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MILGRAM カズイ第一審文字起こし

カズイ
さて、どう出るかな
エス
待たせたな。囚人番号7番カズイ
カズイ
失礼するよ。
エス
何?
カズイ
悪いね、ちょっとばかし身柄を拘束させてもらうよ
エス
貴様無礼だぞ
カズイ
いたくしないから暴れないで…とあれ?なんだいこれ。力が入らないね
エス
囚人番号7番カズイ、おい自分がやったことの意味がわかっているのか。これは、重大な反逆行為だ。おい。聞いているのか、カズイ
カズイ
看守くんに殴りかかろうとしたら、こぶしがピタッと止まった。フウタの証言から見えない壁のようなイメージを持っていたんだけどね。だからサブミッションならどうかと思ったんだけど、決めようとしたら途端に力が入らなくなった。これは…ふふ、何だろうね、まるで俺自身が君を攻撃することを嫌がっているような…
エス
僕も詳しくは知らない。囚人から看守への攻撃はできないとだけ聞いている。
カズイ
なるほど。いや、でも魔法みたいなバリアじゃないだけで、おじさ的には助かるね。まだ現実の路線で考えられる。そっちも眉唾だけど、催眠術みたいなものとか。
エス
おい、そんなことはどうでもいい。そこに座れカズイ。
カズイ
はい、はい。
エス
囚人風情が看守の僕を拘束しようとするなど、思い上がりも甚だしい。許さないと即断してもいいんだぞ、こっちは。何か申し開きがあればいいってみろ。
カズイ
うん…ごめん!
エス
は?
カズイ
ごめんごめん。元々看守くんに危害を与えるつもりはなかったんだよ。何分こっちも情報不足でさ。安全に制圧して、いろいろこの監獄の情報を聞き出したかっただけさ。ほらぁ、場合によってはみんなを連れて脱出しないといけないかもだし、一応おじさん最年長だからさ。看守くんに武力が通じるかは検証しておかないと
エス
普通、僕の目の前で言うか、そういうこと。
カズイ
言っても大丈夫な子だと判断した。
エス
ほう?なめられたものだな。
カズイ
いやいやそうじゃない気を悪くしないで。これは推測なんだが。俺たちが君を攻撃できないように、君が俺たちを攻撃する手段もないと踏んでいるんだ。
エス
ふーん?
カズイ
どうだい?
エス
…ふんっ。(ビンタの音)
カズイ
…痛い…
エス
どうした。攻撃できたぞ。
カズイ
そ、そういうことじゃないってば…まったく手が早い子だ
エス
なんだ。早く要点を言わねば、もう一撃ビンタを喰らわすぞ。
カズイ
ちょ…わかった。待っておくれ…。おそらく期間が決まった監視を目的としているからか。俺たちに致命的な危害を加える手段が用意されていないんじゃないかな。肉体的な罰則や拷問の類みたいなね。でなければ今君に害しようとした俺に何らかの処罰を加えているはずだ。そしてさっきの口ぶりからするに、君もこの状況のメカニズムを完全には理解していない。何者かからの指示で動いているようだ。
エス
何が言いたい。
カズイ
つまり、看守と囚人という立場にわかれているだけで、俺たちは情報が足りないまま役目を全うしている。という意味でフェアだとも言える。
エス
僕とお前たちが、フェアだと…?
カズイ
ま、推測にすぎないけどね。希望的観測も含めて、看守くんには俺の思惑を話しても大丈夫だと判断したってわけ。
エス
ふぅん…?しかし、よく喋る男だな
カズイ
おっと…確かに。ははは…若い子相手に長話。おじさんの良くない癖だ
エス
まぁいい。お前の言うことはなかなか興味深い。確かに僕もミルグラムについて知らないことがあるのは事実。
カズイ
うんうん。
エス
だが、僕はこのミルグラムの監視でお前は囚人だ。それに間違いはない。
カズイ
うんうん。
エス
僕のやることは変わらず一つだ。囚人番号7番カズイ。尋問を始める
カズイ
なるほど。若いのにプロだね。ふふっ…いろいろ教えてもらったし、こっちも付き合おうじゃないか。取り調べされるのは初めてで新鮮だ。改めて椋原カズイ。39歳だよ。よろしくね、看守くん。
エス
お前たちは皆、人殺しの囚人である。カズイ。お前も例外ではないな?
カズイ
人殺し…ねぇ…?まぁ、否定はしないよ。
エス
ほお?認めるんだな

