スウェーデンに出会って研究者になったお話

こんにちは、大阪大学法学部国際公共政策学科1年の佐藤明穂です。

日本が高齢社会に突入して25年以上経った今、高齢化は多くの人が関心のある社会問題なのではないかと思います。近年では、年金のことに加え、ヤングケアラーや老老介護なども問題として取り上げられるようになりました。そこで、高齢者介護や高齢社会を研究分野としている、大阪大学人間科学研究科の斉藤弥生先生にインタビューしました。

今回は先生の研究についてだけでなく、学生時代について、また、本授業(ポップカルチャーと情報社会)のトピックの一つでもあるオンライン授業についても伺っています。本記事では、その内容をご紹介します。

【質問一覧】
1.研究内容
2.研究を始めたきっかけ
3.研究をしていて幸せだと思うこと
4.研究で訪れた国の中で印象に残っている場所
5.研究者になっていなければどのような職業についていたと思うか
6.先生の学生時代について
7.学生のうちに身につけておくべきこと
8.オンライン授業の実施について
9.オンライン授業と対面授業の違い
10.これからしたいこと


 
ーまず、先生の研究内容のご紹介をお願いします。
私の研究分野は社会福祉学と社会学の領域です。主に高齢者介護と、高齢者介護を通じた高齢社会、それに伴う日本の社会の変容を研究しています。
その中には家族の役割がどう変わったのかとか、政府の役割がどう変わったのか、ボランティアはどうなったのか、市場の役割、ビジネスや市場はどうなっているのか。 一番大きいのは、福祉国家の役割を考えたとき、高齢社会の中で何ができて何ができないのか、というところが研究のテーマです。
 

ー研究を始めたきっかけを教えてください。
研究者になろうっていうのは、前は思っていなくって。研究を始めたきっかけとして、ちょうど私が大学生のときに男女雇用機会均等法という法律ができました。それまでの日本の社会は、男子何名女子何名という募集の仕方や、女子は今回採用しませんとか、他にも男子には宿泊や住宅手当を出すけれど、女子には出しません、などと雇用や求人広告で明らかに(男女で処遇が)違う時代だったんです。
 
でも、大学3年生のときに男女雇用機会均等法ができて、これからは男子何名女子何名という求人は禁止、職場の中での配置や採用について差別してはいけません、となって。努力義務で、禁止ではなかったんだけれど、これから日本の社会は大きく変わるんだなというふうに感じました。
 
大学時代に男女雇用機会均等法の勉強をして、いろんな婦人団体や女性団体や政党でその法律の政策などを聞いたりしました。その勉強を続けたいなって思う中で、日本はすごく性別役割分担が明確で、男性はこう、女性はこうって決まった社会なので、「ガラスの天井」という言葉もあるように、法律はできたけれど、女性が社会で活躍することは日本ではまだまだ難しいなっていうことも感じていました。
 
そうしている中で、テレビや本を通じてスウェーデンの社会に出会ったんです。スウェーデンの社会は男女平等な社会、共働きの社会として取り上げられていて、すごく魅力的に見えました。また、男女平等だけでなく、高齢者介護や障がい者福祉が充実しているということも、1980年代の中頃から報道されるようになりました。男女平等も進んでいるし、福祉も進んでいるって一体どんな国なんだろうって考え、スウェーデンで勉強したいと思ったのがきっかけです。

日本の社会では男女平等はなかなか実現しにくいけれど、スウェーデンから学んだことは、社会保障を充実させること、例えば育児休暇を充実させたり、介護を社会で担うとか保育所を充実させることにより、男性と女性が平等に働ける、あるいは平等に余暇を過ごせる、平等に家事を分担できる、そんな社会が実現できるんだ、ということです。スウェーデンの社会に出会ってそれを知り、出身は政治学部でしたが社会保障と社会福祉を勉強するようになりました。

