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知らない言語について知ろう! ~ベトナム語編~

初めまして。外国語学部外国語学科1年の大田伊吹です。

大阪大学に入学して早3ヶ月、徐々に対面授業が再開されてキャンパスに行く機会も増え、楽しい大学生活を送っています。

突然ですが、皆さんは大阪大学外国語学部外国語学科に設けられている専攻語の数をご存じですか?

大阪大学外国語学部外国語学科には、25に及ぶ世界の諸言語教育課程が設けられており、世界の言語と言語を基底とする地域文化について幅広く、そして深く学ぶことができるようになっています。

25の専攻語は、メジャーな言語からマイナーな言語まで多岐に及びますが、今回は、日本との共通点が多いベトナムについて掘り下げていきたいと思います。

そこで、大阪大学でベトナム語を教えていらっしゃる清水政明先生にインタビューをさせていただきました。

1.清水先生とベトナム語

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ベトナム語に出会ったきっかけを教えて下さい

私がベトナム語の勉強をし始めたのは、皆さんが今学んでおられるこの大阪大学外国語学部の前身の大阪外国語大学という大学のタイ・ベトナム語学科に入ったことがきっかけです。とにかく外国語を勉強するのが好きで、大阪外国語大学という大学に対する憧れがもう凄かったんですよね。外国語を勉強したいといった時に、大阪外国語大学っていう存在が非常に大きいものがありまして、とりあえずそこに行って、何か言葉を勉強したい、というのがすごく強かったんです。それで、共通1次試験の結果も踏まえ、ほんとたまたま出会ったのがベトナム語だったんです。

実際にベトナム語を学んでみてどうでしたか

入学してすぐ発音の練習から始めたんですけど、その発音練習がきっかけでベトナム語に没頭しました。ベトナム語は日本語との相性が悪いと言いますか、日本人が習得するのが難しい言語の1つだと思うんですね。ベトナム語は非常に発音が難しく、少し発音を間違えるだけでベトナム人にとっては意味不明に聞えてしまうこともあるんですね。そんなベトナム語の発音練習が僕のツボにはまったというか、非常に面白かったんです。で、先生にその発音を褒めてもらうのが非常に快感になってきて、それからもうやめられなくなりました。そして今に至ります。

先生の思うベトナム語の難しさは何ですか

さっきも話に出ましたが、一般的には皆さん、発音が難しいとおっしゃるんですけど、僕はむしろ、皆さんが簡単とおっしゃる文法が分からなかったし、今でも難しいと感じます。日本語とかロシア語とかは活用がたくさんあり文法がすごく複雑だと思うんですけど、逆に、ベトナム語は言葉が活用することもなく、言葉を覚えてしまえばその言葉を並べて文を作っていくだけなんです。なので、文法が無いとおっしゃる人もいるくらいで、僕も最初は簡単だと思っていたんです。しかし、見かけ上が簡単すぎるが故に本質が見えてこないというか、どこまでが文法の範疇で、どこからが意味の範疇なのかが分からないんです。ベトナム語は孤立語(※)に属するんですけど、他の孤立語、例えば、タイ語やラオス語がありますが、それらの言語を研究されている先生方は皆同じようなことをおっしゃいますね。

※孤立語とは、文中における単語間の文法的な関係が、語順や接続詞によってしか表されず、いわゆる語形変化が全くないとされる言語のこと。

2.清水先生の研究について

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現在はどのような研究をされていますか

チュノム(※)が書かれた資料があるんですけど、その資料が書かれた時代のベトナム語の発音を復元するという研究を今やっています。

ベトナム語の発音というのは難しいんですよね。確かに難しいんですけど、僕的にはそこに非常に興味があったのと、チュノム文字を学んでいくうちに、チュノム文字の持つ構造とベトナム語の発音とが凄く関係していることが分かったんです。

なおかつ、チュノムの音の表し方を細かく見ると、古いベトナム語の発音が分かるということにも気づきまして、それで今は、チュノムの資料からベトナム語の発音を復元することに挑戦しています。            

