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MILGRAM ミコト第二審ボイスドラマ文字起こし

エス
お前、ミコト…だよな。
ミコト

え。何言ってんの…?…なんか久しぶりな気がするなー…元気してた?

…あれ。なんだ?…鎖?!嫌だなっ外してよ!!
エス
却下。お前は危険すぎる。物理的な拘束は必須だ。
ミコト
あ、え…と…こんな、人畜無害な人を捕まえて何言ってんの。
エス
やはり自覚がないんだな。
ミコト
いや…さ、さすがにわかるよ…僕は、寝てる間に暴れちゃうんでしょ?
みんなが教えてくれた。コトちゃんとドンパチやらかしたとかさ…
エス
そうらしいな。
ミコト
夢遊病的な、そういうやつなのかな…最近眠くなる頻度も高くなっちゃって。
いやぁ…ははっ…困っちゃうよね。
エス
ミコト…
ミコト
みんな僕を怖がってる。態度見たらわかるんだ。空気読めちゃうから、僕。
嫌になっちゃうよね。あはは…ここに来てからずっと…わけわかんないよ…
エス
…お前は本当に苦しい時に笑うんだな。 怒ったり叫んだりしないんだ。困ったように笑う。
ミコト
あー…あ、いや、そうだね。僕、そういうとこあるかもね。
大抵、笑ってごまかしてりゃうまくいくじゃん。そういうとこ器用だからさ…それなりにこなしてさ。
エス
…そうか。
ミコト
…ふふっ…でも、終わらないんだよね、ここじゃ。身に覚えのないことでずっ…
ミコト(ジョン)
ずっとイラつく思いをしなきゃならねえ。
エス
…出たな。
ミコト(ジョン)
おお、まだボコられたりねえみてえじゃん、看守のガキ
エス
…?!…。
ミコト(ジョン)
あ。ビビってんのかよ。
エス
コトコにやられたくせに。
ミコト(ジョン)
はっ…ありゃ、不意をつかれただけだ。お前が寝てる間にやりあったが、別に負けてねえ。
エス
多重人格。今喋っているお前はミコトの別人格という理解でいいか。
ミコト(ジョン)
まあ、そうなんじゃねえか。
エス
そうか。お前のことはなんと呼べばいい?
ミコト(ジョン)
ん?ずいぶん普通に受け入れるじゃねえか。多重人格なんて眉唾もんだろ。
エス
ああ。僕もそんなものが実際にあるとは思わなかった。
ミコト(ジョン)
だよな。俺もそれが俺でなきゃ信じねえよ。人殺しが罪を逃れるための嘘だとしか思わねえ。
エス
だが、ミルグラムがお前をそうだと認めている。僕は事実として受け入れ、考えを進めるだけだ。 で、なんと呼べばいいんだ。名前。
ミコト(ジョン)
知らねえよそんなの。好きに呼べよ。
エス
うむ…お前を便宜上ジョンと呼ぶ。
ミコト(ジョン)
犬みたいな名前だな。
エス
身元不明の人物を指すジョンドゥから来ている。気に入ったか。
ミコト(ジョン)
知識ひけらかしてるみたいでいけすかねぇ。
エス
しかし、今日は随分と落ち着いている方じゃないか。僕はお前を怪物みたいなものだと思っていたぞ。ここまで話が通じると思わなかった。
ミコト(ジョン)
調子乗んじゃねえ!この鎖さえなかったら今頃顔面潰れてんぞガキ。
エス
おぉ怖い怖い。
ミコト(ジョン)
ふんっ…
エス
ジョン、お前はミルグラムの囚人ではない。ミルグラムの拘束が効果を発揮しないのが何よりの証拠だ。ミルグラムはミコトを囚人と判定し、 別の人格であるお前は例外となっている。
ミコト(ジョン)
あー、なるほどね。それでお前の中で多重人格が確定してるわけか。
エス
だから今日はお前を重要参考人として話を聞ければと考えた。まともに話ができそうで何よりだ。
ミコト(ジョン)
…だけどな…これはいいことじゃねえぞ。多分。
エス
…どういうことだ。
ミコト「僕」が消えようとしているかもしれない。
エス
…!
ミコト(ジョン)
明らかに俺が表に出てる時間が長くなってる。 そのおかげで俺という存在が安定してきてる。ちゃんと話せるのはそのせいじゃないか?俺が怪物のままの方が良かったかもしれねえな…おい、なんだよ。
エス
思いのほかお前が理知的な物言いをするもので驚いている。
ミコト(ジョン)
大卒だからな。…多重人格はなぜ生まれるとされてるんだ?
エス
正確には解離性同一性障害という。一般的には苦痛やストレス、 トラウマなどから自分を守るためにもう1つの人格を生み、切り離しを図るとされているな
ミコト(ジョン)
うん…多分、俺は「僕」の受けたストレスを解消するために出てきてる。俺が長く出てるってことは、それだけ「僕」が強いストレスを受け続けているわけだ。
エス
ストレス…ミルグラムの環境のことだな。
