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過去を学ぶことでわかるこれからの生き方

こんにちは、外国語学部の白井です。皆さんは、グローバルヒストリーという言葉を聞いたことがありますか?国際化が進んだ現代ではさまざまな文化や背景の理解がより必要となり、広い視野を持って考える力がさらに重要となりました。その中で、グローバルヒストリーを学ぶということは多角的に見る力を培うのに非常に効果的です。

今回は、グローバルヒストリーについて研究なさっている秋田 茂先生に、研究内容や文系の勉強の意義についてインタビューをしましたので、その内容をご紹介します。

Q1 研究内容について

先生が研究しているグローバルヒストリーというものは何ですか?

グローバルヒストリーというのは、一国史を超えた新しい世界を考えるものです。

例えば、世界史は基本的にヨーロッパ中心に考えられてきましたが、グローバルヒストリーは、世界の歴史をトータルに新たな角度から考えます。

そもそも、近代歴史学は19世紀以降にヨーロッパで発達した学問で、「日本史」や「イギリス史」など、分析の単位が国(国民国家)ごとになっています。グローバルヒストリーでは、この点を重視しながらも、国民国家を超えた新しい分析の枠組みを考えた上で、広域の相互の関係を考えます。

私たちが考えているものは四つあります。それは地方史、通常教えられる国民史、そして阪大で最も重視されている、例えば海を通じたアジア諸地域の繋がり、シルクロードの歴史、モンゴル帝国を中心としたユーラシア大陸規模での繋がりといったさらに広域なもの、そして地球全体を考える地球史です。この4つの相互の繋がりを考えて従来の歴史とは違うものを考える、というのを目指しています。

一つのある国の事柄について、他の国の主観から考えていくということですか?

比較という点では合っています。しかし、例えば日本の歴史の特異性などを他の国と比べてどうなのかなどを考えた場合、他の西洋諸国の基準だけでなく、日本も含めてアジアにあって西洋にないものを比較するように、双方向で比較するように努めています。

阪大が最も力を入れているのは、さまざまな「モノ」(貿易)や「ヒト」の移動(移民)、「カネ」の流れ(金融・資本投資)、情報などの相互の繋がりを明らかにすることです。

Q2 文系の勉強の意義について

AIなどのテクノロジーが発達してどうしても理系中心の社会になっている中で、歴史の授業はどのような意義があると思いますか

私たちにとって、広い意味での教養を高めるという事はとても大事です。そして、その上で長い歴史的な見方というのが必要だと思います。特に歴史を学ぶことで直結的に利益が出るわけではないですが、人文学の勉強をすることで他の学問ではなかなか習得することのできない洞察力がつくと思います。例えば、歴史を勉強する際に、歴史的に遡って因果関係を考察することによって現代をより明確に理解できる力がつくのではないか、と考えます。

歴史学は非常に実用的な学問です。21世紀を生きていく上で私たちは国際人、あるいはグローバルな市民として生きざるを得ません。そのため、外国の人と会話をする時に相手の背景を知っておく必要があります。お互いの相互理解を深めることでビジネスもうまくいくと思います。そうした相互理解と信頼関係をを固める上で、歴史学は重要だと考えます。

歴史学は一見遠い昔のことを学んでいるようですが、具体的な事例を通じて、間接的に現代を生きていく上で役立つ学問あるいは教養として身につけてほしいと思います。

歴史を学ぶことは未来のことを予測する上でいい教訓である上に、国際的に人間関係を潤沢にするのに必要ということですね。

歴史を勉強することで、今我々が見ている時点がはっきりわかるし、これから10年後どのように世界が変わるかが、正確ではないにしろラフな方向性として予見が可能になっていきます。

そういう意味で、「過去と現在と未来の対話」を通じて歴史学は、現在私たちが直面している諸課題や未来を考える上で、非常に重要な題材として使うことができます。そういう意味で歴史は役に立つのです。

繰り返しになりますが、歴史学はダイレクトに結果が出るわけではありません。しかし、長い目で物事を幅広く俯瞰してながめることを通じて、将来を考える上で間接的に有益となるのです。

Q3 阪大生に求めるもの

物事を俯瞰して考えること以外に大学の学部生に求めることはなんですか

まず、外の世界(外国)に目を向けてほしいです。日本の大学はともすればどうしても内向きになりがちです。

日本の外に出てみることで、自分を客観視できるし、自分の同世代の人がどのような生活をしているのかがわかります。別の国の同年代の人たちがみんな勉強や仕事でものすごく頑張っていて、それなりに自分の人生を切り拓いているということは、日本国内だけを見ていたら分かりません。

そういうのを認識した上で、今後の自分の生き方を考えてほしいと思いますし、そのために外国を自分で訪れて、現地の状況を自分の目で確かめて、自分で考えてみるという経験が大事だと思います。

その経験を通じて、人から言われたことをそのまま鵜呑みにするのではなく、先生の言うことを批判的に考え、足らないところは自分で考える力をつけて欲しいです。

批判する力を身につけるために外に出て自分の知らない世界に足を踏み入れるべき、ということですか?

それと同時に図書館やメディアをフルに使って自分の知見を深めることも大事です。

現在の日本の若い人たちは、生まれた時から豊かな社会であるために、ハングリー精神や向上心が少ないのが問題だと思います。一念発起して、さまざまな情報を駆使して行動に移し、自分の意見を述べる、やる気になるのが大事だし、この恵まれた環境を活かして、それにチャレンジしない手はないと思いますが。

日本社会の悪いところになるのですが、周りに自然に合わせ、自己主張をしないことが美学、という雰囲気は変えないといけません。さまざまな研究会やセミナーでディスカッションをする際に自分の意見を積極的に言えないというのは、日本だけでなく東アジアに共通する問題だと思います。

他人に合わせるのが美徳とされている、自分をできるだけ隠す、という風潮を消し去る必要があると思いますし、そのためにも外の世界に目を向けることは大事です。

記事の終わりに

今回のインタビューを通じて

長い見通しを通じて物事を考え、他者の考えや背景を理解し、自分を俯瞰する力をつけるために、個々の歴史を相対化して考えるグローバルヒストリーは枢要であると感じました。2022年から高校の教育課程が新しくなり、新しく設置された「歴史総合」では日本史と世界史の相互関連性がより重視されましたが、社会科以外でもこのような広い視野に立つ能力をつけるきっかけをつける科目が増えればいいなと思いました。

そして、日本人のハングリー精神の少なさに関しては、自己肯定感の低さや自分の持つ能力や適性を知らないことにも関係があると思います。外に目を向け、さまざまな世界を知ることを通して、自身がどのような人でありたいか、真摯に考えることが向上心にもつながるので、秋田先生が仰る通り、外国に行って多くの事を知ることは、実社会に出る前にしておくべきこととして、とてもいいなと思いました。

最後になりますが、インタビューのお時間をいただいた秋田先生、ありがとうございました。


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