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MILGRAM フウタ第二審ボイスドラマ文字起こし

フウタ
だいぶ待ったぜ。看守。
エス
フウタ…お前…大丈夫か。その、痛むか?
フウタ
なんだ。この傷が気になるかよ。ひでえだろ。
エス
ああ。
フウタ
今も全身痛くてたまらねえよ。 頭がおかしくなりそうだ。…カズイのおっさんがいなかったら、こんなもんじゃ済まなかった。 暴力に訴えるなんて最悪だよな。
エス
ああ…暴力での解決は唾棄すべきだ。
フウタ
そうかよ。
エス
それは。コトコが負わせたものなんだな。
フウタ
…はっ…しらじらしいんだよ。お前があいつにやらせたことだろうが。
エス
いや、それは。
フウタ
満足か。お前は俺を赦さないと決めたんだもんな。ハハハ…わっかりやすい罰がくだって満足かよ。
エス
それは違う。僕は、このような罰を望んではいない。コトコにも指示していない。 暴力による罰など、
フウタ
ふぅん。
エス
こんなことになるなんて思ってなかった。
フウタ
ハハハ…
エス
何がおかしい。
フウタ
よく言うぜ。お前は望んだんだよ。これを。俺のこの姿を。
エス
違う。僕は、お前たちがなぜ人殺しとなったのか、そしてどう判断すべきなのか、それを求めているだけで
フウタ
おい見ろよ。俺の右目。ひでえだろ。あの安全靴みてえなんで蹴られたらこうなんだぜ。
引くんじゃねえよ。傷つくぜ。シドウが言うには、もう視力が戻らない可能性が高いらしい。
やってらんねえな。
エス
そんなつも…
フウタ
そんなつもりじゃなかった、ね。ただな、この痛みのおかげで俺はようやくわかったぜ。ミルグラムのことが。
エス
なんだと。
フウタ
なあ、お前はコトコの奴を赦したんだろ。支持したんだよな。悪い奴には何してもいいって、 あいつの思想を。
エス
…なぜそれを…
フウタ
ボコられながら伝わったよ。あいつは、悪人には何してもいいと思ってる、罪の大小関係なくな。 その判断基準をお前に任せたんだ。その気持ちを赦したんだよ。お前は。
エス
そういう側面があると感じたのは事実だ。巨悪に対する正義として立ち向かうことは必要な時もあると。
フウタ
…はっ、お前の判断通りに、ミルグラムは形を変えた。お前の望む善悪の基準は、世界は、これってことだな。
エス
そんなことは…ない…
フウタ
俺を赦さず、コトコを赦すって、そういうことだろ。お前が望んだ結果だろうが。笑ってんだろ。今も 俺のこのざまを、見て。
エス
違う。僕は
フウタ
こんなことになるなんて思わなかった…だろ?
エス
あ、ああ。
フウタ
分かるよ…分かる…それは。
エス
フウタ。
フウタ
なのに…なんで。ああぁ…(声にならない呻き)俺だって。俺だってそうだったんだ。あんなことになるなんて思ってなかった。
エス
フウタ…
フウタ
俺だって一緒なのに。なのにお前は俺を赦さなかったじゃねーか。 俺がやったことってなんだ。ただ悪いことを悪いと言っただけだろ。ただ悪いやつをネットで叩いただけだ。ここまでされるようなことか?!お前みたいに暴力振るってねぇだろ!
エス
だが、ミルグラムはお前を人殺しだと判断している。
フウタ
!てっめぇ!!…ぐっ…いってぇ…。そいつは死んだみたいだ。確かにな。
エス
では、お前がしたことはネットで叩いた「だけ」にはならない。人殺しだ。
フウタ
でも、俺が知ってるのは死んだっつう結果だけだ。俺の行為と関係あるかなんてわかんねえだろ。
エス
ミルグラムがそう判断を。
フウタ
知らねぇんだよそんなの!!
エス
落ち着け、フウタ。体に障る。
フウタ
…そうだ。死んだ奴を叩いてたのは俺だけじゃねえ。どいつのコメントで死んだかなんてわかりゃしねえだろうが。
エス
それはそうかもしれない。裁かれるべきはお前だけではないのかもしれない。だが、
フウタ
じゃあ!俺だけがこんな思いしてんのおかしいじゃねえか。わけのわからねえ監獄でガキにあうだこうだ言われて 死ぬような目にあわされて。…はっ…仮に…仮にだ。俺がネットで叩いたから人が死んじまったとして、だ。死ぬなんて思わなかったんだ。 ただ、悪いことを悪いと、罪を罪だと思っただけなんだよ。分かるだろ…?!お前と一緒じゃねえか。
エス
僕とお前が、一緒…?お前を物理的に傷つけるとは思わずに、お前を赦さないと決めた僕を…相手が死ぬと思わずに殺したお前と一緒だと言いたいのか。
フウタ
そうだよ。何がちげぇんだよ。マヒルだって死にかけてる。あれでマヒルが死んじまったら一緒だろ。
エス
…バカにするなよ。
フウタ
はぁ…?
エス
僕は見たぞ。お前がゲームのように自分の行いを楽しんでいる様を。 大勢を先導し、一方的に蹂躙する様を。それを僕と同じだと。
フウタ
…?!
エス
ふざけるな。僕はミルグラムの看守だ。お前たちの罪を判断する者!お前やマヒルだけではない。囚人10人全員、命懸けで向き合ってきた。人の罪を娯楽のように扱う、お前と一緒にしてくれるなっ!
フウタ
ハハ…ハハハハハハ…。ハハハハ…馬鹿だろお前!!
エス
何?
フウタ
どんな上等なもんだと思ってんだ、自分のことを。その立派な帽子と服は随分いい気にさせてくれるらしいな。
エス
言葉に気をつけろよ。囚人番号3番。
フウタ
真剣に向き合った?!本当か?お前の中に、俺の罪を、俺への罰を楽しむ気持ちがなかったか。
エス
何を。
フウタ
あのな、お前の声は俺にも聞こえてきたんだよ。ずっとな、聞きたくもねえ声が。耳を塞いでも、ずっと、頭ん中で!何万人もの声が、 いろんな言葉で俺を責め立ててた。興味本位で、面白半分で、気に入らねえからって。 全部が全部、お前の言うお行儀のいいもんじゃなかった。別に俺と変わんなかったぜ。
エス
ユノも…聞いたと言っていた、無数の声。
フウタ
ハハハ…お前と俺はなんも変わんねーよ。俺の、俺たちの罪を面白がって楽しんでやがる。
エス
僕は、お前たちのことを強く知りたいと思っただけで、
フウタ
ハハハハハハ…!!俺とお前は同類だよ。違いは着てる服だけだ。そんな奴に俺を赦すだの、赦さないだの決められてたまっかよ!
エス
…フウタ。
フウタ
俺を赦さないんだよな。じゃあお前はお前のことも赦すなよ。
エス
フウタ!!
フウタ
んだよ?!
エス
お前の言うことはよくわかった。僕とお前が同類だとしよう。それでも。それでも僕は看守だ。
フウタ
はぁ?!
エス
何を言われようと、僕は自分の仕事を辞めない。たとえ自分を棚にあげることになっても僕はお前の罪を判断する。
フウタ
…っ。
エス
いかなるそしりを受けようと、自分の責任を自分で取る。僕が始めたことだ。
フウタ
…!…。…ああ、そうかよ。
エス
お、おい、大丈夫か。ふうた。
フウタ
何言っても無駄だな。お前には。
エス
どうした急に…しおらしく。
フウタ
なぁ。エス、聞いてくれ。俺はもう嫌だ。限界だ…耐えられない。俺が誰かを叩いて人が死んだとしてさ。そのことをお前が叩いてさ。これで俺が死にでもしたらまた続くぜ。これ。
エス
フウタ。
フウタ
なぁ。俺はもうお前にされたことを赦すからさ。俺はこの痛みを受け入れるからさ。だからっ…もう…赦してくれよ。頼むよ。痛くて痛くて死ぬかと思ったんだ。怖かったんだ。
エス
ああ。
フウタ
何万人に絶えず責められる気持ちも最悪なんだ。世界中が俺をずっと見ている気がして眠れないんだ。 痛いのも辛いのも嫌なんだよ。頼むよ。悪かったよ。エス!!
エス
…。…フウタ。僕はお前たちが憎いわけではない。
フウタ
…あ…
エス
長い時間をかけてお前たちに向き合ってきた。心の中に触れてきた。お前らが人殺しであろうとも、 もう他人ではない。その愛着は簡単に切り離せるものではない。
フウタ
!…そ、そうだよな!
エス
傷ついたお前を見て、自分の行いを後悔する気持ちもある。僕の判断はお前たちをさらに歪めてしまったのかもしれないと思う迷いもある。
フウタ
…ああ。
エス
それに。それにだ。 正直に言うと、お前たちを友のように思う気持ちもあるんだよ。
フウタ
…エス!
エス
…残念だよ。

