずに積極的にチャレンジしてほしいと思っています。夢を追うことや留学してみるなど、人に有益になるかなど気にせず、何か挑戦してみるという精神で頑張ってほしいです。

 

 

<インタビューを終えて>

今回、西連寺先生にインタビューをさせていただいて、EUに対する興味が高まりました。日本がEUに所属していないこともあって、あまり何をしているのか知らなかったので、とても学びの深い時間になりました。

 

最後になりましたが、お忙しい中お時間を作ってくださった西連寺先生本当にありがとうございました。

 

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