 
ー研究をしていて幸せだと思うことは何ですか?
高齢者介護をテーマにしているんだけれど、介護っていうのは、人々の生活そのものなんですよね。それに国際比較研究をしているので日本はもちろんスウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランドなどの北欧の国々やドイツ、イギリス、アメリカというように、いろんな国に調査に行きます。そこでお年寄り、介護職員の人、研究者など、いろんな国のその分野に関わっている人たちと話をすることが一番楽しいです。今までの人生の中で研究者になってよかったなと思うところですね。
 
 
ーその中で印象に残っている国などはありますか?
やっぱり、私にとってはスウェーデンが一番私の人生を変えた国ですね。飛行機でわずか15時間ほどの距離のところなのに、こんなに物の見方や価値観が違う国があるんだなって思ったし、もし私がスウェーデンに生まれていたら今とは全然違う人生なんだろうなと思いますね。
 
 
ーでは、研究者になっていなければ、どのような職業に就いていたと思いますか?
私は次生まれ変わったら、スウェーデンで看護師か介護の仕事をしながら、自治体の議員になりたいなって思います。スウェーデンでは、福祉の現場で働く人や学校の先生が自治体議員になって、教育政策や福祉政策を自治体の中で話し合って作っていくという仕組みです。だから生まれ変わったら、スウェーデンに生まれて看護師か介護などソーシャルワーカーの仕事をしながら、政策に反映させられる仕事をしたいと思います。
 
でも、今の日本だったら、何やったかわかんないけど…(笑)
若いときは何をやってもいいな、と思っていたんですよね。研究者になろうと思うよりも、福祉を充実させたい、そして、その先に男女平等の社会をつくるための仕事をしたいと思っていました。そういう仕事をできるのであれば何かボランタリーな活動しながら、生活費は、食べる分だけ何とか稼げればいいと思ったし…特定の職業は思い浮かばないけれども、社会を良くするような仕事をしたいなとは思っていたし、していたんじゃないかなと思います。
 
 
続いて、学生時代についての質問に移ります。
 
ー先生の学生時代はどのようなものでしたか?
私は学習院大学の政治学科だったんだけど、早稲田、慶応、明治、法政等、東京のいくつかの大学でいろんな政策に対するディベートを行う政治学ゼミに入っていました。「男女雇用機会均等法の是非」っていうテーマで早稲田大学とディベートをするとか、大学対抗のディベート大会を一生懸命やっていました。
 
男女雇用機会均等法もその時に勉強するようになったんだけれども、割とそれに明け暮れていたかもしれませんね。そのために一緒に学部のゼミのみんなで集まって休み時間に勉強会したり、授業が空いているときに、東京だからいろんな政党の事務所や、婦人団体・女性団体の事務所があったので話を聞きに行ったり。学生を快く受け入れてくれたので、そういうところで話を聞いてみんなで資料作ったりして大学対抗ディベートに臨んでいましたね。
 
もちろん勉強ばっかりしていたわけじゃなくて、私はスキーが好きだったんです。今はスノーボードだったりとかいろいろ違うけど…スキーに行くために一生懸命アルバイトしてお金貯めたりとか、そんな感じですかね。


ーでは、学生のうちにやっておくべきことや身につけておくべきことは何だと思いますか?
やっぱり私は機会があれば、大学時代に外国に行ってみてほしいと思います。お金がかかるけど、今いろんな安いチケットがあって、アルバイトすれば決して無理なことではないので。そうやって日本を離れて外国で少し生活するっていう経験してほしいなと思うんですね。というのは、さっきも言いましたように、日本にいると当たり前って思っていたことで、ジェンダーの話でもそうだけど、よその国には全く違う価値観を持っている人たちがいて、全く違う文化やしくみがあるんですよね。それに気が付けるのが大学の頃なんじゃないかな、大学時代なんじゃないかなって気がします。

 昔は、学年に1人か2人、優秀だったりお家がお金持ちだったりとか、すごく特別な人しか留学したり外国に行くことは難しくて…せいぜい卒業旅行でヨーロッパ2週間行きましょうぐらいの話だったんだけど、今は様々な機会もあるし、サマーコースや留学の機会を大阪大学でもたくさん用意しているので、英語を一生懸命勉強して、そのような機会を生かして自分や日本とは違う価値観、何か感じてほしいなって気がします。それって一生の財産になると思うし、将来自分が様々な困難にあったときにいろんな考え方、いろんな発想ができることに繋がるんじゃないかなって思います。


