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MILGRAM アマネ第二審文字起こし

エス
囚人番号8番アマネ。尋問の時間だ。久々に話をしよう。
アマネ
看守よ。
エス
なんだ囚人。
アマネ
お前には失望した。
エス
はあ。
アマネ
私たちの求める新世界の可能性をこのミルグラムに、 そしてお前に感じていたというのに。
エス
どこまでも上から目線で。結構なことだな。僕は思い上がるなと言ったはずだが。
アマネ
あまつさえ私たちを赦さないなどと意味不明なことをのたまうとは。
エス
はぁ?
アマネ
だが、私たちは寛大である。今一度、看守と対話の時間を設けるとしよう。 私たちの歴史とは、対話によって作られた歴史なのだから。
エス
おい、話を聞け。
アマネ
なんだ。
エス
アマネ。その変わり果てた態度をスルーして話を進められると思うな。お前がそうなったのは 審判の結果か?
アマネ
「そう」…とは?
エス
うつろなまとう雰囲気、喋り方。一審の時とはまるで別人だ。赦されないものは皆、自分の罪を責める声を聞いたという。そういった精神のストレスを受けてる。 お前の変化もその影響か。
アマネ
はあ…あのくだらない声か。ああ、確かに聞こえていた。だが、 そんなものは大した問題ではない。
私達には確固たる教えがある。明確で確固な信仰がある。外部から何をとやかく言われようと、揺さぶられることはない。
エス
信仰。お前の信じる宗教ということだな。
アマネ
うむ。ミルグラムの持つ力自体は真実のようだな。お前も覗き見たか。 私たちの信仰を。
エス
ああ。かなり抽象表現ではあったがな。お前の人殺しは宗教…信仰によるものだと判断した。
アマネ
人殺しではない。教義に乗っ取り、罰を与えたに過ぎない。
エス
だから罪ではないと。
アマネ
信仰は罪か。
エス
信仰…それ自体は自由だ。僕は無宗教だが、宗教によって救われる者もいることは理解している。
アマネ
そうか。許されざる囚人たちは惑っているのか。 彼らにも私たちの信仰が必要なのかもしれない。
エス
監獄内の布教は勘弁してもらいたいが?
アマネ
信仰は自由だ。迷えるもののために存在するのが信仰だ。
エス
…。話がそれた。んで、今のお前は一体なんなんだ。先ほどから 私たちというが、お前は百瀬遍ではないというのか。
アマネ
今は百瀬遍であって百瀬遍でない。私は 私達の信仰の代弁者だ。私たちを赦さないとお前が謝った判断をしたことで、 対話と警告の必要性があると考えて、私は私たちとして喋っている。
エス
つまり、僕は今、お前の宗教自体と、概念と話しているということか。
アマネ
そう思ってもらっても構わない
エス
はぁ。
アマネ
では、改めて警告をしよう。看守。ミルグラムは私たちを 赦さないという判断をしたな。
エス
ああ、そうだ。
アマネ
先ほども言った通り、私たちの行いは教義上の行いであり、罪には当たらない。故にミルグラムは間違っている。
エス
人は殺しているな。
アマネ
教義上。
エス
法律を犯していることは理解しているな。
アマネ
前も言った通り、法律よりも大事なことがある。それが教義だ。
エス
そのような勝手なルールを基準にすることは認められない。故に赦さない。以上だ。
宗教も信仰も自由だ。だが、教義とやらは全体の罪の基準にはならない。
アマネ
愚かな…法律ではこの世を正しく導くことができないからこそ、新たな基準を敷こうとしているのがミルグラムではないのか。まだ法律に縛られているのか。
エス
ただの看守の僕にミルグラムの理念は知るよしもないもの。法律違反だからではない。 ミルグラムとしてお前の人殺しは許されない。僕がそう判断しただけだ。 ミルグラムはお前の教義を否定する。
アマネ
考えを改めなければ、私達も永劫、お前を赦すことはできない。
エス
ふふ…
アマネ
何がおかしい。
エス
何が私達だ。笑わせる。お前がやっているのはただの人殺しだ。 全体の話として語ろうが、確固な理念のように歌おうが人殺しだ。 理解しろ、百瀬遍。殺したのはお前たちではない。お前だ。ごっこ遊びで己の行いから目をそらすな。
アマネ
侮辱したな。私たちを。神を!
エス
だったらどうする?
アマネ
赦さない。私がお前を赦さない!
エス
看守への攻撃は無駄だと言っている。
アマネ
赦さない!…赦さない!!
エス
そのハサミは配給で手に入れたか。人に向けてはならないと教わらなかったか?
アマネ
教義に照らせば、看守の私たちへの侮辱は十分に罰則の対象だ!…赦さない!赦さない!!
エス
まぁ、無駄だからそのまま聞いていてもいいぞ。
アマネ
赦さない!赦さない!!
エス
囚人から看守への攻撃はできない。ミルグラムの原則だが、ある多重人格者はこのルールをすり抜けた。
アマネ
赦さない、赦さない…
エス
つまり、ミルグラムの囚人判定は肉体ではなく精神を対象にして、精神が別物であれば そのルールは適用されないということだ。欠陥ルールで困っているんだがな。
アマネ
殺してやる…殺してやる!
エス
だが、その欠陥ルールのおかげでこうして証明されたな。今ハサミを振るっているお前は 神でも概念でもない。百瀬遍そのものだ。 文字通り、お前のはただのごっこ遊びだ。くだらない。これがお前の望んだミルグラムとの真っ向勝負だ。
アマネ
…黙れ。
エス
どうした。 やはり子供扱いしてほしくなったか。
アマネ
黙れ!
エス
実際、僕が思うに、お前が子供であるということは このことと大いに関係している。何を主張しようと、いかに大人びていようとお前は子供だ。それは変えようのない事実だ。
アマネ
お前も子供だ。
エス
いいや、僕は15歳だから、プエルトリコとハイチでは成人だ。お前は12歳だから どの国でも子供だ。…イラついた顔をしたな。
アマネ
していない
エス
したね。
アマネ
していない。
エス
まぁどっちでもいい。なぜそもそも法律で子供が減刑されるかというと、 大きく2点だ。更生の可能性と環境の影響によるものだと思う。今回の場合は主に後者だ。前も言ったな。幼少期は親の教育の影響が強く、生育環境がそのものに与える影響は絶大だと。宗教を信仰する過程で生まれた子供は、 それが世界のルールであると認識して育つ。
アマネ
何が言いたい。
エス
いわゆる宗教二世というものだな。教義が世界の全てであるように感じている。 以前、年齢故に未発達であるということについてお前は反論していた。たしかにその通りだった。 確かに自我は発達しきっていたのだろう。だが、その自我は、社会と確実した特殊な環境で育てられた自我だ。だからこそ、これをお前の罪であるかどうか、 両親の環境の罪なのではないかという議論は確かに僕たちの中でもあったな。だが、 ここは先ほど言った更正の可能性を判断し…
アマネ
僕たち。僕たち…とはなんですか。僕ではないのですか。
アマネ
エス
あ、僕…
アマネ
一緒じゃないですか。私と看守さん。あのね、分かっていますよ。私が特殊なことくらい。
私の環境が特別で、皆さんが普通なことくらい。
エス
アマネ…
アマネ
実際に言ってきた人もいます。お前は騙されているとか、今ならまだ間に合うとか、頭がおかしいと言われることもあります。やっぱり子供扱いしているんですよ。子供だから洗脳されていると思っているんですよ。そんなことない。 私だって…子供だって、全部わかっています。人を不幸だと決めつけないでください。 私は両親の元に生まれて幸せです。少し難しくてたまに窮屈になることもあるけれど、綺麗な教えのもとで生きられて幸せです。私はそう生きたいんです。
エス
…そうか。
アマネ
あなたたちは、それが洗脳だというのでしょう?私からすれば、あなたたちだって一般的な価値観という宗教に洗脳されています。 どうして人が多いというだけで、それを妄信できるのでしょうか。
エス
言い分はわかった。
アマネ
数が少ないというだけで社会として認められてこなかった私たちが、ミルグラムという新世界の可能性に夢を見るのは当然の流れです。
エス
ああ、よくわかった。だが、お前たちの教義は認められない。 殺しを肯定するような教義は、僕の基準では赦されない。
アマネ
わかりました。
エス
だが、ミルグラムは三審制だ。今一度お前の心象を見て、聴く…次はもっと深い場所まで、そこで何かを感じたら、それはきちんと受け止めるつもりだ。
アマネ
真っ向勝負というやつですね。
エス
ああ、そうだな。
アマネ
もし結果的に私を、私たちを否定し、赦さないというのであれば、 その時は私は、あなたを赦しません。
エス
あぁ。
アマネ
…ああ…いいえ。違いますね。あなたたちを赦しません。
エス
…なっ!
 