ミコト(ジョン)
ああ。特に赦さないという判決にな。「僕」は多大なストレスを感じている。だから俺に預けるんだ。心を。
エスなるほどな。
ミコト(ジョン)
無理もねぇ…本人からすりゃ、自分に記憶のない罪で責められてんだ。
エス
それが真実なら、実際に人殺しをしたのはお前か。
ミコト(ジョン)
ああ。俺だ。俺がぶっ殺した。だから本当に「僕」はやってねえんだ。
エス
なぜ殺したか…聞いていいか?
ミコト(ジョン)
むしゃくしゃして。
エス
誰を殺した。
ミコト(ジョン)
そこら辺歩いてたやつ。
エス
…何人殺した。
ミコト(ジョン)
記憶にねえ。俺はその時初めて生まれたもんでな。曖昧だ。
エス
…よくも悪びれずに言えたものだ。
ミコト(ジョン)
…法律で言うと「僕」はどうなる?
エス
精神鑑定で減刑される可能性もあるだろうが、殺した人数によっては、死刑は免れない。
ミコト(ジョン)
…っ!!いや、やったのは俺だ。「僕」は寝ていただけだ。
エス
そんな都合よく行くものか。
ミコト(ジョン)
「僕」の身にもなってやれよ!「僕」はただストレスに耐えていただけなんだぜ!1人でじっと耐えていたんだ。爆発するまで!誰かを傷つけようなんて考えてなかったんだよ。
そういうことができないやつなんだ。気ぃ使って、空気読みで、周りの顔色伺ってばっかで。
そういうことができないから、爆発しそうだったから!…俺が生まれたんだ。あんまりだろ。何もしてねえんだぞ。「僕」は。
エス
そうだったとして、ミコトの意思ではなかったとして…人の命は失われている。
中身がジョン、お前だったとして、それを証明する手立てはない。少なくとも 裁判で完全に通ることはない。虚言だと判断されることだって…
ミコト(ジョン)
お前は!…お前は、どう思うんだ。
エス
僕…
ミコト(ジョン)
やったのは俺だ。「僕」はやってない。お前はミルグラムによってそれを知っている!
刑法なんてどうでもいい…!お前はどう思うんだよ!!
エス
…!
ミコト(ジョン)
「僕」を赦してやってくれよ。やったのは俺なんだ。
エス
すぐには…判断できない。そう簡単に赦すと判断できることではない。
事実、ミコトの心象風景はあまりに残虐なものだった。赦さない。
そう判断した。
ミコト(ジョン)
それは多重人格がフェイクの可能性があるからだろ。「僕」は本当に悪くない。殺したのは俺だ!お前なら納得できるのか!朝起きたら人殺しになってるんだぜ。
エス
お前を生み出したことが、罪と言えるかもしれないっ!
ミコト(ジョン)
なっ…?!…。…多分、俺は「僕」にとっての理想の自分だ。窮屈な理不尽や ストレスに泣き寝入りしない、やり返せる自分だ。俺という人格が生まれなきゃ、 「僕」はきっと限界が来て壊れてた。
エス
ジョン、お前…
ミコト(ジョン)
確かに…全部ぶち壊してくれる存在を願ったのは「僕」だ。一人で立ち向かえなかった「僕」の弱さが原因かもしれない。でも、それだけだ。それが罪か。
エス
それを考えるのはこれからだ。
ミコト(ジョン)
お前と話して、俺がやったことが赦されないことだというのはわかった。それには納得だ。
エス
あぁ。そうだな。
ミコト(ジョン)
ミルグラムの判断対象は「僕」。ミコトだな。俺…つまりジョンではねえ。
エス
その通りだ。
ミコト(ジョン)
「僕」を赦してやってくれ。そうでなければ、「僕」はきっともう耐えられねえ。
エス
別の人格が起こした罪は罪ではない。そう判断しろと言いたいんだな。
ミコト(ジョン)
…あぁ。「僕」を許してくれるなら、俺は消えてやる。
エス
…!
ミコト(ジョン)
…そう、最終的に俺はいなくならなきゃならない。
全部、全部引き受けていなくなる。俺は「僕」を守るために生まれたんだから。
エス
…そのために…生まれた。
ミコト(ジョン)
あぁ。「僕」を守るためだったら、俺は…なんでもやるんだぜ。

(荘厳な鐘の音)

エス
…ジョン。
ミコト
うーん…なに?犬の名前?
エス
ミコト…!
ミコト
看守君、犬飼ってんの?!犬種何?あ、待って当てさせて!…トイプー?いや、意外とブサかわっぽいのが好きかも。…フレブルとか。
エス
違う。
ミコト
じゃあパグ!?
エス
犬の名前じゃない!!
ミコト
えー。じゃあ何よ?
エス
…お前の…友の、名前だ。
ミコト
…?ふふっ…そんな人知らないよぉ!
エス
そうだろうな。
ミコト
…?
エス
…囚人番号9番ミコトお前の罪を歌え。


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