一、禁酒番屋 馬風

落語協会最高顧問の鈴々舎馬風師匠というと、一般的には柳家かゑる時代のキックボクシングの司会、テレビ東京でのハリセン大魔王、そして何と言っても名作「会長への道」というイメージかと思います。
かつて、誰も会長になるとは思っていなかったころに、放送で「会長への道」を聴いて大爆笑した記憶が私にもあります。
先輩落語家を、「もう長くない」「糖尿だから」とか「そろそろうれしい知らせが・・・。」と言ってみんな殺してしまうようなすごい内容でした。
小さん師匠もよく許していたと思います。
それが、本人が会長になってしまってからは、もちろん「会長への道」は出来ないネタになってしまいましたし、寄席では「男の井戸端会議」と称する漫談ばかりとなってしまいました。(ひばりメドレーというのもありましたけど。)
同じような内容の漫談でも、それなりにウケるのは、話術が巧みだからなのでしょうけど、「会長への道」に比べたら爆発力が落ちます。
ホームページのタイトルは「国宝への道」となっていますが、まあ、さすがにこれは・・・実現しないでしょう。

さて、そんな馬風師匠が、まれに古典落語を演じると、エっというくらい良いものを聴かせてくれます。
ご本人は「何をやっても小さんの口調になってしまう」等と語っていますが、どうして中々結構なものだと思います。
最初に聴いたのは2006年に大銀座落語祭(懐かしいですね)での「紙入れ」でした。
入船亭扇橋師匠の「鰍沢」を目当てに行った会で聴いたものでしたが、漫談のイメージしかなかったので大いに驚き、周囲の落語ファンに良いものを聴いたと語った記憶があります。
特に「禁酒番屋」「猫の災難」といった噺に関しては、五代目小さん師匠の落語を継承していると言って良いのではないでしょうか。

そんな馬風師匠の古典落語を久々に聴こうと思い立ち、「禁酒番屋」がネタ出しされている22日に国立名人会に行ってきました。
前座時代に覚えたということを以前テレビで語っていた馬風師匠の得意ネタです。
酒に関するマクラは寄席での漫談でも話している志ん生師匠のこと、三平師匠と銀座の話を15分ほど。
本題では、禁酒番屋の侍の態度があの体格にぴったりでしたし、酒カステラ、油、小便と進んでいくにつれての酔いっぷりも結構なものでした。
馬風師匠が言い淀む場面というのは、漫談系の演目でも記憶にないのですが、古典でも言い直す場面の記憶はなく、あのハキハキした流暢な口調で聴きやすいというのが特徴と言えるのではないでしょうか。
「紙入れ」だと、新さんの狼狽ぶりが傑作ですし、「猫の災難」では酔っぱらいの狡そうな面が良く出ています。
馬風師匠がネタ出しの会で古典を演じる場合、ネタは限られているかも知れませんが、期待して良いものだと思いますので、チャンスを見つけて一度きいてみてはどうでしょうか。

(参考)
第382回国立名人会

柳家小はぜ 子ほめ
柳家禽太夫 蛙茶番
林家しん平 お血脈
柳家小のぶ 厩火事
ー仲入りー
むかし家今松 水屋の富
大空遊平かほり 漫才
鈴々舎馬風 禁酒番屋

(文/トーリスガリー 2015/2/22「第382回国立名人会」@国立演芸場)

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