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こんにちは、大阪大学文学部の1年の前田琥珀です。今回は私がフランス語を教わっている渡辺貴規子先生にインタビューを行った内容をご紹介します。渡辺先生にインタビューした理由は、授業中の雑談で先生の学生時代のことを知り、詳しく話を聞きたいと思ったからです。



どんな研究をしていますか?

もともとは「フランスの児童文学」を研究していましたが、今は「フランスの児童文学とフランス文化を日本の児童文学がどのように受容したか」ということについても、研究しています。また、フランスの児童文学史や翻訳についての研究を行っています。大学院時代には、エクトール・マロの『家なき子』(注1)について研究し、「『家なき子』の原典と初期邦訳の文化社会的研究」という論文を書きました。最近は、たとえば、ジャンヌダルクの伝記が明治時代に子ども向けにどのように翻訳されていたのか、について研究しています。


(注1) エクトール・マロ『家なき子』・・・1878年に書かれた児童文学作品。少年レミが旅芸人のおじいさんに引き取られ、いろいろなところを旅し、たくさんの出会いを通して成長していく教養小説。フランスでは学校の教材として長年親しまれ、その後多くの言語に翻訳され世界中で愛され続けている。


研究分野に興味を持った経緯を教えてください

小さい時から本が好きだったというのは大きいと思います。私は京都大学の文学部に進学し、大学では児童文学を学ぶことを潜在的に思い浮かべていました。しかし、文学部には児童文学を扱った授業がなく、自分が勉強したいことと大学の授業は違う、ということに直面しました。その後、教職免許を取り、その過程で教育学部の授業も受ける中で、自分の学問のキーワードは子どもと文学である、ということを再確認しました。また、教育社会学者の稲垣恭子先生の授業で戦前の女学生文化・少女文化・少女雑誌の話を聞き、おもしろいと思ってやはり児童文学を研究したい、という思いが強くなったことはよく覚えています。


研究で大切にしていることは何ですか?

常に誠実であろうということは心がけています。文献の研究をしているので資料をよく読むのですが、思い込みや先入観を捨てて、書かれていることを曲げることなく、きちんと読むようにしています。丹念に準備し、集め、きちんと読むということは大事です。


研究の目標はありますか?

長期的な目標はあまり考えていないですね。今は明治、大正時代の日本の児童文学の中でフランス文化がどのように受容されていたか、という問いを追求することが目標です。先のことはあまり考えず、一生懸命、目の前のことをクリアしていくということを繰り返しています。


フランスのどんなところが好きですか?

私は学部2年生の時にフランス語に出会いました。最初の授業でフランス語の発音がとても綺麗だと思い、「これだ!」と思いました。フランス文学についていえば、人間の感情をありのままに書いているところが好きです。学部生時代、英文学をするかフランス文学をするか迷ったことがありましたが、自分の中で英文学はスマートなイメージがあり、波乱万丈で赤裸々な部分をありのままに書いているフランス文学の方が魅力的に思いました。特に、モーパッサンが好きで、鋭い人間観察をしていて、短編も多く読みやすいです。


先生の学生時代について教えてください

・フランス留学の日々

修士課程2年の夏に休学をして1年間フランスのアミアンに留学に行きました。ボランティア精神を持って活動するロータリー財団から奨学金を得たので行くことが出来ました。奨学金を得る代わりに国際親善奨学生としてフランスのロータリークラブでスピーチをしたり、日本の着物を着て会合に出席したりするという国際親善のお役目を務めました。初めての海外でしたが、現地に受け入れロータリークラブがあったため、安心して行くことができました。

大学ではフランス近現代文学の授業を取っていました。指導してくださった先生が19世紀後半の文学を研究しており、私が研究していたマロも19世紀の人物なので指導を受けられてよかったです。また、留学先ではもともと修道院だった建物を間借りして住んでいました。大家のおばあちゃんが留学生に寛大な人でとても助けられたり、台所とシャワーとトイレが共用だったためフランス語を話さざるを得ず、語学力がとても鍛えられたりといった、思い出がたくさんあります。私の他にもチェコ人の女の子やフランス人のインターン生や社会人も住んでおり、私が修論を書いた時フランス語の添削をしてくれたことが印象深いです。


・授業マニアだった京大での学生生活

阪大と比べると、当時の京大は自由で放ったらかしという感じでした。また、総合図書館の他に学部別の図書館があり、色々な図書館に行っていました。文学部の他に総合人間学部や教育学部の授業をたくさん聴講しました。授業がとても楽しく、当時は授業マニアだったかもしれません。


なぜ大学教員になったのですか

大学院まで進学すると教員になることを自然と選択肢に入れていたことと、単純に、研究を辞めたくなかったので研究者になりたい、と思ったことが決め手です。また、学生時代に良い先生に恵まれたため、大学で授業をすることに憧れを抱き、教員になることに抵抗はありませんでした。


大学教員の楽しいところは何ですか?

色んな学生に出会えることです。コロナ禍でオンライン授業を行っている時も画面越しから学生の個性を感じたのは印象深いです。また、フランス語の授業では伝えたいことがみんなに伝わった時や、みなさんの小テストの点数が良かった時などはとてもうれしいです。


教員になっていなかったら何をしていたと思いますか?

本が大好きなので本に携わる仕事をしていたと思います。図書館司書や学芸員をしていたかもしれないです。


学生のうちやっておくべきことはありますか?

本を沢山読むことですね。社会人になるとまとまった時間は取りづらくなります。通学の時間などを使って本を読むことはいいと思います。私も授業や研究に必要な本や、好きなフランス文学の作品などは電車で読んでいました。また、私は自由な校風で育ったのでやりたいことに垣根を設けず挑戦していました。サークルにも入っていなかったので、割とほかの学生より自由時間が多く、絵本や児童文化関係の展覧会に、遠方であっても、よく行っていました。近場でもいいので旅行に行ってみたりするのも良い経験だと思います。学問のためだけに使う時間は人生でなかなか無いので、大学生のうちに自分の興味に合わせて実現可能なことをする、というのが大切だと思います。


京大生時代の生活や留学のことについてのお話が特に印象に残っており、普段聞くことができないようなお話をたくさん聞くことができてよかったです。先生が考える学生のうちにやっておくべきことを踏まえて、充実した大学生活を送ることができるように自分の自由時間の使い方を考え直す良い機会になりました。

お忙しい中、インタビューを受けてくださった渡辺先生、本当にありがとうございました。


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