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MILGRAM シドウ第二審ボイスドラマ文字起こし

エス
久しいな、シドウ
シドウ
右眼窩底骨折。外傷性網膜剥離、打撲、裂傷、胸部の不全骨折。
梶山くんの現状です。
エス
フウタの…
シドウ
椎名君はさらにひどい。頭部裂傷、全身打撲、左前腕の骨幹部骨折、頚椎捻挫、 肋骨骨折、左脛骨の骨折。そして専門外も甚だしいですが、 精神の衰弱が著しい。心身ともに限界です。もうやめましょう、エスくん。君がいない間に、たくさんのことが起きました。
このままでは死人が出ます。
エス
…わかっている。コトコの行動は、僕にとっても想定外だ。今回の第二審で、今一度、審判…
シドウ
違う!…ミルグラム自体を辞めるべきです。俺たちのため、そして君のためです。
エス
…できない。
シドウ
なぜです。
エス
止める方法など、皆目見当もつかない。
シドウ
…!
エス
僕の意志程度でミルグラムは止まらない。それだけはわかる。お前たちの審判を終えるまで 止まることはない。確信がある。
シドウ
君も俺たちと同じなんですね。大きな流れに巻き込まれているだけだ。
エス
一緒にするな!…お前は囚人、僕は看守。一度始めたことは 最後までやるつもりだ。
シドウ
エスくん…
エス
しかし、しばらく会わない間にずいぶん目に生気が満ちているじゃないか。
シドウ
…!
エス
以前は生きているのか死んでいるのかよくわからない顔をしていたが。
シドウ
そうですか。
エス
第一審の結果を受けてのことか。
シドウ
その件について、君の考えを聞かせてほしいと思っていました。君はなぜ俺を赦したんですか。 赦さないでほしいと言ったのに…
エス
なぜ看守が囚人の言うことを聞かねばならない。僕は僕自身の基準で決める。
シドウ
君は俺の心象を見たのでしょう。俺以上に人を殺した人間はそういないはずです。 赦されなかった赦されなかった囚人たちも、俺に比べれば大したことをしていない。
エス
お前は医者だ。僕はお前の人殺しは医療行為による殺人だと推理している。
シドウ
…っ!
エス
臓器移植だ。 いわゆる脳死状態の患者から臓器を摘出する行為。お前が言っている人殺しとはそれだ。違うか。
シドウ
なるほど。それは俺の心象に映っていたんですか?
エス
もちろん直接的ではないがな。あらゆる情報からその可能性が高いと僕たちは考察した。
シドウ
僕たちとは。
エス
…?
シドウ
今、僕たち…と。
エス
…僕が…そう言ったのか?
シドウ
?…ええ…。
エス
…いい。気にするな。話を戻すぞ。僕の推理の話だ。
シドウ
凄いですね、ミルグラム。別にここが超常空間であることを今更疑ってなどいませんが。 本物ですね。
エス
正解ということか。
シドウ
…まぁ、半分というところですかね。
エス
…ふん…どちらにせよ、僕は医療行為による人殺しを赦すと判断した。お前が何を望もうと関係ないね。 僕なりに調べたつもりだ。脳死患者を死んでいると捉えていいのか、そのあたりの議論は常に繰り広げられていたようだな。
シドウ
よく勉強していますね。
エス
ただ、お前らの世界の議論に興味はない。僕はお前を赦すと判断した。それでいい。
シドウ
…。…それは…なぜですか?
エス
そもそも臓器移植に携わることは医者としての仕事だ。お前が自由意思で行ったことではないだろう。
シドウ
俺は…自分の仕事に誇りを持っていました。良き行いであるとね。自分の意思ではないとは言えません。
エス
人を救うための行いだろう。事実、それによって救われる人間もいるはずだ。
シドウ
俺もそう思っていましたよ。そういった大義名分を掲げて、何の疑いもなくね。
エス
…死を待つしかない人間の命で、生き残れる可能性のある人間を救えるんだろう?ならば、考えるまでもないだろう。
シドウ
俺もそう思っていました。強慢にもね。
エス
今はそう思わないということか。
シドウ
ええ…そうですね。俺はね、臓器移植に反対する脳死患者の家族を説得し続けてきたんですよ。 今エス君が言ってくれたような理由を盾にね。あなたの知らない他の誰かの命のために、 あなたの家族を殺させてくれと言っていたんですよ。それがどれくらい残酷なことか、少し考えればわかるはずなのに…。俺は最後の最後まで分からなかった。
エス
あまりにも疑惑的じゃないか。家族であろうと関係がないように思えるが。
シドウ
それが自分の家族でも同じように感じますか?エス君。 君の家族はご健在ですか?
エス
わからない。覚えていない。
シドウ
あっ…そうですか。それは申し訳ないことを聞きました。
エス
構わない。覚えていないものに感傷も何もないだろう。それに自分の家族が対象であろうと、 僕の判断が変わるとは思えないな。
シドウ
そんなことありませんよ。
エス
たとえミルグラムの囚人に僕の家族がいようと、僕は仕事を全うしてみせるぞ。
シドウ
家族は…特別です。
エス
あぁ?
シドウ
少し雑談をしましょうか。刑法は勉強済みですか。
エス
まぁ、有名どころはな。看守の仕事を始めてから勉強している。
シドウ
素晴らしい。例えば、罪を犯したものを匿ったり、加害者を助けるために 証拠を隠滅したりすることは罪になりますよね。
エス
103条と104条だな。
シドウ
よく覚えていますね。105条も覚えていますか。
エス
…いや。詳しいのか?
シドウ
専門家ではないですが、とても印象的で覚えているんです。105条はですね、 前2条の罪については、犯人または逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯した時は、 その刑を免除することができるとあります。
エス
…。つまり、犯罪者をかくまい、助けたとしても、親族であれば無罪であるということか。
シドウ
そうです。俺には刑法ですら、どんな状況でも家族は助け合うものだと言っているように思えました。
エス
興味深い話だな。だが、いまいち何が言いたいかわからん。
シドウ
ふふ…なんでしょうね。エス君に聞いてほしかっただけですかね。
エス
相変わらずいまいち掴めない男だ。
シドウ
俺はもうエスくんのように自分の行いに大義名分を掲げられなくなったという話です。
その資格がなくなった。
エス
お前の考えを変える…何かが起きた。
シドウ
そう…ですね。それも心象を見ればわかるのでしょうね。
エス
あぁ、見せてもらうとしよう。
シドウ
エスくん。俺は大量に人を殺している。以前の尋問でも言った通り、利己的な理由でも殺しています。ですから…
エス
また赦さないでほしいと懇願するつもりか?無駄だと言っているのに。
シドウ
ええ。俺を赦さないでほしい。そのはず…なんです。
エス
…?
シドウ
俺は…俺を赦さないでほしい。その気持ちは変わらない。罰されなければいけない。俺が罪を償わなくてはいけない。 ミルグラムが正しいとは思わない…!しかし!…俺の罪を罰するためにここほど適した場所はない。ですが、ミルグラムがこのまま続く以上、俺が赦されないと傷ついていくみんなを救えない。
エス
…!
シドウ
今も椎名くんは予断を許さない状態です。俺の治療がないと生きられない。俺が赦されなければ死んでしまう。
エス
それは…事実だろうな。
シドウ
これからもきっと囚人同士の争いは増えていく。俺がいなければ、彼らはより危険な目に遭ってしまう。
エス
…シドウ。