(荘厳な鐘の音)

エス
僕は…看守だ。
フウタ
えっ?
エス
自分の身に起きた苦しみから逃れる気持ちで 口にした懺悔を真に受けることはできない。
フウタ
…んなこと!
エス
そもそもお前の今苦しんでいる姿と行ってしまった罪と関連性があるかも決めかねる。
フウタ
あっ…あ…
エス
いまだ自分が殺した人間に対して…謝罪の言葉がないことも勿論考慮せねばならない。
フウタ
…あっ!!
エス
過去の行いを僕に謝られても知らないよ。
フウタ
ああぁ、ぐぁ…!違う!違うんだ!!
エス
ありがとうフウタ。覚悟が必要だということがわかったよ。
フウタ

エス
看守は…僕は…泣いてすがる友の罪すら遠慮なく裁かねばならないということだ。…以上、尋問は終了だ。
フウタ
エス!…エスーーー!!てんめぇ!殺してやるうぅうううう!!
エス
…はっ。
フウタ
聞いてんのか。てめぇ!俺を赦せ。赦さなきゃ殺してやるからなぁあああああ!!
エス
大丈夫。本当に僕とお前が同類だというのなら、いずれ僕はそうなるんだろうさ。
囚人番号3番フウタ。お前の罪を歌え。


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