※チュノムとは、13世紀~14世紀、ベトナムの陳朝の時代に、漢字をもとにしてつくられたベトナム独自の文字。しかし、習得が難しく、一般には広がらなかったため、現在は使われていない。字喃(チュノム)の音が、チュー=ノム。「チュー」は「字」の意味であるが、「ノム」はベトナム人が自国を「南国」と呼ぶところからきたという説と、話し言葉を意味する「ノム」からきたという説がある。中国の文明の影響の強かったベトナムで、民族意識が強まってきたことを示すもので、ベトナム語を表記するためにつくられた文字であるが、漢字をもとにして新たな派生文字も作られた。

研究方法を教えて下さい

発音を復元していくには、チュノムの文字1つ1つを読んでいかないといけないんです。幸い、チュノムを読むための辞書やチュノムを検索するためのWebページがあるんですね。そのWebページというのは、チュノムとか漢字で書かれた昔の文書を保存すべく活動しているNPO団体によって作られているものなんですけれども、辞書やそのWebページを利用して、まだ誰も読んだことがないチュノムの資料をベトナムへ調査に行って探してきて、1文字1文字チュノムを読んでいくんです。

研究をする中での苦労・楽しさはありますか

まずは、苦労についてなんですけど、様々なツールや自分のもっている知識をフル活用しても、どうしても読めない文字があることですかね。1つの文字が読めなくてずっと悩んでいる時期があるんですね。その時期が、とても辛いです。ですが、逆にこの悩んでいる時期に様々な可能性を考えてみて、文字の正体が分かったときはすごく嬉しいです。だから、ほんと表裏一体で、辛い時期が続けば続くほど、読めたときの嬉しさが大きいというのはありますね。

今までの研究の中で、誇れる発見があれば教えて下さい

それは忘れもしないですね。あれは大学院の博士課程にいた時なんですけれども、一体何を表しているのかが分からないチュノムの文字がいっぱい出てきたんですね。まあ、それは解読が難しいと有名なチュノムの資料だったんですけれども。

それとは全く別に、ベトナムの少数民族の言語についての報告書を、その時たまたまベトナムの知り合いの先生が送ってきてくださったんですね。その報告書には、ベトナムの少数民族が使う言語の文法が最初に書いてあって、最後に語彙集が、辞書みたいな感じで付けられていたんですけれども、それをずっとなんとなく眺めていた時に、あの全く読めなかったベトナム語のチュノムの文字の要素っていうのが、その少数民族の言語の中に残っていて、チュノムはこの要素を表しているんじゃないかなというのをふと思ったんです。そして、その観点で今まで読めなかったチュノムの語彙を、その報告書の中で探していったら、同じような形で読めた言葉がですね、いっぱい出てきたんですよ。その時にはね、本当に背筋がブルブルって震えましたね。
その発見を最初にベトナムで発表して、その後、英語とかでも発表しましたね。最終的に、ベトナムの、チュノムとか漢字で書かれた昔の文書を保存すべく活動しているNPO団体のほうから学術賞もいただきまして、本当に嬉しかったです。

3.ベトナムの魅力について

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清水先生からみたベトナムの特徴・魅力を教えて下さい

日本の人に対する尊敬の念が非常に大きいというのがあると思いますね。日本人は仕事をすごく熱心にするという風に皆さんおっしゃいますし、我々の研究の分野でも、日本人の研究というのは本当に緻密でしっかりとしているというのをおっしゃいますね。ベトナムの若い人たちの中で、一生懸命日本語を勉強して、日系の企業に入れるっていうのは1つの成功例とされているくらいなんです。

それに、ベトナムの方たちは、日本人が作るモノの質の良さを凄く褒めてくれるんですね。我々の時代で言うと、ホンダのカブが典型的な例でして、手軽に乗れて、とにかく丈夫で長期間使えるところが、バイク文化を持つベトナムの方々から支持を得ていましたね。そのようなこともあり、モノを買うのだったら日本のモノを買おうという姿勢が見受けられ、そこからも日本に対する尊敬の念がうかがえます。

逆に、日本人から見たベトナム人の印象というのは、やっぱり手先が器用で、仕事に対して熱心というのがよくあげられますね。本当に真面目で熱心で、教えたことをきちんとやる、という風に皆さん高く評価されますね。僕もそう思います。