カズイ
認める。少なくとも俺は自分を人殺しだと思っている。後悔もしてる。反省のしようはないけどね。
エス
反省のしようがない?
カズイ
それよりその話、一体どこが情報源なんだ?俺以外に俺を人殺しと捉える人間は数少ないはずだよ。
エス
どういう意味だ?
カズイ
例えば、無罪放免になった人殺したちを集めてきて、代わりにさばこうとしてるとか、そういう頭のおかしい連中かとも思ったんだけどね。俺の、これを人殺しとするならば、あまりにも解釈が広すぎる
エス
おい、カズイ。今はお前が質問する時間ではない。
カズイ
それに俺を人殺しと認識するにも、俺について深く知る人物でなければ不可能だ。一体何者が俺たちを捕らえているのか。謎だね。
エス
どうでもいいし興味がない…僕はお前を赦せるか赦せないかだけわかればいい。
カズイ
おや?気にならないのかい?自分が誰の命令で動いているかもわからないままで?
エス
不要だ。それに、考えると調子が狂う…
カズイ
…そういうものかな。
エス
いいから探偵ごっこはやめろ。不快だ。
カズイ
はいはい。
エス
ふん…カズイ。他の囚人との関係はどうだ?
カズイ
あぁ、いいと思うよ、心配しなくても皆仲良くやってる。若い子がストレスを抱えても仕方ないと思っていたけれど、上手いことバランスが取れてるね。
エス
そこは誰に聞いても大体同じだな。囚人同士で諍いなどは起きていないと
カズイ
それも今はっていうとこじゃないかな。何を考えているかわからない子もいる。そっちの出方次第でどうなるかわからないからねぇ…
エス
ふぅん?
カズイ
あっ、監獄の環境が良すぎるのもあるね。なんならずっとここで住んでいたい子もいるんじゃない?なんでこんな環境が用意されてるのか…
エス
おい、質問のたびにこっちから情報を引き出そうとするな。
カズイ
はは…ばれたか。まぁ許してよ?おじさん大人だからさ、少年少女たちのために少しでも情報持って帰らないと…
エス
お前もシドウと同じだな気に入らん。余裕ぶって…大人というのはみんなそうなのか?
カズイ
シドウくんもそうだった?彼は本当に冷静で余裕なんじゃないの。肝っ玉も座ってそうじゃない。
エス
お前は違うのか?ずっとヘラヘラしてるように見えるが…
カズイ
そう見えるのかい…そいつは良かった。
エス
何がいいものか。気に入らないな。自分をこう見せようという意識が確立した笑顔だ。他人からの印象で逆算された。嘘が張り付いたような顔をしている。
カズイ
これはこれはなかなか手厳しい。怖くないわけじゃないよ、俺だって。でも、俺は年長者の責任もあるしね。こういう異常事態の中でも、少年少女の前でうろたえるわけにはいかないじゃない?ま、大人は常に本音を隠してても笑顔でいる必要があんのよ?君達若者に失望されないようにね
エス
そうか
 
 
カズイ
嘘が張り付いてると言われればそうかもね。悲しいことに、嘘がうまくなんのよ大人になるとね。
エス
大人、ね…
カズイ
君には、ばれてしまうんだな…?もしかしたら不思議な力があるのかもしれない。
エス
ふっふふふ…
カズイ
ん?
エス
なぁカズイ。
カズイ
なんだい?
エス
それも嘘だな。
カズイ
へ?
エス
弱みを見せて、こちらの心をほどこうとする。それも、大人とやらのテクニックか?
カズイ
ハハハ…なあにを言っているんだよ
その笑いをやめろ。不快だ
カズイ
おいおい…一体どうしたって言うんだ?
エス
そうやって痛みなく、負けたふりが上手くなるのが大人か?それでうまくやってこれたか…見せるための弱みを用意している。それに騙される奴もいるか。なるほどなるほど。長く生きると、そういうことができるようになるんだな…わかるさ。お前の嘘が、人を殺したな。
カズイ
はぁ…(ため息)
エス
あくまで推測だがな。
カズイ
意趣返しのつもりかな?
エス
どうだ?
カズイ
ま、それも否定はしない。大人ってそういうもんなんだよ。
エス
大人をお前の弱さの理由にするなよ。見苦しい。この場所においては、お前が大人でも子供でも関係ない。ミルグラムはお前自身をどこまでも見つめて逃さない。
カズイ
うーん…なるほどね。君の言う通りかも知れない。深い傷をつけないように受け身を取ることばかり上手くなっていく。ああ。…そうだ。確かに俺の嘘があいつを殺した。そして今も俺は何変われていない。違うな。こう生まれてしまったからには変われない。…だが、俺の気持ちも知らずに知ったふうな口をきくなよ。子供が。
エス
っ…。初めまして。椋原カズイ。ようやくお前と目が合った気がするよ…。よろしく。僕はエスだ。ミルグラムの看守をしている。
カズイ
ふぅん…。…はっ。おしゃれな言い回しするね。ま、後悔しないようにね、こういう付き合いは痛みを伴うぜ?
エス
構わないさお前らと痛み合うのが、僕の仕事だからな。
カズイ
うん。プロだね。
エス
きっと人の罪を覗くというのは、それくらいの覚悟のいることなんだろうさ。

(荘厳な鐘の音)

カズイ
おい…なんだい?
エス
尋問終了の時間だ。惜しいな?今からが本番だったのに。
カズイ
助かったこっちはお腹いっぱいだよ。
エス
…そうだ。カズイ?さっき俺の気も知らずにといったな
カズイ
ああ…まぁ…改めて言われると恥ずかしいね。子供を相手にそんなこと言っちゃって。
エス
安心するがいい。今からお前の気を知りに行く…
カズイ
心を歌と映像にする…そっか。
エス
そういうことだ。
カズイ
あぁ…看守くん…
エス
なんだ?
カズイ
知っての通り、俺はこういう性格でさ、自分のことをまともに人に話すことができないんだ。図体だけは大きいのに女々しいとこあるんだよね。
エス
自虐には興味がない。
カズイ
今この状況になって思うことがある。…これは…。俺は隠してきた俺自身の罪を…弱さを。誰かに無理やり暴かれることを心のどこかで期待していたのかも知れない。
エス
カズイ…
カズイ
どうだい?大人って不器用だろう?
エス
うるさい。お前が不器用なだけだ。
カズイ
ははははは…手厳しいね。だけど、悪くない。
エス
囚人番号7番カズイ…さあお前の罪を、謳え。

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