最後に、オンライン授業についてです。 
ーコロナ禍ではオンライン授業を実施、担当されていましたか?
担当していました。CLE(大阪大学のwebを利用した学習支援システム)なんか全然使ったことなかったんだけど…2020年の春でしたよね。とにかくコロナで大学にみんな来られないから、オンラインで授業しなきゃいけないっていうことで、大学の方でもいっぱい研修などをやってくれたんです。CLEの使い方とかを受けに行ってなんとか頑張ってやりました。
うまくいったかどうかは疑問だけれども、とにかくやらなきゃいけないっていうことに迫られてやりましたね。専門科目も、ゼミもオンラインでやっていました。コロナ禍はもう全部オンラインでしたね。だけど、割と早い段階で対面に切り替えてできたというところはあります。

ーオンライン授業と、対面授業の違いはありますか?
ありますね、やっぱり。オンラインで授業していると、他の先生も言っていると思うけど、真っ黒でみんな名前しか出てない画面に向かって喋らなきゃいけないでしょ。だから私が言っていることが相手に伝わっているのかどうかっていうのがわからないんです。対面の授業だったら、眠そうな学生さんがいたら私の話が面白くないんだなと思うし、すごく一生懸命聞いてくれたらみんな関心あるんだなっていうのがわかるし、授業が双方向になって話していて楽しいけど、オンラインになってどうしても一方通行になってしまう感じがします。もうちょっと技術を上手く駆使すれば双方向にできるのかもしれないけど…。
 
それと、ノンバーバルコミュニケーションとも言うけれども、その人が発信している情報っていうのは決して言葉だけじゃなくて、熱意だったり、空気感があるんじゃないかと思うんだけど、そういうものがオンラインだとなかなか伝わりにくくって。特に、私が授業をしているテーマっていうのは、人間科学部で人を扱うもの、特に福祉のことを扱っているわけですよね。だから、伝えたいし、共感してほしいという思いがあるから、やっぱり実際に顔合わせて授業するのが楽しいなって思います。
 
でもね、自分としてはオンラインで授業ができる技術を持っておくことは、ある意味可能性は広がりますよね。例えば、さっき海外とのコンタクトって大事だと言ったけれど、海外研修に行っているときに現地から皆さんに情報を伝えることもできるし、いろんな可能性があります。実際、スウェーデンやドイツの先生と繋いでオンライン授業をしました。そんなことコロナの前はやったことなかったですから。でも、個人的にはやっぱり対面が好きですね。

 
 ー最後の質問になります。先生がこれからしたいことを教えてください。
これからしたいこと、ですか?そうですねぇ。
今ね、私は協同組合の研究をしているんです。協同組合って100年以上の歴史があって、人々がみんなでお金を出し合って、例えば大学生協だったら学生さんも含めて教員も出資をして、退会するときは戻ってくるけど。学生が本を少しでも安く買えるようにとか、栄養がある食事が取れるようにってみんなで力を合わせてやってね。そういうふうに、(協同組合は)人々が力を合わせて、社会の問題を解決していく一つの形かなって思っています。
 
今、高齢者の分野で協同組合ができたり、子供の学習支援を協同組合でやっていたりとか。NPOもそうですけどね。そういう市民活動をどうやって福祉の領域で-福祉っていうと、国がやる、政府がやるっていう考え方が強いけれど、市民のアイディアとか、市民のやる気とか、そういったものを-いかに福祉の領域に取り込んで、さらに質の高いものができないだろうか、っていう研究を定年まであと5、6年なので、やりたいなと思っています。それで退職した後は、そのような活動を体が動く限りやりたいです。

 
インタビューを終えて
インタビューでは斉藤先生の研究や授業に対する熱意が伝わり、とても楽しい時間となりました。また、先生の人生を変えたスウェーデンが一体どんな国なのかが気になり、いつか必ず行ってみたいと思いました。

最後になりましたが、お忙しい中インタビューを引き受けてくださった斉藤先生、本当にありがとうございました。

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