(荘厳な鐘の音)
 
アマネ
ごっこ遊びで己の行いから目をそらすな、こっちのセリフです。看守さん。あなただけではない。
あなたたちです。あなたたちを赦さないと言ったんです。真っ向勝負です。あなたたちが手を汚さないことなど、赦されない。
エス
…くっ…何を言っているんだ、お前は。
アマネ
なんでしょうね…看守さんが僕たちとおっしゃるもので。
エス
あっ!(倒れる音)…頭が…割れる…!
アマネ
頭痛ですか。大丈夫ですか。感謝さん。自分で立ち上がってくださいね。 それは神が与えた試練なのですよ。
エス
くっ…はぁ…はぁ…
アマネ
痛みも病も試練です。そこから逃げるものは、私たちの教義では1番の悪となります。
4つの大原則のうちの一つですね。それがどんな人間であっても赦されません。
エス
何を…!
アマネ
…あぁ…そういえばいますね。囚人の中に、人から試練を奪おうとする悪魔のような存在が。
エス
…!
アマネ
桐埼獅童。彼の行いは私たちの禁忌に触れている。警告はした。 続けるようであれば、私が手を下さねばならないだろう。…もしかしてもう手遅れか。
エス
黙れ!(殴る音)
アマネ
ぐっ!
エス
調子に乗りやがって。
アマネ
一方的に暴力を振るえるなんてずるいですね。
エス
うるさい。ここでは僕がルールだ。
アマネ
それは私たちと何が違うというのでしょうか。
エス
…黙れと言ったぞ。僕の言うことを聞け!
アマネ
…良いですね…あなたの作る世界が私にとって魅力的であれば。あるいは…。
エス
囚人番号8番アマネ、お前の罪を、歌え。

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