DeNA WELQ問題と「生きるということ」(E・フロム)

DeNAが発表した第三者委員会調査報告書を読みました。

WELQ問題の発端は「人生に疲れたな、と思ったとき。自分の深層心理と7つの対処法」と題する記事(以下「死にたい」記事)に人材派遣関連のウェブサイトのアフィリエイト広告が掲載されていて、不適切だと指摘を受けたことです。

第三者委員会報告書には、その問題の記事にアフィリエイトが出た経緯について説明しています。

メディア統括部コンテンツマーケティンググループのGGG氏は、「死にたい」記事にアフィリエイト広告を掲載することの可否について、事前にK氏に相談したと述べているが、K氏はGGG氏からそのような相談を受けたことはないと述べている。K氏は、「死にたい」記事が世に出た背景に、SEO施策を過度に意識した記事作成方針があったこと自体は否定しないものの、「死にたい」というセンシティブな心理状態を扱う以上、メンタルヘルス領域の記事の執筆を得意としているクラウド執筆ライターに執筆を依頼し、K氏自身がその内容を確認した上で、悩みを抱えている人に向けて真摯な思いで発信した記事であり、記事の内容に問題はないと考えている旨述べている。

この報告書を読んで、資本主義の上でどの企業でも簡単に陥ってしまう問題だなと感じました。

E・フロム著「生きるということ」という本の中で、人間には「持つこと」と「あること」という様式があると言っています。

「持つこと」とは、私有財産の性質(法を犯さない限り、私の権利は無制限であり、絶対的である)に由来した存在様式です。

「あること」とは、言葉では記述不可能だが、前提条件として、独立、自由、批判的理性の存在があり、自己中心性と利己心を捨てることを要求します。また、内的衝動に駆られて、能動的であるという能力を含意しているそうです。

僕は、ざっくりと「自分らしくいられて、生産的で利他的に働けている状態」という理解をしています。

フロムはこの資本主義社会ではみんな「持つこと」へ偏ってしまうが、それを捨てて、「あること」へ集中する方が幸せだ、と説くのです。

資本主義の宿命において、事業拡大と倫理性のバランスを保つ解決策は、
誰もが目指したいと思うビジョンを示すことかなと。そのビジョンを実現するために一生懸命働き、結果として利益を出すという会社を作ることです。(「持つこと」と「あること」の統合)

戦国時代の戦争も明治維新で起こした戦争も全てこの大義が大切でした。大義を無くした戦争は兵の士気を落とし、負け、良くても引き分けになりました。大義・士気というものは、持っているスキルやお金よりも大きな武器になるのです。

しかし、会社の中で「持つこと」と「あること」のバランスを取ることは非常に難しい。毎日の業務の中で日々そのバランスの選択を迫られます。その中で上司からの指示があまりに「持つこと」に集中し、かつコミュニケーションも希薄だと、社員は自分がしている仕事への社会的価値を感じることも誇りを持つこともなく、ただ数字を追うようになるでしょう。

設立17年の永久ベンチャーを標榜しているDeNAですら、バランスを取ることが難しいのですから、いわんやそれ以上に歴史と規模のある会社においてをや、ですね。

黄金時代を築いた家電メーカーがまた一社、また一社と倒れていくのも「持つこと」へ傾倒した結果だと思います。

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