ベトナム人が日本人を高く評価し、日本人もベトナム人を高く評価する。このように、お互いが互いを尊敬し合っていて、そこがとても好きだし、日本とベトナムとの関係をこれから築いていく上でもとても大切なことだと常に感じます。

また、ベトナムという国も、長い期間中国の版図の中に入っていて、中国の支配を受けていたので、中国文化の影響を大きく受けているんですね。その中には、儒教的な思想も含まれていまして、年上の人や先生を敬うだとかの礼儀作法が今でもしっかりと残っているんですけれども、ベトナムの人たちと話をしていて気持ちが良いなというのはいつも感じますね。
そこも魅力の1つかな、と思います。

それともう1つ。ベトナムという国は、コミュニティを作って、そのコミュニティ内でグループで行動するというか、生活をするんですね。生活スタイルとしての行動様式は結構個人プレー的なところがあるんですけど、生活する基盤としてコミュニティが存在し、その中で共に助け合って生きていくというのがしっかりとある国なんですよね。

なので、日本ではよくある孤独死の話をしたら、ベトナムの方は皆とても驚かれますし、なぜ助け合わないのかという風によくおっしゃいますね。
勿論、現代化の流れと言いますか、核家族を好んで都市部へ出て行ってしまう若者もいるんですけど、僕は、人と人との繋がりを凄く大事にするベトナムの風潮がいいな、と思いますし、我々も見習いたいくらいです。

4.オンライン授業について

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オンライン授業のメリット・デメリットを聞かせて下さい

生徒にベトナム語を教える上で、難しいなと思うのは、生徒の表情が細かく見ることができないところですかね。コミュニケーションというのは、音声だけでなくて、やっぱり表情とかも含めて成り立っていると思うんですけど、オンライン上だと生徒1人1人の表情が細かく確認できないんです。なので、その点がデメリットかなと思います。

ですが、逆に、オンライン授業だからこそできることが本当にたくさんあるんですね。

1つは、1年生の発音練習の時なんですけれども、イヤホンを付けて授業をしていると、生徒皆さんの発音がすごくよく聞えてくるんですよ。教室の中でしたら、1番後ろに座っている生徒の発音がほとんど聞えないということがよくあるんですけど、オンライン上だと皆の発音が非常によく分かるんです。だから、本当に手に取るように、ここはこうした方が良いだとかのアドバイスが分かるというのは大きいかなと思います。それとか、オンライン上で音を流して、それを皆でシャドーイングする練習もしているんですけど、それも非常にやりやすくなりましたね。

もう1つ、交流協定を結んでいるベトナムの大学の学生さんとのオンライン交流を毎週やっているんですけど、それがもう本当に楽しいですね。1年生の学生さんは全面オンラインで授業を受けないといけないですが、ベトナムも今、ほとんどがオンラインの授業なんですよね。だから、寂しい者同士と言いますか、お互いがオンライン上で毎週交流を持てるというのはオンライン授業になって良くなった点の1つかなと思います。

対面授業が再開されても続けたいことは何ですか

さっき話した、ベトナムの学生さんとの交流会は続けたいですね。ベトナム語専攻の学生さんもベトナムの学生さんも、お互いが1年生同士なので、まだ十分に発信できなくて意思疎通が難しいところもたくさんありますけど、そこを僕たち先生がサポートしながら、楽しんで言語を学んでいってもらいたいですね。そして、その交流会を通して、もっと頑張ろうと思ってくれると良いですね。

5.最後に

いかがでしたか?普段はあまり触れることのないベトナムやベトナム語について知ることができたのではないでしょうか。

チュノム文字という観点から見たベトナム語や、日本と比較して見えてくるベトナムなど、様々な視点からベトナムを味わうことができていれば幸いです。

大阪大学外国語学部には、他にも様々な専攻語が存在するので、もしこの記事を読んで言語に興味が湧いたら、ベトナム語以外にもいろいろ調べてみると良いかもしれません。

清水先生に実際にインタビューをしてみて、先生のされている研究についてだけでなく、今まで知らなかったベトナム・ベトナム語の特徴や魅力をたくさん知ることができ、とても有意義な時間となりました。

清水先生、快くインタビューを引き受けてくださり、また、貴重なお話をたくさんしてくださり本当にありがとうございました。


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