(荘厳な鐘の音)

シドウ
俺は罰されなければならない。だが…生きなければならない若い命が失われてしまう。 俺は何を願えばいいのかがわからなくなってしまった。こんな俺が、生きたいと、赦されたいと思ってしまっている。罪深い、この俺が。
エス
シドウ、僕が言ったことを覚えているか。いつ死んでもいいという態度のお前に、 僕は必死に生きたいと願えと言った。生への執着があるからこそ、罪に対しての罰は存在する。
お前の存在は、ミルグラムと僕への暴徳だと。
シドウ
ええ。…覚えています。
エス
ようやくだ。生への執着を得て、お前はようやく真にミルグラムの囚人になった。そう思う。
赦されたいという気持ちの芽生えも、正真正銘お前を表すものだ。
シドウ
…ダメなんですよ。俺は赦されてはならない。でなければ、俺に殺された無数の命が報われない。
エス
はっ…お前が本当に殺した人間への食材として命を差し出そうとしているのならば、 どうしても生きたい理由でもなければ釣り合わないだろ。放り投げてもいいような命で向き合うなよ。
シドウ
エスくん…キミは…厳しい…人ですね。
エス
前も言っただろ。お前はトップクラスに気に入らないからな。
シドウ
ははっ…残念ですね。ミルグラムに来てから子供に嫌われがちだ。好きなんですけどね。
エス
ふん…知ったことか。だが、だがな。フウタと、マヒルを救ってくれてありがとう。このミルグラムにお前がいてくれてよかったと 心から思っている。
シドウ
…!エス…く…ん…
エス
以上だ。囚人番号5番、シドウ、お前の罪を歌え。


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